6 騎士科
王立アカデミアは王都にある。
お父様は事あるごとに国内を飛び回っているが、メアが現在暮らしているお屋敷も王都内だ。
入学の日、騎士科の子ども達の列に並んでメアは愕然とした。
男の子しかいない…!
考えてみれば、騎士科に入る女の子などウィンチェスターの子くらいしかいないだろう。
これまでもウィンチェスターの女の子はみんなこんな気持ちだったんだろうか…。
アカデミアでお友達をつくるのは難しそうだ。
女の子のお友達が期待できないことにかなりショックを受け、気持ちの整理が付かないまま入学式が始まった。
入学式は退屈だった。
退屈すぎてこっそり身体強化の練習をしていたので何も聞いていなかった。
メアだけでなく、騎士科の男の子達は誰ひとり真面目に先生のお話を聞いている者はいなかった。
はぁ、みんな脳筋単細胞か。
やっぱりお友達をつくるのは難しそうだ。
自分のことは棚に上げてそんな失礼なことを考えた。
教室に入ると、好戦的な目が非常に暑苦しい男の子に声をかけられた。
「メア!ひさしぶりだな!」
ああ。ゼノビアに話しかけられてしまった。
ゼノビアは黙っていれば美少年だ。
彼が黙っているところを見たことがないので確証はないが。
よく鍛えられた身体に、幼いながらも凛々しい顔立ちで、さらさらの銀髪を風に靡かせている。
わたしの家族と同じ碧い瞳が妬ましい。
できれば関わりたくなかったのだが、同じ騎士科だしそうもいかないか。
「ひさしぶりだね、ゼノビア。でも従兄弟だからって気を遣って話しかけてくれなくてもいいんだよ。」
もうこれ以降、話しかけてくるなという意味を込めて言ってみたが。
「そうか!同じ騎士科に入ったからには俺と手合わせしようじゃないか!メア!俺とお前のどちらが強いか勝負だ!」
「…。」
やはり何を言っても無駄だったと思って、わたしはゼノビアを無視して席に着いた。
まだゼノビアがなんだかんだ言っていたが、何も聞こえない振りをした。
これから毎日ゼノビアと顔を合わせると思うと憂鬱だ。
騎士科なんてゼノビアみたいな脳筋しかいないのだろうし、お友達もできそうにないし、わたしの好きな音楽の授業もない。
騎士科は、剣術、体術、弓術、槍術、馬術、兵法などの授業が主、というかほぼ全てだ。
魔法の授業はないし、算術や地理などの教養科目の授業もほんの少し摘む程度しかしない。
逆に、魔法科は武術の授業が全くない。
アカデミアの在学期間を考えてさらに憂鬱になった。
こんなところに12年も通わなければならないなんて…。
入学前はアカデミアに多少希望を持っていた。
なんとなく新たな環境に期待を寄せ、漠然と楽しみにしていたのだ。
でもいざ入ってみたら、女の子はいないし、ゼノビアはいるし、魔法も学べないし。
いや、全て事前にわかるようなことなのだが。
わたしの考えが足りなかっただけなのだ。
放課後や休日には、今まで通りお家で音楽や教養の勉強を続けさせてもらえるように、お母様にお願いしよう。
魔法のコソ練も続けよう。
もしかしたら自己流だと危険なのかもしれないけど仕方ない。
自分で気を付けるしかない。
こうしてアカデミアでの生活が幕を開けたのだった。