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34 油断

黒銀騎士団の三人は、鉄鉱石が豊富に採れるという鉱山の山頂付近に降り立った。


「この近くには敵の影はないようだね。」

「そうですね。ここで少し敵の動きを探りましょう。」


岩影に隠れながら、まずは国境付近の様子を見る。

と、北の戦いのために手薄になった国境の警備が、今まさに破られるのが見えた。


「北側にいたガイラシア軍の3倍くらいの規模だ。ミラジオの軍事力を考えると、分隊がいる可能性は低いね。全軍で一気に鉱山と港を制圧するつもりかな。」

「国境の守りが破られた今、南側のシュヴァリツィアに戦力と呼べるものはほとんどないし、いとも簡単に制圧できたでしょうね。わたし達が来なければ。」


「で、どうする?あいつらに片っ端から魔法攻撃かますか?」

「はじめに叩くのは司令塔がいい。ウィル様、ガイラシアからの通信魔法がどの辺りに届いているかわかりますか?」

「ああ、たった今、こちらからガイラシアに向けた通信魔法が発信されていたよ。国境付近の、あの丘の上からだ。」


「あんなに離れたところの僅かな魔力を感知できるなんて、本当にすごいです。通信魔法の件も、他の騎士達は魔力が少なくても気付かなかったようですし、さすがウィル様ですね。」

「そんなに大したことじゃないよ。でも役に立ててよかった。」


「司令塔を攻撃したら、王立魔導師団に連絡を入れることにしましょう。」

「広範囲魔法を使うならもう少しだけ敵に近付くかい?」

「そうですね。もう少し近付いても危険は少ないでしょう。完全に油断しているのか魔法妨害もないみたいですね。」

魔法攻撃の狙いが定めやすいように、敵の全体が把握できるギリギリまで鉱山を下った。


「では、黒銀騎士団を代表して、一発目はわたしが。」

大きく息をはきだすと、身体中の魔力に意識を集中させた。


すると、突然辺りの気温が一気に下がった。

ウィルフリードが司令塔があると言っていた丘の上は、すでに氷付けになり、進軍を続けていたガイラシア・ミラジオ連合軍も次々と巨大な氷の波に飲まれて拘束されていく。

異変に気付き、逃げ出そうとした者も、足が凍ってしまえばなす術もなく美しく透き通った氷に包まれた。


「メア!おい、メア!やり過ぎだ、ぶっ倒れるぞ!」

「…あ。」

わたしはヨハンに肩を揺さぶられてやっと我に返った。


「なにが一発目だよ。全部ひとりでやってんじゃねえか。いくら魔力が多いからってそんなに一度に使うとさすがに危ないぞ。」

「ああ、ごめんヨハン。ありがとう。今回上手く行けば、魔導騎士としての活躍が認められるかもって思って、舞い上がっちゃったみたいだ。ヨハンやウィル様の見せ場を取ってしまってごめんなさい。」


「見せ場とかは別にいいけどさ。まあ、おかげで早く決着ついたしよかったんじゃねえの。あとは残党がいないか確認しに行くか。」

「ああ、なら俺は父上に報告してくるよ。魔導師団の転移先の案内もあるしね。」

「はい、よろしくお願いします、ウイル様。行こうか、ヨハン。」


わたしとヨハンは、敵軍が凍ってできた氷の道に沿って歩いた。

「これ、まだ生きてるよな?」

「うん。たぶん。殺さないために氷魔法を選んだし。」

「こんなに魔力使って…。ほんとに大丈夫か、メア。」

「ちょっと疲れたけど、わたしの魔力量ってほぼ無尽蔵らしいし、大丈夫だよ。ヨハンだって、魔力の使い過ぎで倒れた経験なんてないでしょう?」

「そりゃ、まあ、そうだけどさ…。」


「あ。」

歩いていると、一人うずくまってふるふると震えている男を見つけた。

おそらく敵軍の一人だろう。

たまたま氷付けを免れたようだ。


震えてて、なんだか少し可哀想だけど、ここで甘い判断をするわけにはいかない。

わたしは、その男も一瞬で氷に閉じ込めてしまった。


その直後、目眩がして一瞬意識が遠退いた。

その時。


「ば、化け物め…!!」

もう一人残党がいたようだ。

血走った目でこちらを見る男が弓を引いた。


「メア!!」

ヨハンがとっさにメアを抱き抱えるように庇った。

その肩には、深々と男の射た矢が刺さっていた。

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