9 ゼノビアとの試合
ついにこの時が来てしまった。
剣術の授業では、たびたび練習試合が行われるようになり、今わたしは木刀を構えてゼノビアと対峙している。
なんだかんだと理由を付けてこれまで避けてきたが、それも長くは続かなかった。
わたしとゼノビアはお互いしか実力が釣り合う相手がいないので、先生もわたし達2人を組ませたがる。
そういえば、ウィル様は同年代に相手になるような者なんていないだろうし、どうせならこの授業に呼んでくれないだろうか。
目の前の試合が面倒過ぎて、現実逃避でそんなことを考えた。
「やっとメアと勝負することができるな!待ちくたびれたぞ!」
ゼノビアはとても嬉しそうに張り切っている。
わたしが取りうる選択肢は、やはり当初の予定通り、いい感じに競り負ける一択である。
そのはずだった。
魔力による身体強化はゼノビアと競り合うために必須だ。
あとは強化の程度の問題である。
わたしがそろそろ負けておくかと思ったその直後。
「フッ、さすがはメア。なかなかの腕前だな!だがより強いのは…この俺だあ!」
などとうざいことを言いながら振りかぶるものだから、ちょっとイラッとして本気を出してしまった。
わたしが現段階の技術でできる最大まで身体強化し、フルスピードでゼノビアを斬り伏せた。
周りの他の生徒も、わたし達のことを特に注目して見ていた先生も唖然としている。
やってしまった。
最悪だ。
これからずっと卒業まで、ゼノビアに勝負を挑まれ続けることになるに違いない。
適当に手を抜いて負ければ、本気を出せとしつこく喚かれるに違いない。
どうせ勝っても負けても何度も勝負を迫ってくるに違いない。
さいあくだ。
ただでさえ遠巻きにされていたのに、クラスメイトにももっと引かれた気がする。
それもこれも全てゼノビアのせいだ。
くっそお。
いや、感情のコントロールができなかったわたしがいけなかったのだ。
上手くやるつもりだった。
わたしは世渡り上手のはずだった。
「おい、メア…!もう一度俺と勝負しろ!」
やはりきた。
「…わかった。だけど勝負は半年に1回だけと約束して。」
「もしももう一度俺が負けることになればすぐに再戦を挑む!半年も待てん!」
ゼノビアは約束は必ず守る男だ。
だからさっさと言質を取ろうと考えたのだが、やはりそう上手くはいかない。
「そんなにすぐに再戦したって実力は変わらないでしょう。少しは時間を置いて、力を付けてからにしないと。どうしても半年が嫌なら、3ヶ月に1回にしよう。」
「む、それもそうか。いや、ひと月に1回だ!メアがそこまで言うのなら、それくらいなら我慢しよう!」
それは全く我慢していないだろう。
だが、ゼノビアに何を言っても無駄なので、わたしは仕方なく頷いた。
毎日勝負を挑まれるよりはマシだろう。
ひとの話を全く聞かないというのは、交渉においては最も効果的なテクニックのひとつかもしれない。
真似したいとは全く思わないが。