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パフォーマンス

 「大砲は二つあるので、一つに3つずつ火薬を仕込みましょうか。」


 「そうだな。で、発射する弾を詰めてっと。」


 「準備完了ですね。どれくらいのダメージが出るでしょうか……?」


 「現在『スライムは瞬殺』『ミスリルを破壊可能な強さ』としかわかってないからなあ……。」


 「楽しみですね!」


 「ああ!」


 現在俺たちがいるのはボス部屋の前。リオカ達とは別々のパーティーとして参加するので、ここでいったんお別れだ。

 ちなみに、ボス部屋は扉に触れた瞬間、異空間に飛ばされ、そこで水竜と戦うことになるらしい。最大30個の異空間が並列存在可能であるらしい。まあ、言ってしまえば「レベル上げしたい人が押しかけてきても混雑しないように」という運営の配慮である。こればっかりは「いかにもゲームの世界」であるが、それは言わない約束だろう。

 幸い、順番待ちをしている人はいなかったので、扉の前でのんびりと準備する事が出来た。


 「さて、準備も整いましたし、行きますか!」


 「おう!」


 俺たちは扉に手を触れた。次の瞬間、視界がぐにゃりと歪み、俺達は真っ白な世界へと移動させられた。



<ゲートシティ西のボス『水竜』に挑みます>

<パーティーメンバー>

・セイ

・ひまわり

<協力パーティー>

なし


<これでよろしいですか?(Yes)/(No)>



 真っ白な空間に現れたのは竜ではなくシステムメッセージだった。


 「これは……どういう意味だろう?Yesでいいんだよな?」


 「たぶん……。『協力パーティー』の項目があるということは、レイド向けという意味ですかね?」


 「そうなの?」


 「普通、最初に攻撃を当てた人とそのパーティーメンバーだけがそのモンスターの討伐権を持ちます。逆に言うと、複数パーティーが協力する形式は基本的には存在しません。」


 「なるほど。そういえば、アルカディアが初めて水竜を討伐した時も大人数で挑んだって聞いたな。」


 「で、私達の場合、誰かに見られるわけにはいきませんので、協力パーティーは無しでいいですね。それじゃあ、『Yes』っと」


<ボス空間に移動します>


 そのシステムメッセージが表示されるや否や、再び俺たちの視界が歪み……。


 グルルルルルーーー!ギャオーーーーーー!

 竜のいる部屋に転移したのだった。


 「いくぞ!出来るだけ接近して!」


 「心臓に大砲をぶち当てる!」


 ギャオーーーー!

 竜が大きく息を吸い込むと、竜の首元に真っ赤なオーラが漂い始めた。あれはもしかしなくても……!

 「ブレスが来ます!殺される前に一発撃ち込みますよ!」


 「おう!いっけーーーーー!」


 「「BURN(燃えろ)!」」


 バゴォーーン!

 映画でしか聞いたことが無いような爆発音が耳を通り抜ける。

 何が面白いって、ゲームである以上、大きすぎる音を出して鼓膜が破れたら大変だ。だから、一定以上の大きさの音が耳に入った際、システムが自動的に音の振幅を弱めてくれる。おかげで、アクション映画を見ている感覚で爆発音を楽しむことが出来た。


 「実際、この音を聞いたら鼓膜が破れていたんだろうなあ……。」「調節プログラムが組み込まれてなかったら大変だっただろうなあ……。」


 「「うん?」」


 俺とひまわりさんは顔を見合わせる。


 「もしかしてひまわりさんも今の音を聞いて振幅自動調節機能の事を思い出していた?」


 「そうです!もしかしてセイさんも?」


 「ああ。奇遇というかなんというか。」


 「私達、気が合いますね!」


 「だな!」


 「「あははははーーー」」

 大砲の事なんて忘れて、俺達は思考回路が共鳴していた事に驚き、楽しんだのだった。



 「そういや、水竜ってどこにいったんだ?」


 「あれ、そういえば……?」


 和やかムードだった俺達だが、自分たちが今、竜の居るボス部屋に居る事を思い出した。確かブレスとやらを放とうとしていたんだよな?


 「消えちゃいましたね?」


 「ほんとだな。逃げたのかな?」


 「そんなことがあるんですか?」


 「いや、俺には分からないが……。」


 「……帰るにはどうしたらいいの?毒薬飲んでリスポーン?」


 「いや、あそこに出口らしきものがありますよ。」


 「ほんとだ。入ってみるか……。」


 怪しげな扉をくぐる俺達。そこは真っ白で小さな部屋であった。目の前には青色に輝く宝石が置いてある。


 「これを触ればいいのかな?」


 「かもしれないですね。異空間から出るスイッチ的な物なのかもしれません。」


 「だな。せーので押してみようか。」


 「分かりました。せーの!」


 ぐにゃり。視界が歪む。視界が暗転し、次に視界が開けた時に俺たちが居たのは……。



 「うん?アクアシティに到着したのか?」


 「みたいですね。セーフティーエリア内に帰ってこれて良かったです。」



 「あ、お兄ちゃん。おかえり~。どうだったの?」


 「む?リオカじゃないか。いやな。よく分からんのだが、途中でドラゴンが消えちゃってね。」


 「は?」とリオカが首をひねる。


 「死に戻ったのではないのですか?」とフラウが聞く。


 「そうなんです。ほんとに急にドラゴンさんが居なくなったんです。」とひまわりさんが言った。


 「そんなことってあるのかなあ?バグ?」


 「さあ?あ、過去ログ見れば分かるか。ステータスオープンっと。……うん?」


 「何か書いてあった?」


 「なあ、レベルが1→25に上がっているのだが?」


 「あ、私もレベルが18→27に上がってます!……え?」


 「「大砲一発でドラゴンのHPの65%を削ったみたい(です)。」」


 「「は?」」





 AWTにログインした人々は思うだろう。「きれいな街だ」「穏やかな空間だ」などと。

 そして、初めて魔物と対峙した時、彼らはこう思うだろう。「デフォルメされたキャラデザインだ(スライムの事)」「かわいい(ホーンラビットの事)」「かっこいいな!(オオトカゲなど)」などと。


 しかし、AWTの世界はそんな甘い場所ではない。綺麗に見えるのは全て表面上の物。最果ての地に封印された悪魔の城にて、魔王は人々に対する憎しみの感情を吐露していた。


……

………


 「く!あと百年で俺たち魔族が世界を支配する準備が整ったのに……!」

 魔王が叫ぶ。


 「残念だったな!貴様を倒してやる!この世界は人間の物だ!」

 と勇者の声真似をする魔王が叫ぶ。




 「……はあ。マジで俺の出番、いつ来るんだ?なんか、思ったよりも攻略速度遅くね?」

 と素に戻った魔王が言う。


 「生産職が少ない分、物の値段が高騰してますからね……。ウッドシティーやゴールドシティーどころか、ウィンドシティやファイヤシティーの発見もまだまだ先になりそうですね……。」

 と魔王の側近が手元のタブレット(・・・・・)端末(・・)を操作する。

 「おや?」


 「どうかしたか?」


 「おお!水竜が二人組に倒されたようですよ!」


 「ほう。それはどんなパーティーに?」


 「今映像を。」


 「へーー生産職の二人組か。おお!爆薬使ってるぞ。」


 「前にアルコール見つけたり綿菓子作ったりしてた旅人ですね。そういや、綿菓子美味しかったなあ。」


 「へえ。なるほどね。研究者体質のプレイヤーなのかな。」


 「ですかね。」


 「これを機に、生産職が増えると良いんだけどなあ。今のやつだって、ニトロセルロースだろ?大した強さじゃないよな?」


 「ですね。『魔王』のHPを1削ることも出来ないでしょうね。」


 「だよなあ。小数点以下切り上げにしてもらうか……?」


 「それはそれで厄介ですよ……。」


 「だよなあ……。はああ。早くここまで来てくれーーーー!」






ついに~最強~の片鱗がうかがえました。

色々なことを試せる「生産職」も立派な強者となり得ます。


一見、パワーバランスを崩しかねない発見ですが、運営からしたらまだまだ序の口のよう。運営が望むレベルは一体どこなのか……?


今後とも本作をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 65パーセント 倒してないのに、どこに行ったんだろう?水竜 うん? あ、二人で一発ずつ打ったって事かな?声が重なってた?から??
[良い点] ファンタジーと現代科学を組み合わせるとエグいな。
[一言] 綿菓子…どうやって手に入れたかな…? 変身みたいなスキル使っていたかな? …魔王と魔王の側近がお菓子食べているスムーズになった…
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