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43 ノエル目線

今日から僕のところに専属護衛騎士が付くと聞いている。

僕は朝からずっとそわそわしていた。


かの騎士は、あのウィンチェスター公爵家の次男で、武術の腕もさることながら、稀代の天才魔導師でもある。

僕と同い年にも関わらず、どんな任務も迅速に確実に遂行する黒銀騎士団の団長として、すでにかなりの実績を残している。

そして、両親譲りの凛とした美貌を持ち、気品に溢れ、その上物腰柔らかとあって、特に王都では人気が高く、男女問わず憧れの的だ。


僕も例に漏れず、見たこともない彼に憧れを抱いていた。

王都中の話題を掻っ攫い続ける騎士様が、僕の専属護衛になってくれるなんてとても嬉しい。

陛下から話を聞かされて以来、会えるのが楽しみで仕方なかった。


彼は音楽が好きだと聞いたから、もしかしたら何か披露してくれるかもしれないと思って、様々な楽器を用意した。

今日のティータイムのためのお菓子もいつもより気合いを入れて作った。


今か今かと自室で待っていると、ドアの向こうからロイドの声がした。

「ノエル様、メア殿をお連れいたしました。」


ついに来た。


「お初にお目にかかります、ノエル様。ノエル様の専属護衛騎士を拝命いたしました、メア・ウィンチェスターと申します。」

「顔を上げてください。はじめまして、ノエル・シュヴァリツィアです。これからよろしくお願いしますね、メア。」


顔が見えるようになると、そこにいたのは、癖のない銀髪に美しいペリドットの瞳をした麗しい少女だった。


…!!


「メアは…、女の子、なのですか…?」

「はい。よく間違われますが、女です。」

「…そうですか。てっきり男性だと思っていたものですから…、すみません…。」


噂の美少年騎士メア・ウィンチェスターが、実は女の子だったなんて驚いたけど、綺麗だ、とても。

騎士団の制服に身を包み、凛として佇むその姿に思わず見惚れた。


強くてかっこよくて、美しくて可憐だなんてすごすぎる。

以前からメアに対する憧れの強かった僕は、もう完全に彼女に心を奪われていた。


「女性では頼りないと思われるかもしれませんが、精一杯務めますのでどうか…。」

「頼りないだなんてそんなっ!…あ、その、僕の方こそ、女みたいで、メアが嫌だったらごめんなさい…。」


「ふふ、わたしもこんな可愛らしい王子様の護衛になれてとても光栄です。」

ありがとうとお礼を言ったが、ぎこちなくなってしまった。


昔から可愛いものが大好きで、周りから可愛い、綺麗だと言われるのも嬉しくてたまらなかった。

だけどメアに言われると何故かあまり嬉しくない。


少しでもメアと親しくなりたくて、その後も事あるごとに話しかけた。


「メアは、どのような男性が好みですか…?」

一番気になっていたことを思い切って聞いてみた。


「下級貴族の出身で、武術に優れた方がいらっしゃれば理想的ですね。」

淀みなく答えられて、頭を思い切り殴られたような衝撃を受けた。

絶望感で思わず下を向いてしまう。


それって、王族でへなちょこの僕とは真逆ってことだよね…。

やっぱり強い男が好きなんだ。


「内面的なことで申し上げるなら、思慮深くて優しい方が好ましいです。」


そ、それなら、今から頑張れば振り向いてもらえるかもしれない。

そう思って少し顔を上げる。


「そ、そうなのですね。剣術などは苦手ですが、僕も頑張ってみようと思います。」


勉強も剣術もレナードの方が明らかに出来が良かったから、早々に諦めてしまって、これまでずっとさぼってきた。

勉強はそれなりに得意だが、運動全般はかなり不得手だ。

それでもメアに気に入られたい一心で、苦手な剣術も頑張ろうと決意した。


「それはご立派です。もしよろしければ、わたしがご指導いたしましょうか。実は、今後鍛錬の時間が減ってしまうと思って悩んでいたのです。」


え!やった!


「良いのですか!ぜひお願いします!」


メアが見てくれるということは、剣術の稽古中もたくさん話せるということだ。

決意はしたものの少し憂鬱だった稽古が一気に楽しみになった。


「うわっ、む、虫が…、メア、取って、取ってください…。」

早速翌日から剣術の稽古を始めてはみたものの、その過酷さは想像を遥かに超えていて、今も半泣きになりながらメアに懇願している。


「先程取って差し上げたでしょう。」

「違う虫がまたくっついたのです!」

「ノエル様、そのように虫などに気を取られてばかりでは上達は望めませんよ。そんなものは集中していれば気になりませんから、早く今日の分の素振りを終わらせてください。」


…うう。

僕は甘かった。

メアと一緒にお稽古だなどと浮かれていたが、楽しくお喋りとかいう余裕は全くない。

メアの指導は鬼のように厳しかった。


今まで甘やかされて育ってきた僕は、開始直後にも関わらず、すでに挫けそうになっていた。


「少し休憩いたしましょう。」

メアが僅かに表情を和らげた。


た、助かった…。

地獄の果てにやっと訪れたメアとの憩いの時間に胸が弾む。


「あの、僕、休憩時間にメアと一緒に食べようと思ってお菓子を作ってきたのです。」

「それは嬉しいですね。ありがとうございます、ノエル様。」

先程までとは打って変わってメアに優しく微笑まれ、顔が熱くなる。


「お味はどうですか…?」

「こんなに美味しいものをいただけて幸せです。ノエル様はお菓子作りが本当にお上手ですね。」


嬉しそうにお菓子を頬張る姿は、剣を持っている時とはまるで別人のようだ。

可愛いすぎる。


お菓子タイムで若干気力を回復した僕は、その後のお稽古もなんとかやり切ることができた。

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