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53 窮地

「王立騎士団団長ラインハルト・ウィンチェスター。王立魔導師団団長ルナール・ノーフォーク。黒銀騎士団団長メア・ウィンチェスター。今や、其方らにこの国の命運がかかっていると言っても過言ではない。必ずや我がシュヴァリツィア王国の領土を防衛して見せよ!」


東側国境付近で頻発している魔物の大量発生や盗賊の襲撃は、モンテニーロ共和国の仕業であることが判明した。

長年の友好国であるモンテニーロが裏切る可能性は低いと踏んでいたが、実際にはガイラシアとミラジオを抱き込み、この期に一気にシュヴァリツィアの王都を攻め落とす気でいるようだ。


「モンテニーロはこれまで内部の権力闘争が絶えない様子であった。それ故に敵も一枚岩ではないだろうと高を括っていたが、進軍の勢いから見ると完全に総力戦だ。」

「こんなときだけ一致団結しなくても良いのですけれどね。これまでの東側の動きは明らかに陽動です。東側国境は王都から距離がありますし、北と南から同時に王都に向かって総攻撃を仕掛ける作戦でしょう。」


この防衛戦の総指揮は国王陛下だ。

迅速に対応を決定するため、緊急対策会議には三名の団長だけが集められた。


西側は海。

東側は夥しい数の魔物。

北、南側は三ヶ国の連合軍。

かなり厳しい状況である。


「やれやれ。三ヶ国で仲良くシュヴァリツィアを三等分でもするつもりなのでしょうか。」

「ガイラシアとミラジオは先の戦いの賠償で力が落ちているとはいえ、モンテニーロの国力と合わさると相当な脅威ですね…。」

かつてない緊迫感に、わたしは心臓が縮み上がりそうだった。


「王立騎士団は北側の防衛にあたる。魔導師団が南、黒銀騎士団は東側を担当しろ。」

「東側が王都から最も遠いため転移魔法は必須ですし、防衛線もかなり広範囲に広がってしまいますから、メア殿にお任せするしかありませんね。」


「アカデミア騎士科の高等部第三学年を今すぐ東側に向かわせろ。到着は遅れるが、少しは役に立つだろう。」

「魔法科の高等部第三学年は魔導師団に同行させます。騎士科ほどは実践訓練を積んでいませんから、こちらの指揮下に入れます。その他有力な私立団は北と南に配置いたしましょう。」


「それでは北側の戦力が薄いのでは。騎士科の学生もお父様のところに配備しなくてよろしいのですか。」


「この戦争は、北、南、東のどこか一つでも押し負ければその時点でシュヴァリツィア王国の敗北が決まる。そして、お前の指揮する東側戦力は、この腐れ魔導師の息子以外は全員が学生だ。こちらの心配をしている場合か。」

「申し訳ありません、メア殿。東側にもっと戦力を割いて差し上げたいのは山々なのですが、モンテニーロが相手ではこちらもぎりぎりなのです。」


緊急会議を終えると、黒銀騎士団はすぐにシュヴァリツィア東端に転移した。

一面の小麦畑は踏み荒らされ、近くに見える山はところどころ火が上がっている。


「本当に魔物の数が多いな。」

「うん。東側国境と言ってもかなり広いし、手分けした方がいいね。ヨハンは北側、ウィル様は南側に向かって。」


「ここら辺は魔物だけじゃなくて、盗賊や傭兵も多いみたいだぞ。メア、大丈夫か。」

「うん。団長として、たまには団員にかっこいいとこ見せないとね。」


ヨハンとウィル様は、三人ずつ団員を連れて持ち場に転移した。

「よし、どんどん片付けるよ!」

「はい、団長!」


わたしは大規模な風魔法を発動し、こちらに向かってくる魔物の群れを一気に切り裂いた。

堅くて切れないものは炎魔法で焼き尽くし、燃えにくいものは草魔法でぐるぐる巻きに拘束する。


「やっぱ団長すげぇ!」

「なんだ、意外と余裕でいけそうですね!」


…!

向こうに人間がいる。


「傭兵らしき人間が何人か身を潜めているみたい。魔力の強い子は特に毒矢に気を付けて。」

「はい!」


「なんだ、よく見りゃガキしかいねえよ。全然陽動になってねえじゃねえか。」

「こりゃ思ったより楽な仕事だったな。」

子どもだけだと思って油断して姿を現したようだ。


今はミラジオの時のように手加減している余裕はない。

わたしは傭兵達に風魔法の刃を放ち、一瞬で全員黙らせた。


「これだけ魔物の数が多いと、上から大規模魔法を連発する方が効率が良いね。高い所に上ろう。」

「そんな早さで連発できるのは団長とヨハンさんくらいですけどね…。」


わたし達は小高い崖の上に登り、シュヴァリツィアに向かって走ってくる魔物達を一網打尽にした。

大規模な群れはだいたい片付いたかというところで、先程とは別の傭兵が現れた。


その殆どはすぐに斬り伏せたが、一人手練れが混じっていたようだ。

「危ない!」

団員の一人が背後を取られていることに気付いたわたしは、咄嗟に飛びかかり傭兵の急所に剣を突き刺した。


団員を守れたのは良いが、傭兵諸共そのまま崖から落ちてしまった。

崖の下を流れる大河に飲み込まれ、メアの姿は見えなくなった。


「団長!大変だ、団長が!」

「落ち着け!団長が川に落ちたくらいでどうにかなるわけないだろ!」

「そうだよ、今は国境の防衛に集中しないと!団長もすぐに戻ってくるよ!」


しかし、少し待ってもメアが戻って来ることはなかった。

「どうしよう…。団長に何かあったのかな。」

「確かにちょっと遅いよな…。」

「ウィルフリードさん達に伝える?」

「でもあの二人、団長が消えたって聞いたらめちゃくちゃ動揺するだろうし、冷静な判断ができなくなるかも…。」


「おい!そこのお前たち!それは黒銀騎士団の制服だな!」

団員達が対応を迷っているところに一人の騎士が馬に乗って現れた。

「そうですけど。あなたは、王立アカデミアの騎士科の…?」


「ゼノビアさん、待ってください!早すぎますよ!誰もついて来れていません!」

「む、遅いぞジーク!日頃の鍛錬が足りないのではないか?」


「ゼノビアさんって、団長の従兄弟の…?」

「あの、ゼノビアさん!実は団長がさっき川に落ちたきり戻って来なくて…。」

「団長のことだから大丈夫だとは思うんですけど、俺たち心配になって。」


「メアがこの川に落ちたのか!?それはまずいな。…ジークはここで騎士科の者達を待ちつつ、彼らの援護をしろ!」

「え、ゼノビアさんはどこに!?」

「メアは水が苦手で泳げないのだ!すぐに助けに向かう!」

ゼノビアはそう言い終わらないうちに川下へと走って行った。


気が付くとメアは川岸の開けた場所に寝そべっていた。

全身はびしょびょに濡れている。


「気が付いたか?」

「ん、ゼノビア?…また、助けてくれたの?」

「まあな!…だが、メアが川に落ちたと聞いた時はさすがに肝が冷えた。」

「ありがと、ゼノビア。騎士科の到着、思ったより早かったね。」

「いや、まだ俺とジークしか来ていないぞ!」

「ああ、置いてきたのか。ウィンチェスターの男はみんな同じだね。」


「ほら、食べろ!イカ焼には負けるが、うまいぞ!」

話していたら突然、目の前に何かの串焼きのようなものを差し出された。


「なにこれ。」

「ヘビ焼きだ!」


「…。いただきます。」

「なんだ、何も文句を言わないのか?」

「言ってほしいの?」

「別に言ってほしいわけではない!」

「美味しいね、これ。」

「そうだろう!ヘビは意外とうまいのだ!」


こんなにのんびりしていて良いのか。

シュヴァリツィア東側戦力の指揮官であるわたしと、今や王立アカデミア騎士科最強の男であるゼノビア、この二人がのんびりヘビ焼きを食べている状況は異常なのでは。


「魔物の数が多すぎて、わたしはともかく、団員達には疲れが出始めていたし魔力も尽きかけてる。このままだとじり貧だ。早くなんとかしないと…。」


通信魔法で得た断片的な情報によると、お父様達の方もかなり厳しい状況らしい。

わたしとしては、こちらをさっさと片付けて少しでも早く加勢に向かいたいところだ。


「メア、指揮官のお前が焦ってどうするのだ!もっと冷静になって戦況をしっかり見極めろ!」


…!!

確かにちょっと焦り過ぎてたかもしれない。

ゼノビアに言われてはじめて自覚した。


わたしの判断ミスひとつで、あっという間に全滅だってあり得るのだ。

落ち着いて状況を整理し、柔軟な発想で作戦を練り直す。


普段はただ鬱陶しいだけのゼノビアだが、昔からいざという時には頼りになる男だ。

またちょっと見直した。


「ありがとう、ゼノビア。…じゃあわたし、転移魔法で戻るから、ゼノビアは走って来てね。」

「なっ!待て、メア!卑怯だぞ!正々堂々勝負しろ!」

こんなときまで勝負したがるなんて呆れる。

見直して損したな。


「あ!団長!よかった、無事だったんですね!」

「ゼノビアのおかげでなんとかね。…で、これからの作戦だけど。」

わたしはヨハンとウィル様に通信魔法を繋げながら、団員達に作戦の説明をした。


「は?本気かよ、メア。さすがに無茶だろ。」

「ヨハン君や俺たちのいる北と南の魔物を全て中央に誘導なんてしたら、止め切れなかった時は大変な被害が出るよ。」

「分かっています。土魔法でできるだけ通路を狭くして、一匹残らず殱滅します。そして、」

ここまでは作戦の前段階であり、ここからが本番なのだ。


「黒銀騎士団はそのままモンテニーロ領内に進軍します!」

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