さあ!熟練度を上げよう
カーン、カーン!
アクアシティのセーフティーエリアを出た所にある巨大な湖。現在発見されている湖の中で最大の大きさらしく、「ビッグレイク」と呼称されているそうだ。そこには多くの戦士達が集い、モンスターを倒している。そんな多くの戦士達は今日、木を叩くような音を耳にしていた……。
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「ひー。木を叩くのって大変……。何がひどいって、木を倒してもベースレベルが上がらない所よな。」
俺はアクアシティの湖畔で一心不乱に薪割をしていた。時々奇異な目で見られるがそんなことは気にしない。叩いて叩いて叩く!その繰り返しだ。ちなみに、一度HPを削り切った木はアイテムをドロップし、即座にリポップするので、一見同じ木から永遠にアイテムを入手できそうに思える。だが、実際はそうではなかった。一度切った木は暫く『鑑定』及び素材入手の対象外になってしまうのだ。言わばただのオブジェクトと化してしまうのである。
そうはいっても、2時間もすれば復活する。なので、俺のするべき作業はと言うと、湖の周りをぐるぐると巡り歩き『農耕・理論』の熟練度アップを目指すだけの簡単なお仕事だ。現に、今は3周目に差し掛かったところである。
ところで、木はHPの設定があるとはいえ、モンスターという判定ではない。よってベース経験値は全く持って上がっていない。キャットフード用に魚を捕まえてもレベルアップしなかったのと同じ原理である。
「お!来た!熟練度あがったのかな?」
熟練度が上がるにつれて、ドロップ量が増加したり、高品質の物がドロップするようになるようだ。そして今ドロップしたアイテムを確認すると、品質が3の木材と品質が3の枝×2がドロップしていたのだ!
ちなみに、俺のインベントリはこんな感じである。
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木材品質1×123・枝品質1×197
木材品質2×13・枝品質2×34
木材品質3×1・枝品質3×2
※木材の種類は「松、白樺、スプルス」の3種類が見つかっている。
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この大量の木材、どうしよう……?品質2以下の木材は時間経過で壊れてしまう恐れがあり、家具や武器の材料には使えないし、ましてや建築には使えないだろう。
「あれえ~?セイさんじゃないですか!」
突然、後ろから声をかけられた。この声は……。
「ひまわりさん!こんなところで何を?」
金策をしに来た……ような雰囲気ではないな。なにせ武器を何も持っていない。(インベントリに入れてるだけかもしれないが。)
「実はですね、こんなものを作ってみたんですよ!じゃーーん!」
「わーお!釣り竿ですか!」
竿は縮ませることが出来る仕様であり、リールまでついている本格的な釣り竿である。
「ええ!シールドソードの目途が立ったところで、気分転換をしたいと思いまして。釣り竿を作ってみました。」
「すごいなあ……。縮む竿はまだしも、リール部分は作るのが大変だったでしょう……?」
「それなりに。でもまあ、カラクリ綿菓子君に比べたら全然何ともなかったですよ。」
「まああれは……すごかったですものね。」
カラクリ綿菓子。綿菓子を簡単に作る機械であり、ハンドルを回すだけで綿菓子が完成してしまう優れものである。確かにあれは凄かった。少なくとも俺には作れないと思う。
「さて、早速釣りを始めてみますか!」
「エサには何を?」
「これです!じゃん。モンスターの肉~!」
「マジスカ……。」
生のモンスターの肉である。釣りって練り餌、ゴカイ、ミミズ、エビなんかを使うイメージ。生肉で釣りって……ひまわりさんはピラニアでも釣ろうとしているのだろうか?
そんなことを考えてる間に、ひまわりさんは釣り針に肉をひっかけ、それを湖面へと投げ入れていた。
「釣れるといいなあ……。あ、セイさんも一緒にどうです?予備の釣り竿持ってますけど。」
「いいんですか?じゃあ……やってみようかな。」
ひまわりさんは釣り竿を渡してくれた。こりゃどうも。
お礼を言いつつ、俺も釣りの準備を始める。エサは瓶ドウに入れる用の練り餌である。
「それは一体?」
「瓶ドウに入れる用の練り餌です。」
「へえ……。」
「使ってみます?」
「いや、私には、モンスター肉がありますので。どうかお構いなく。あ!せっかくですし勝負といきません?」
「どっちが多く釣れたかって事?」
「Yes.」
「オーケー。手加減はしませんよ!」
「ええ!」
じゃあ、全力を使わせてもらいますか。『漁業の心得』!お、右側に魚群が居るみたいだな。それ!
「わお、もう食いついた。うりゃ!何が釣れた?おお!これは!」
「ええ!もう釣れたんですか?ってウナギじゃないですか!すごいーー!天然ウナギ!」
そう、釣れたのは天然ウナギ。爺ちゃんが子供の頃は近くの川でも泳いでいたそうだが、護岸工事とか水門の設置とかが行われた結果、今では天然ウナギを目にすることは無くなった。実際、天然ウナギは高級食品扱いである。
「だが、これを天然ウナギと言っていい物か……。」
「……そういえば、この世界自体が人工物ですものね。」
いつも読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
◆以下、完全に雑談です
ゲームの中にはレベルや熟練度を上げるためには長時間かけて周回をしないといけない物があります。AWTもそうですね。これは「長時間プレイしてくれた人が強くなれる」事を意識しているからでしょう。一日1時間しかプレイしていない人と一日5時間プレイしている人が同じくらいの強さと言うのは変ですものね。
でも、その差をあまりに顕著にすると「仕事とか学校とかで忙しい、俺たちの事を考えろよ!」と訴えるプレイヤーもいるでしょう。「大学の夏休み中のセイ」と「会社勤めのAさん」ではゲームに費やせる時間は大きく異なります。
双方の意見を尊重するのはとても難しい事でしょう。ですので、ソシャゲを作っている方には頭が上がらないなあと感じる今日この頃です。