38 昏睡
わたしはすぐさま王都に戻り、ヨハンの病室に急いだ。
「精霊王様の涙を、頂戴してまいりました!これでヨハンを…!」
「なんと!本当に手に入れてしまうとは!それもこんなに早く!…わかりました、急いで飲んでいただきましょう。」
わたしが透明な小石を手渡すと、男性はそれをそっと開いたヨハンの口に入れた。
「口に放り込むだけで良いのですか?」
「不思議なことに、口に含むと石が涙に戻ると言われております。ですから、おそらくこれで…。」
少しずつヨハンの顔が色を取り戻していった。
…しかしいつまで待ってもヨハンは目を覚さない。
「ヨハン…。」
「症状の進行は止まっています。一命は取り留めたでしょう。ただ、かなり体力を消耗していましたし、何か魔力神経に障害が起きているかもしれません。」
「解毒が遅かったのでしょうか。」
「…わかりません。すぐに目覚めるかもしれませんし、或いはこのままずっと…。」
その後、何日か経ってもヨハンは目を覚さなかった。
ただ眠っているだけのように見えるが、いくら呼びかけても全く反応はない。
このまま王都の病室に置いていても進展はないだろうと判断され、ヨハンはデイカー男爵領の邸宅で療養することになった。
ヨハンが領地に移された後も、わたしはヨハンのところに通った。
「ようこそおいでくださいました、メア様。」
「ヨハンもきっと喜んでおりますわ。」
公爵令嬢が転移していきなりやって来るので、はじめの何回かはかなり緊張した様子だったデイカー夫妻だが、わたしが何度も訪れるのでだんだん慣れて来たようだ。
今日も必死に愛想笑いを浮かべている。
「何度もお越しいただいて申し訳ありません。メア様もお忙しいでしょうし、そんなに気を遣われなくてもよろしいのですよ?謝罪も受け取っておりますし…。」
「いえ、わたしが来たくて来ているので。ご迷惑でなければ、気の済むまで訪れさせてください。」
「め、迷惑だなんて、そんな…。はは…。」
間違いなく迷惑なのだろうが、これくらいしなければとても落ち着いてはいられない。
大切な仲間ができて、家族にも認められて、黒銀騎士団は危険な任務で次々と成功を収めて、全てが上手くいっていた。
自分がなんでもできるような気になっていた。
そしてあの時、調子に乗って一度に魔力を使い過ぎた。
わたしが馬鹿だったせいで、ヨハンはわたしのそばからいなくなった。




