竜肉
「取り合えず、大砲の件はどうする?運営が許可しているって事なら、どんどん世間に広めたほうがいいかな?」
俺は三人に対して問うてみる。
「でも、そんなことすると、火薬の値段が値上がりしちゃうんじゃないの?そうなったら……なんというか悔しくない?」
「デカパスの素材さえあればいいから、最悪自分たちで狩るって方法もあるぞ。それに、火薬のレシピを公開して儲かるのは俺だからなあ。」
「セイさんって金の亡者ですね。」
とフラウがツッコミを入れた。
うぐ!そう思われても仕方がないが……!
「それが錬金術師の考え方なのさ!俺から言わせれば戦闘職はみんな血に飢えた戦闘狂だからなあ。」
「む。確かに。研究に大金を投じてその成果で大金を得る。それが錬金術師の楽しみ方って訳ですか。ちなみに、鍛冶職人はどうなのですか?」
「私の場合ですと、チャクラム作って儲けてみたり付与術の練習がてら付与の受注などが収入源でしたが、それではあまり儲かりませんね。ですから、大金を得るという楽しみ方は出来ないですね。おそらく、鍛冶職人の楽しみ方は『プレイヤー一人一人に合わせた武器を作る』ことでしょうか?」
「つまり、『アルカディア専属鍛冶職人』みたいな?」
「そんな感じですかね。私はどこにも属していないですが、それは珍しいのではないかと。」
「ちなみに、ソロプレイしているのは、何か理由があるのですか?」
「フラウさん。それ聞いちゃいます……?」
悲痛そうな顔をするひまわりさん。これってつまり?あ。リア友がいないのか!
「え……っと?あ……すみませんでした!」
それを察したようで、フラウはすぐに謝った。
だが。
「あはは。冗談です。失礼しました。ちゃんとリア友もいますし、ゲーム内でも仲良くしてますよ。私がソロなのは自分が作りたいものを作る為です。私の作る物って癖ありな物が多いので。」
「と言いますと?」
「例えば、複数の部品を使った武器としてこんなものを作ってみたのですが、どれも使い勝手が最悪でした。」
と言って色々と武器を組み立て始めたひまわりさん。あ、シールドソード(試作品)もあるじゃん。使いにくかったのか、これ?
「へえ!変形する武器ですか!需要ありそうですが?」
「毎回組み立てないといけない上に、修繕費が二倍となります。」
「……それはちょっと……ですね。」
「これなんて、作ったはいい物の、修繕費が50倍になる最悪な品でして。あはは。」
「なんだこれは。鞭ですか……。」
と言いながら若干顔を引きつらせた俺。え?これって武器になるの?
「ええ。紐ではなく『金属の鎖』で作ってみたんです。強力になるかなと思って。確かにそこそこの威力は出ましたが……。」
「修繕費が50倍だった訳ですね……。なるほど……ロマンを追求した結果がこれという訳ですか。」
「そうなんです。この鞭だって、組み立てやすいのに壊れにくいようにかなり苦労して作成したんですよ!でも、いざ完成してみて『使えねーな!』ってなりました。」
「なるほど……。」
「ちょっと待って!フラウは疑問に思わないのか?」
「何をですか?」
「鞭って武器としてどうなんだ?!」
「え?知らないんですか?一部の女性プレイヤーに人気なんですよ。」
「そ、そうなの?」
「はい。といっても、金属製ではなく、皮製ですので、修理費は安いですが、威力は出ないようですが。」
「へ、へえ。」
なんだなんだ?AWTには鞭を振り回す趣味がある女性プレイヤーが一定数以上いるの?一応確認だけど、PvPはないんだよね?ね?
※武術大会時など、例外を除きPvPは出来ないです。
結局、火薬の事は一気に世間に広めようという話になった。「そんなことしたら、苦労してレベル上げをしてきたプレイヤーが不満を抱かないか?」と思うかもしれないが、その心配は少ないだろう。
というのも、大砲一発にかかるコストが莫大だから、「新規プレイヤーが爆弾を使いまくって楽にレベル上げ」ということは考えにくい。また、いくら強い攻撃アイテムを手に入れても、ボスの所まで行きつく相応の力を持っていないといけない。つまり、竜を使ったレベル上げは、「ゴールド」と「比較的強いプレイヤーとの人脈」が必要であり、苦労してレベル上げをして来たプレイヤーが不満を感じる事も少ないだろうという事である。
◆
「ところで、竜を倒したときのドロップアイテムをチェックしてなかったな。……竜肉×3か。」
「私もですね。竜肉×3です。」
「通常ドロップ品ね。残念。流石のお兄ちゃんでも、レアドロップは引き当てなかったようね。」
「みたいだな。ちなみに、レアドロップは何なの?」
「まだ不明よ。」
「そうなんだ……。ちなみに、竜肉って何になるんだ?」
「ギルドで買い取ってくれますよ。結構高額で。」
「へえ……。俺個人的には食べてみたいな!」
「ええ!もったいない!です!」
「フラウはゴールドにしたいのか?でもさ、考えてみてくれ。竜肉が高いって事はきっと美味しい言う事だ。」
「ですね。」
「日常生活に例えよう。何かのきっかけで超高級牛肉ステーキを手に入れたとしよう。売って金にする?」
「……自分たちで食べますね。『こんなの食べる機会ないわよねーー!』とか言いながら。」
「そういう事だ。というわけで、俺は今から錬金室で……いや、ドルフに頼んで調理してもらうよ。」
「それじゃあ……私もそうしようかな。」
「お兄ちゃん!私にも!一口!頂戴ね!」
「もちろん。フラウも一緒に来るよな?」
「ええ。……話の流れで『行く』って言っちゃいましたが、これってもしかしなくてもナンパ?」
「そうと言えなくもないのかな?いや、そもそもナンパの定義って『面識のない人に対して』じゃなかったっけ?」
「ごめんなさい、そんな真面目に悩んでもらうつもりじゃなかったんです。とにかく行きましょう……。というか、自分で料理するんじゃないんですね。」
「こういうのはプロに任せた方が良いのだろう。」
◆
「おお!酒の錬金術師ことセイじゃねーか!」
「ちわ!ドルフ。近頃どうだ?」
「ふふふ!じゃじゃん!醤油!やっと完成したんだぜ!」
「おお!すごいじゃないか!じゃあ、早速味見したいな!ちょうど、良い肉を持ってきたから調理してくれないか?もちろん調理代は払うぞ。」
「お、おお。何を持ってきたんだ……?うお!幻の竜肉!どこで手に入れたんだ!狩ったのか?!買ったのか?!」
「ややこしい質問だな!自分で倒したんだぜ!購入したんじゃないぞ!」
「へ、へえ。……セイって錬金術師のクセに強かったのか?」
「ふふふ。生産職の本気さ。」
「は、はあ。で?竜肉を焼き鳥……いや焼きドラゴンにして食べるのか?」
「ああ!ドルフなら美味しく調理してくれるだろ?」
「うーむ。まあ、やってやろうじゃねーか!美味しくしてやるよ!ところで、代金をチャラにする分、ちょっと味見させて貰っても?」
「ちょっとだぞ?ただでさえ、こっちは人数が多いから。」
「……連れが女性三人。そういう関係じゃないって分かっててもなんかイラっと来るな。」
◆
「で。これが竜肉の焼き鳥。」
「これが、竜肉の串焼きですか。」
「緊張するな。」
「よし、せーので食べるぞ。せーの!」
「「「「フォーーー!!うっめえーーー!」」」」
すげえ。旨い!うまみ成分が凝縮された味だ!
グルタミン酸がギューーッ!と詰まったこの味!
「「「「最高!」」」」
いつもお読み頂きありがとうございます。
今後とも本作をよろしくお願いします。