8 ウィルフリードとの出会い
早速翌日から、メアはウィルフリードを探して回った。
ゼノビアなら居場所を知っているかもしれないが、これ以上ゼノビアから情報を得るのは癪だった。
ウィルフリードを探して歩き回る美少年がいるとすぐに噂が立った。
「やあ、はじめまして。俺がウィルフリード・ノーフォークだ。俺のことを探し回っていたというのは君かな?」
噂のおかげか、ウィルフリードの方からメアを待っていて声をかけてくれた。
「はい、はじめまして。メア・ウィンチェスターと申します。お会いできて光栄です、ウィルフリード様。貴方とどうしてもお話してみたくて…お騒がせして申し訳ありませんでした。」
「いや、気にしなくていい。俺もあのウィンチェスター侯爵の御子息に会えるなんて光栄だよ。」
アメジストの瞳が優しく細められてわたしはうっとりとした。
知らない奴が自分を探して怪しげにウロウロしていたというのに、笑顔で対応してくださる。
やはり素敵な方だ。
男の子と間違えられているが、そんなことは瑣末な問題だ。
いまアカデミアの中でわたしを女だと認識しているのは騎士科でもたぶんゼノビアくらいだろう。
メアという名前も中性的で誤解を生みやすいのかもしれない。
「実は昨日、剣術の授業でお姿を拝見して、ぜひお話したいと思ってしまって…。」
「ウィンチェスターの目に止まるくらいには実力がついたってことかな。嬉しいよ。頑張ってきた甲斐があった。」
「あの、もしよろしければ、お昼をご一緒させていただけませんか?」
わたしはウィルフリード様ともう少しお話を続けたくて、おずおずと申し出た。
「もちろん。俺もいま誘おうと思ってたんだ。」
そう言ってはにかむ笑顔も素敵だ。
こんな方がわたしの兄だったらなあ、ああ、これではお兄様に失礼か。
でも髪の色も同じ銀色だし、並んでいたら兄妹に見えるのではないだろうか。ふふふ。
昼食の席に着いた後、わたしは自分の魔力と身体能力についてウィルフリードに話した。
「…そうか。君も俺と同じなのか。お互い生まれる家を間違えたかな。正直、さっき最初に君を見たときは、その緑色の瞳を羨ましく思ったんだ。俺以外の親族はみんな君のような緑の瞳だから。」
「わたしもウィルフリード様を見たときは、なんて恵まれた剣の才能をお持ちなのだろうかと、初めは羨ましく思いました。でもノーフォークの方だと聞いて、その、勝手に親近感が湧いてしまって…。」
わたしはなんだか急に恥ずかしくなって、少しもじもじしながら告げた。
「俺も今の話を聞いて、君とは仲良くなれそうだと思ったよ。メアと呼んでもいいかい?俺のこともウィルでもなんでも好きに呼んでくれていいから。」
ウィルフリードに名前を呼ばれて、これ以上ないほど嬉しくなった。
「ぜひメアとお呼びください、…ウィル様。」
憧れのウィルフリードとお近づきになれて、わたしは舞い上がっていた。
「あの、実はわたし、苦肉の策で、身体能力を魔力で補う術を身に付けることに成功したのです。ですからきっと、ウィル様の魔力を増幅する術もこのわたしが見つけて差し上げます。」
聞いたウィルフリードは面食らった顔をしてこちらを見ている。
しまった。
完全に余計なお世話だ。
せっかくいい感じに仲良くなれると思ったのに。
猛省していると、ウィルフリードが急に笑い始めた。
「ははっ、期待して待っているよ。ふふっ、そうか、俺は魔力がほとんどないからと、魔法はすぐに諦めてしまっていたけど、メアは武術を諦めなかったんだね。まあだからこそ今も騎士科にいるんだろうけど、すごいなあ。俺も、何か方法がないか探してみようという気になったよ。」
ありがとう、と優しく微笑まれてホッとした。
嫌われなくてよかった。
こうなったら、なんとしても魔力増強法を見つけるしかない。
ウィル様のお役に立つのだ。
それからわたしは、暇を見つけては魔力を増やす実験を試みた。
しかし、思い返してみれば、何時間コソ練をしても、魔力が尽きたことはなかった。
魔力が減っているのがわからなければ、増えているかもわからないではないか。
わたしは魔力が多い方なのかもしれない。
比べる相手がいないと困るな。
教室内でも脳筋達とは関わらないように気をつけているから、構わず話しかけてくるのはゼノビアだけだ。
ゼノビアは全く魔力がないから手伝わせることはできないし。
わたしはまさしく途方に暮れた。