農夫
「へえ……『農耕・理論』ねえ。」
ローズが驚いたような顔をしながら、俺の顔をまじまじと見つめてくる。
俺は先輩錬金術師(?)のローズにスキル『農耕・理論』を取得した経緯について話している。前に『植物図鑑』を解放した際に取得するべきか相談に乗ってくれたので、今回も色々教えてくれるかもと思った次第である。
「もう取得は……?」
「取得済みです。」
「農夫の友人から聞いたけど、植物系のアイテムの状態を見る事が出来るんだっけ?」
「そうです!というか、農夫の友人がいるんだ。」
「ええ。ヒールウィードを植えて育てている人よ。彼はギルドにヒールウィードを卸してくれるの。」
「へえ!そんな人が。そういえば、前に南を歩いてるときに農夫のおっちゃんを見た気がする。その人かな?」
「どうだろ?普通に野菜を作ってる人もいるからね。それはともかく、今はスキルの話よね。実を言うと、『農耕・理論』は農夫(婦)の初期スキル『農業』に付属するスキルなの。」
「付属する?」
「狩人はスキル『弓術』の熟練度を上げることで『疾風の弓=大ダメージを出す』『ドレインアロー=HP吸収出来る』などのスキルが解放されるの。」
「それは、聞いたことがあるぞ。『召喚術』の熟練度が上がったら『召喚獣回復』が手に入るんでしたっけ?」
「よくご存じで。付属するってその事よ。」
「ああ、合点承知。前も似た話を聞いた気がするなあ。この世界の事は一度聞いてもすぐ忘れてしまう。……ということは、本来『農耕・理論』は農夫でないと手に入らない?」
「と思っていたのだけど、違ったようね。」
「『植物図鑑』の熟練度を上げた状態で、武器を使って植物を採取するとゲットできたぞ。」
「ふーん、そんな風に取得できるんだ……。セイ、あなたは一体何を目指してるのよ……?」
「流されるがままに生きてる。」
「でしょうねえ。まあ、プレイスタイルは自由なのだから何でもいいのだけど。」
「ちなみに、農夫が『農耕・理論』を取得するのはどのくらい大変なんだ?」
「確か、農夫なら元から『植物図鑑』を持っているの。『植物図鑑』も『農業』の付属と見なされるから、植物を鑑定する度に『農業』の熟練度も一緒にアップするの。そして『農業』の熟練度が5になると『農耕・理論』が解放され、『農業』の熟練度が10になると『農耕・実践』が解放される。農夫なら一日で『農耕・実践』まで解放できるはず。」
「一日で?!俺の場合、『植物図鑑』の熟練度を25以上にする必要があったから、本気でやっても1週間はかかると思うぞ……。」
「アマチュアは玄人よりも苦労するって事かしら?まあ、いずれにせよ、錬金術師の癖に農夫の真似事をしたければ結構苦労するということね。なるほど、面白い発見ね。」
「褒められてるのか呆れられてるのか……。ところで、農業のやり方を知ってたりは?」
「ごめん、そこまでは知らないわ。『農業・実践』を取得したら畑を作れるようになるらしいけど。」
「そっか、いつか試したいな。」
麦わら帽子をかぶって畑作業。里帰りしたときに見た、じいちゃんの姿を思い出したよ。
「ところでさあ~。セイ君、面白いレシピ発見したそうじゃない~~!」
「えっと……。ああ!シュレディン魔石のこと?」
「そうよ~!アイテムドロップ率上昇だっけ?面白い付与が作れるみたいね!驚きよ!でもそれ以上に、あの配置。すごいわね。魔石8個でしょう?総額20万ゴールドのレシピ。よく見つけたわね。」
「妹に『適当に配置してみて!』って言ったら一発で引き当てました。」
「……マジ?」
「マジです。」
「ついでに聞くけどさ。『ドロップ率上昇』は何回で引き当てたの?」
「一発ですね。妹が自分の武器に属性付与してもらおうとして付与された。」
「実は、あの後シュレディン魔石を使った実験が行われたの。そしたらびっくり、シュレディン魔石から『ドロップ率上昇』や『取得経験値アップ』が付与される確率は通常属性の1/2だったの。つまり、『ドロップ率上昇』が付与される確率はおよそ1/20。それを引き当てたのよ!」
「マジか……。」
「あなたの妹さん、もしかしてAWT関係者?」
「そんなことは無い。四六時中一緒にいる俺に隠れて他の事業をやるようなやつではないな、あいつは。」
香に自由な時間が増えたのは大学入学後なので、この一年だ。そして、その間、香は俺と一緒にゲーム開発に取り組んでいたので、授業が無い時はほぼずっと一緒に家で作業している。
もちろん、授業の兼ね合いなどを考えると、24時間ずっと一緒という訳ではないので、香が俺の知らない所で何かしていてもおかしくはないだろう。加えて、香にも俺にも友達付き合いはある訳で、そういった集いに行く事も……。あれ、無かった気がする。少なくとも俺は、教授との懇親会などには参加した記憶があるが、友達と遊びに行った記憶がない。……友達がいないという訳ではないのだがなあ。
それはともかく、香が何かの事業をするにあたって俺に隠れて行うメリットがあるであろうか?いや、無かろう。収入の管理とかその他諸々を俺に任せっきりなあいつが、俺に相談なしで事業に手を出したりしないと思う。
「四六時中一緒って。兄妹がいつも一緒に居るなんてことある?は!もしかして、禁断の恋?」
「断じて違う。ただ単にリオカも俺も家に居る時間が長いというだけだ。他意はない。」
「なるほどね。そういう感じか。納得。さて、それはともかく、セイが自分でやるにせよ、妹の運を頼るにせよ、面白いレシピをこれからも見つけてくれると嬉しいわ。頑張ってね!」
「どうも。お互い頑張ろうな。」
「ええ。」
◆
「ということがあったよ。」
ログアウトした俺はローズとの会話をかいつまんで話した。
「待って、それってつまり、お兄ちゃんは『本来農夫しか持たないスキルを入手できた』ってことよね?」
「そうだな。その分、条件が厳しいようだけどね。」
「という事は。召喚術師の私でも、剣にまつわるスキルを入手出来たり?」
「どうだろう……?『初心の剣を使って1000回敵を倒したら』みたいな条件があるかもね。」
「うわあ……試したくないわ~。でもそうよね。召喚術師になったら、一生剣術は覚えられないってのも変な話だし。まあ、大変な苦労してまで剣を覚える必要はないけどね。」
「だよなあ。ところで、香。念のために聞くが、俺に隠れて事業をやってたりしないよな?何かあれば、確定申告とかが面倒なのだが。」
「やってるわけないじゃん。私、お兄ちゃんと四六時中一緒にいるのに。そもそも、隠す意味無いし。」
「ですよねーー。」
リオカがシュレディン魔石を見つけたのは紛れもなく彼女の運勢の賜物のようだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします!
書いていて思ったのですが、「賜物」という単語、発音しにくくないですか?「たまもの」「たまもの」……。作者の活舌の問題ですかね。