32 開戦
会議からほどなくして、今まさに、ガイラシア公国との交戦が始まろうとしていた。
シュヴァリツィア王国の北側、各自配置に付き、ガイラシア軍と国境を挟んで睨みあっている。
「ガイラシア軍の規模が想定より小さいな。」
「まあ、ガイラシアの国力を考えたらこんなものだろう。」
「いや、だがそれにしても…。」
シュヴァリツィア側は目の前に並ぶガイラシアの軍勢を見て、警戒を強めている。
「メアはどう思う?ガイラシアのやつら。」
「今のところ、何を狙っているのか全くわからないね。ウィル様はどうですか?」
「何か裏があるのは間違いないだろうけどね…。なんにせよ、シュヴァリツィアは短期決戦に持ち込むつもりでこれだけ戦力を集中させたんだろうから、そろそろ動くんじゃないかな。」
ウィル様の言ったように、シュヴァリツィア軍は一部の部隊を進軍させた。
ガイラシアから投擲物が飛んでくるが、シュヴァリツィアの者はそれをものともせずに攻めていく。
「今だ!引けぇ!」
そんな掛け声と共に、ガイラシア軍はロープのようのものを一斉に引っ張り、攻めてきていたシュヴァリツィアの部隊はまるごと深い穴に落ちていった。
「なっ…!!」
「落とし穴だと…!?」
「そんな小細工で我らに勝てるとでも思っているのか…!?」
一時期に時間を稼ぐことはできるが、確かにこれだけでは圧倒的な戦力差を埋めることはできない。
「落とし穴など、迂回すればよいだけのこと。怯むな進め!」
「うぉー!!!」
シュヴァリツィア軍は、単純な仕掛けに嵌められたせいで、若干頭に血がのぼってしまったらしい。
「ひとつ罠があれば、第二、第三の罠も強く疑うべきなのに、これでは…。」
「ちょっと良くない流れだね。」
「ええ、わたしがここから敵陣に火の球を落として全滅させても良いですが、これだけ入り乱れてしまうと味方にも被害が出ますね。」
「てかさ、今回の指揮官て、メアの親父さんじゃねえのかよ?誰だよ、あの馬鹿なおっさん。」
「あの方は、ラムド・コーンウォール様だよ。王室付きの事務官と聞いていたけれど。格下相手の戦いだから指揮官の人選は拘らなかったのかな。それと、お父様に全軍指揮なんて任せたら、王立魔導師団を全員王都に待機させようとするだろうから尚更よくないよ。」
その後も、シュヴァリツィア軍はガイラシア領内に進軍を試みたが、落とし穴、土砂崩れ、岩落とし、挟み撃ち、迷路、鉄砲水、などなど様々な罠に翻弄され続けた。
黒銀騎士団も含め、王立騎士団、王立魔導師団などの主力はまだ動いていないとは言え、かなりの惨状である。
「じりじり削られてんな…。」
「さすがに王立騎士団や王立魔導師団ならもう少し敵を削れるだろうけどね。それでも、すでにかなり攻めにくくなってる。こちらは迅速に終わらせたいのに、上手い具合に後退されて攻め切れてない。」
「時間稼ぎか…。」
ウィル様が考え込むように呟いた。
「ウィル様、何か気になることでもありましたか?」
「いや…、実は、今日ここに来てからずっと感じている違和感があるんだけど、通信魔法みたいな気配を何度も感じていて…。この戦いと関係があるかどうかはわからないんだが。」
「通信魔法…。わたしは感じ取れないのですが…。ヨハンはどう?」
「俺もわかんねえ。魔力が多いと感じ取れないのかもな。でも、戦争なんだから通信魔法くらい飛び交ってて当たり前なんじゃねえのか?」
「そうなんだけどね。通信魔法の一部が、ガイラシア軍から俺たちの後方、というかもっとずっと南の方に向けられてるような気がするんだ。さすがに内容まではわからないけど。」
「ガイラシア軍が本国の者と連絡を取るだけなら、その方角はあり得ませんね。シュヴァリツィア領内に内通者がいるか、もしくは…。」
「ミラジオ王国。昔はミラジオがシュヴァリツィアとの国境付近の鉱山群や港を狙う動きがあったし、今も狙っていたとしても不思議じゃない。」
「ガイラシアのやつらが俺らを引き付けてる隙に、シュヴァリツィアの鉱山や港を乗っ取ろうって腹かよ。だとしたら、急がねえとやべぇんじゃねえの?ここからじゃ南の国境まで結構距離あるよな。」
「まあ全部憶測ではあるけど、ガイラシア軍の動きはどう見ても時間稼ぎにしか見えないし、軍の規模が小さいのも、南に戦力を割いてるからかもしれない。どうする?メア。」
「まあ、一旦乗っ取りが成功したとしてもさ、ミラジオの戦力だって大したことねえだろ?こっちが終わったら取り返しに…。」
「いや、一度取られてから取り返すのと、取られないように守るのでは、難易度も必要な戦力も物質も段違いなんだ。街や民間人に被害が出るのも困る。今はこちらもかなり削られているし、急がないと…。」




