農耕・理論
カーン。カーン。斧を振るう音が鳴り響く。
「これを丑三つ時にやったらヤバいわね。暗闇に包まれる森の奥から木を打つ音が……。」
「確かにそうね……。」
リオカとフラウは、木を打つ音から黒魔術?呪い?とかそう言ったものを連想したようだ。
「俺的には、衣打つ音に聞こえるかな。」
「ああ、砧とか言う太い棒を使って布を叩くことで、衣に光沢を付ける作業だっけ?」
「そうそう。それだ。」
「なるほど。今でいうアイロンがけを昔はそうやってたんですね。」
「アイロンがけか。確かにそんな感じかもな。」
とそんな雑談をしながらも俺は目の前の木のHPバーに視線を向けている。斧を打ち付ける度に目に見えてHPが削られていく。ナイフの時とは大違いだ。
「これで最後か!」
だいたい20回くらい叩いた末に、HPバーが消える。すると、不思議なことが起こった。木は切り傷一つ付いていないのに、俺の目の前には木材が落っこちている。意味不明だが仕方がない。いや、『切り倒し、ドロップアイテムと化したが、即座にリポップした』と考えると、別におかしなことではないのかもしれない。ともかく、初めての伐採は完了である。
<『植物図鑑』の熟練度が25以上かつ武器を使って植物由来のアイテムを入手したことにより、スキル『農耕・理論』が解放されました。>
『農耕・理論』:アクティブスキル:(6):植物由来のアイテムの状態を分析することが出来る。
「『農耕・理論』って……。」
「どうかしました?」
「アクティブスキルの『農耕・理論』ってのが解放された。なんでも『鑑定』に似たスキルらしい。」
「『鑑定』のサブスキルではないんですか?」
「うん、アクティブスキルになってる。」
「そうなんですか……。というか、理論なんですね。」
「ああ。そう書いてる。つまり……。」
「「今は実践が出来ない。いつかはできる?」」
「一応、マイホーム前の土地は空き地だから、あそこで農業するってのも楽しいかもな。」
「いいですね。錬金で肥料を作って一気に成長させるとかですかね?」
「それは楽しそうだ。あとは、土壌のPhを調整する事で、色違いを作ったりできるかもと俺は思っている。」
アジサイはその色が植わっている土壌が酸性よりか塩基性寄りかによって色が変わる。それと同様に、色違いのヒールウィードが出来たら面白いのではなかろうか。
「新種も作れたり?」
「どうだろ?スキル『錬金』のサブスキルに『品種改良』とか無いかなあ。」
「そっかあ。飲みやすい回復薬を作って欲しいんだけどなあ……。」
「ああ……既存のやつ、美味しくないもんな。」
「そうそう。」
「とりあえず、俺はこのスキルを取得しないとな。……は?取得に必要なボーナスポイントが6だって?」
「あれま。結構多いわね。」「6ですか。結構レアスキルという事でしょうか?」
「足りるけど……痛いな。」
「へ?お兄ちゃん、そんなにスキル持ってないわよね?……あ、レベル上げしてないから……。」
「うん。ボーナスポイントが増えてないんだ。」
正確には、Lv.0→Lv.1になってるから、ボーナスポイントは合計11あったことになる。そして、取得したスキルは『植物図鑑』(1)。『漁業の心得』(2)。つまり、俺に残されたボーナスポイントは8である。
「まあ、今回は足りるしいっか。取得ッと。」
「お兄ちゃんもそろそろレベル上げしたら?」
「嫌だ、外出たくない。」
「実の兄がどんどん引きこもりになっていく件。」
「いや、錬金ギルドに行ったり串焼き屋に行ったりしてるから、引きこもっては無いぞ。」
「AWTにおいて、セーフティーエリアから出ない人の事を『引きこもり』って呼称するの。」
「へえ、そんな隠語が。ともかく、試してみるか。手始めにさっき入手した松の木のドロップアイテムを……まずは『鑑定』!」
松の木材:松から取れた木材。燃料としても価値がある。
松の枝:松から取れた枝。挿し木すると、根付く可能性がある。
「まあ、そんな感じだよな。」
「どんな?」
「『松の木材→松から取れた木材。燃料としても価値がある』『松の枝→松から取れた枝。挿し木すると、根付く可能性がある』だってさ。」
「へえ。十分詳しく鑑定されていると思うけどなあ。私達は鑑定すらできないもの。」
「そうか。この鑑定結果は『植物図鑑』の効果を含んでいるのか。さて、お次は本命の『農耕・理論』!どうなる?!」
松の木材:松から取れた木材。粘り強さがあるため、家の梁などに利用される。また、油を多く含むことから、燃えやすい。火の中に入れると火の温度が高温になる。強度は品質に比例するので、この木材は強度が低いと言える。耐久値が0になると品質が一段階下がり、品質『1』の状態で耐久値が0になると壊れる。
<耐久値>
100.0
<品質>
1
松の枝:松から取れた枝。品質が5以上の物は挿し木で植え替えが可能なので、品質が1であるこの枝は挿し木は不可能である。耐久値が0になると枯れてなくなってしまう。
<耐久値>
99.4
<品質>
1
「お、確かに鑑定結果が変わった。耐久値とか品質が分かるようになったぞ。」
「耐久値と品質……?」
「なんでも、品質が高いと、挿し木が出来るそうだ。まあ、耐久値の一種のようだな。」
100までしかない耐久値の先を準備するべく『品質』のパラメータを用意したのだろうと思われる。イメージとしては、「松の木材(品質5、耐久値100)=松の木材(品質1、耐久値600)」という訳だ。
お読み下さりありがとうございます。今後ともよろしくお願いします!