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51 女装

春の祭事の時期がやってきた。

これは、王家が春の訪れに感謝し、シュヴァリツィアの妖精達と交流する神聖な儀式らしい。

祭事は王城の最奥の間で一週間続けて行われ、終わるまで王族以外の人間は中に入れないそうだ。


祭事中はわたしもノエル王子に近付けないので、この一週間は自由行動となった。

まずは黒銀騎士団に顔を出すのが最優先だ。


「メア!ひさしぶりだね!今日は護衛は…、そうか、今は春の祭事の時期か。」

騎士団本部に入ってすぐウィル様を見つけて飛び付いた。


「ウィル様、全部任せてしまってすみませんでした。ひさしぶりに会えてとても嬉しいです。」

ウィル様の胸にすりすりと顔を押し付ける。


「あ、メア!なんだ、今日はお前も一緒に任務行けるのか?」

「ヨハン!会いたかったよ。」

ウィル様の後ろから顔を出したヨハンにもすぐに抱き着いた。


「ん、分かったから。ほら、初対面なんだから、団長らしくちゃんと団員に挨拶しろよ。」


そう言われて訓練場の方に目を向けると、団員の少年達が緊張した面持ちでピシッと整列していた。

一年前の6人から3人増えて9人になっている。


「はじめまして。黒銀騎士団団長のメア・ウィンチェスターです。長らく留守にしてしまってすみませんでした。まだあと二年くらいは殆ど顔を出せないのだけれど、今日から一週間は一緒に頑張りましょう。」

わたしが笑顔で挨拶を終えると、団員達は目を輝かせて力一杯拍手をしてくれた。


「メア、今回の仕事は東側国境付近の実地調査なんだけど…。」

「依頼内容は事前に聞きました。平民の服装で聞き込みをするのですよね。だから、これ!用意してきたのです!」

じゃーんと持ってきた服を見せびらかす。


「なっ、メアお前、女装すんのかよ!」

「女装って失礼な。ノエル様も可愛いって言ってくださったし大丈夫だよ。女の子の方が警戒されにくいでしょう。」

白いブラウスに赤いスカート、黒の前掛けというシンプルな服装だ。


「そりゃ可愛いだろうけど、そうじゃなくて、…っておい!ここで着替えようとすんな!」

ヨハンに叱られて仕方なく奥まで行って着替えた。


「どう?可愛いでしょう?」

「…。」

「…。」

「…。」


え、無反応?

背が高くて胸がないから女装してもなお女の子に見えない…?


「可愛い過ぎるだろ…。」

「反則だよ、こんなの。」

「団長、美人過ぎる。」

「俺だったらなんでも喋っちゃうな…。」


なんか男同士でもごもご言っていて、どうしていいか分からずに戸惑っていると、一人の団員が近付いて来た。


「…団長、そのままじゃとても平民には見えません。もっと姿勢を楽にして、何も考えてないような顔で、ばかみたいに屈託なく笑ってください。」


なるほど。

たしかに姿勢や仕草も大事だ。


「こう、かな?えへ。」

できるだけ脱力して、へらっと笑ってみた。


「うっ…。」

直後、わたし以外の全員が一斉にしゃがみ込んだ。

それぞれ手で真っ赤になった顔を覆ったり、胸をぎゅっと押さえたりしている。

顔を押さえた手から鼻血が滴っている者もいる。

なにこれ。


みんなの様子が落ち着いてから班分けが始まった。

全員で動くと目立つし効率が悪いので、三人ずつの班に分かれる。


「じゃあお前ら、適当に三組に分かれろ。」

「な、なんで、ヨハンさんとウィルフリードさんが団長と同じ班の前提なんですか!」

「は?なんか文句あるのかよ。」


「俺たちだって団長と一緒に任務やりてぇっすよ!ヨハンさん達ばっかずりぃっす!」

「そうですよ!さっきだって団長に抱き着かれて鼻の下伸ばしちゃって、僕たちには団長には触るなとかいつも散々言ってるくせに。」


「うるせえな。…わかったよ。なら、腕相撲で俺に勝てたら代わってやるよ。だけど手加減はしねえぞ。」


「え、そんなの絶対無理じゃ…。」

「でもヨハンさんって、普段魔法使ってることの方が圧倒的に多いし、もしかしたら力比べは比較的苦手なのかも…。」

「だとしたら俺たちでも勝てるかもしれねぇな。」


ヨハンは団員達の力量をとっくに知っているはずだし、苦手だろうがなんだろうが、ヨハンが種目を決めている時点で勝てるわけはないのだが。


「メアにみっちりしごかれた俺の実力、舐めんなよ、っと。」

あっと言う間にヨハンが9人抜きして、腕相撲大会は終わってしまった。


「もしもまだ不満だったら俺も相手になるけど、まだやる?」

ウィル様に尋ねられた団員達は、みんなぶんぶんと首を横に振った。


「事前情報によると、最近、東側国境付近で魔物発生の報告件数が増加しているそうだよ。村人が襲われて切り付けられたケースもある。幸い、その人は服が破られた程度で済んだみたいだけどね。場合によっては、調査だけじゃなくて討伐も行うことになるかもしれない。」


「え、服が…。」

「破られて…。」


魔物に服を切り裂かれて恥じらうメアの姿を想像して赤くなった団員達に、ウィルフリードがずいっと近寄った。


「…君たちは、もしかしてちょっと早めにしにたいのかな?メアが魔物なんかに傷付けられるわけがないだろう。くだらない妄想ばかりしていると魔物に食わせるよ?」


ウィル様が笑顔で何か囁くと、団員達は再びぶんぶんと首を横に振ったのだった。


わたし達はまずソールズベリー侯爵領東端の小さな村に転移した。

そこには、黄金の小麦畑が一面に広がっていた。


「綺麗ですね、小麦畑。ウィンチェスターの農業は果実が中心なので、こういう景色は新鮮です。」

「うん、これだけ広いと圧巻だよね。」

「そうかあ?俺は見慣れてるし、なんとも思わねえけど。」


周辺の住民達に話を聞いたり、畑を荒らすという魔物を退治したりしていると、怪しい男達に囲まれた。

「おいおい、辺鄙な田舎でこんな上玉が見つかるなんて、俺たちゃ運が良いなあ!」

「ああ!こいつはいい金になりそうだ。男の方も割といい値が付くんじゃねえか?」


どうやら盗賊のようだ。

わたし達三人を捕まえて売り払うつもりらしい。


「おっと。坊主達、動くんじゃねえぞ?この綺麗な嬢ちゃんがどうなっても…、ってあれ?いね…、ぐおっ!」

そんなにのろのろと近付かれても捕まるわけがない。


「なんだこの女…!」

「めちゃくちゃ強ぇぞ…!」

「お前ら、撤収だ!」


「逃すかよっ、と!」

早々に退却を決めた盗賊達を、防御魔法の応用でヨハンが結界に閉じ込める。


「た、頼む!か、金ならやる!全部やるから助けてくれぇ!」


「汚ねぇ手でメアに触ろうとしやがって、覚悟しとけよ。」

「ちょうど聞きたいこともあったしね。知っていること全部話してもらおうかな?」

「ひっ…!」


今回の調査の結果、魔物の発生は確実に増加していて、今後も増える可能性が高いことがわかった。

盗賊の出没件数も増加しているようだ。


この件に関して、東側国境を接しているモンテニーロ共和国の関与が疑われるような情報を得たが、この国はガイラシア公国やミラジオ王国とは違い、シュヴァリツィアと同格程度の大国で友好関係にある。

信憑性は低いかもしれないが、情報は漏れなくまとめて総務局に提出した。

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