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58 訪問者

「黒銀騎士団本部はここであっているだろうか?黒銀魔導騎士学校に入学したいのだが…。」

燃えるような赤髪に、誠実そうな灰紫色の瞳をした、背の高い美青年が騎士団本部を訪ねてきた。

年齢はわたしより少し下くらいだろうか。


「ああ、入学希望者か。わたしは団長のメア・ウィンチェスター。君の名前は?」

「俺は、モンテニーロ共和国中央騎士団所属、騎士団長の息子のアルフレッド・フォリアだ。」

…は?


わたしは慌てて国王陛下への謁見を願い出た。

「おお、来たか。そろそろ来る頃だと思っていたぞ。久しぶりだのう、メア殿。」

陛下は、わたしの突然の訪問に一切驚くこともなく、相変わらずにこにこと笑顔を浮かべている。


「陛下は、モンテニーロの騎士が我が国に入り込んでいることをご存知だったのですか?」

「向こうが留学生を寄越したいと言ってきたから許可した。外交上、何かしらの役に立つかもしれんしな。なに、メア殿ならば鼠の一匹や二匹、何かあればすぐに抑えられるであろう?」


さすがに不法入国ではなかったらしい。

だが、和平条約を締結し、現在は以前と同じく友好関係を築きつつあるとはいえ、つい最近シュヴァリツィアを存亡の危機に陥れたモンテニーロの騎士が留学なんて、陛下もモンテニーロ連邦も何を考えているのか。


「もちろん、シュヴァリツィアに害をなすような真似を許すつもりはありません。ですが、モンテニーロの騎士に魔導士騎士学校の戦闘技術を教えてしまって良いのですか?」

「まあそこは、吉と出るか凶と出るか分からぬが、隣国全てを警戒し続けるのもかなり消耗するからの。強固な同盟関係の維持を前提とするならば、隣国の軍事力が強まるのも悪いことばかりではないぞ。それに、それは一朝一夕で身に付くものでもないのであろう?」


「…陛下にお考えがあるのでしたら、仰せのままにいたします。」

「先の交戦において最前線で命を賭して戦ったメア殿が、かの国の騎士を信用できぬのは無理からぬことだ。当面、例の留学生の扱いはメア殿に一任するゆえ、煮るなり焼くなり好きにして存分に見極めるが良い。」


また陛下には何でもお見通しか。

致命傷になる前に食い止められたとはいえ、モンテニーロの侵略によって、シュヴァリツィアは少なからず被害を受けた。

あのアルフレッド・フォリアとかいう男に斬られた仲間も何人もいるのかと思うと、すぐには気持ちを割りきれそうになかった。


外に出ると、滝のような雨が降っていた。

王城に来る前から降りそうではあったのだが、こんなにずぶ濡れになるとさすがに少し寒くなってくる。


騎士団本部に戻ると、あの男はまだそこにいた。


「こんな雨の中、ずっとここにいたの?」

わたしが声をかけると男は顔を上げ、灰紫色の瞳がこちらに向けられた。


「貴方が待っていろと言ったから、言われた通りに待っていた。」

「そう。…ついてきて。」


「あ、メア!戻って来たのか。結局そいつどうするんだ?」

本部の中に入ると、ヨハンが尋ねてきた。


「わたしの好きにして良いって。…じゃあ、今から入学試験を行うけど、わたしと手合わせして勝てたら君の入学を認めるよ。今回、わたしは魔力を使わないし、君は武器でも魔法でも好きに使って構わない。」

そう言ってわたしはさっさと訓練場に立って構えた。


「メアのやつ、入学させる気全然ねえな。試験やる意味あんのかよ。」

「ああ。それにものすごく機嫌が悪いね。まあ気持ちは痛いほどわかるけど…。」

もちろん、この試験は通常の入学試験とは全く内容が異なる。

諦めてとっとと帰ってもらうためだけのものだ。


ウィル様の合図で、お互い同時に踏み出し剣を交えた。


…想定していたよりだいぶ強い、けど。

勝負は一瞬で着いた。


「…はい、わたしの勝ち。今日くらいは観光して行ってもいいけど、できるだけ早めに帰国してね。」

わたしが弾き飛ばした彼の剣を拾い上げて手渡す。

が、なかなか受け取らない。


「頼む。このまま帰るわけにはいかない。俺は必ず強くならなければいけないんだ。」

アルフレッドは地面に手を付いて勢い良く頭を下げた。


「負けたのに潔く諦めないなんてみっともないな。どんなに頼まれたって、もう決まったことは覆らないよ。」

「どんなにみっともなくても構わない。終戦以降、モンテニーロの弱気な姿勢に増長した隣国からの圧力が急速に高まっていて、このままではいずれ危険な状況になる。勝手なことを言っている自覚はある。でももう頼れるのはシュヴァリツィアだけなんだ。お願いだ。俺を魔導騎士学校に入れてくれ。」


「…それ以上ふざけたこと言うと、君のその大事な腕、切り落とすよ。」

祖国の危機は嘘ではないと思うが、どう考えても自業自得だろう。

モンテニーロ共和国が搾取されようが滅びようが、わたしには関係のないことだ。


「俺の腕一本で入学を認めてくれると言うのなら、喜んで差し出そう。」

「…。」


受け取られなかった剣を彼のすぐ横の地面に深く突き刺した。


「あ、おい、待てよメア。あれどうすんだよ。放置かよ。」

「メア、とりあえず髪と服は乾かした方がいいよ。ほら、こっちにおいで。そのままじゃ風邪引いちゃうから。」


それから何日か経ったが、アルフレッドはずっと騎士団本部の前で頭を下げ続けていた。


「通りすがりの人に変な目で見られてるよな、あれ。」

「何度も帰ってくれって言ってるのに、全然言うこと訊かないよね。」


「…退かしてくる。」

わたしは鍛錬を一旦止めて、騎士団本部の入り口に向かった。


「はあ、メアもあれからずっと機嫌悪いし。メアって怒るとめちゃくちゃ怖えんだな。知らなかった…。」

「確かに、怒ってるところは初めて見たかも。普段から気を付けてるのかな。感情の制御は戦闘においてもかなり重要な要素だしね。」

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