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31 召集

黒銀騎士団は、各地に発生した魔物の討伐を中心に、盗賊の捕縛、護衛や現地調査など、様々な依頼をこなして実績を積んでいった。

少しずつ知名度も上がり、総務局からの評価も上々で、かなり難易度の高い依頼も振られるようになってきた。


そんなある日、わたしは依頼の受注のために総務局に呼ばれていた。

カウンターでのやり取りしかしない普段と違って、その日は大きめの個室に通された。


部屋に入ると、お父様がいた。

いや、お父様の他にも10人弱の男性が席に着いていた。

お父様以外は全く面識がないのでわからないが、状況からして皆騎士団や魔導師団の人のようだ。


アカデミアには貴族の子女しか入学できないが、貴族以外でも学問や剣術、魔法などを学ぶことができる学校が王都周辺にいくつかある。

たいてい私立団の団員は、ほとんどが貴族以外で構成されており、商人や兵士、農民や職人の子など出自は様々だ。

王立騎士団や王立魔導師団はアカデミア出身の貴族が多いが、そうでない者も実力を認められれば取り立てられる。


しかし、流石にこの場に子どもはわたしだけで、とても浮いていた。

当然、訝しげにじろじろ見られる。


「全員揃ったようだな。私は王室付き事務官のラムド・コーンウォールだ。ここに集まってもらった団の諸君には、王命により、此度のガイラシア公国との交戦に協力してもらうことになった。この度の交戦の経緯は…。」


コーンウォール公爵家は、貴族の中でも最も王族に近く、王族との繋がりが強い。

一目で上質と分かる服を着た、ちょっと偉そうな金髪のおじさま、ラムド様が今回の依頼について説明を始めた。


依頼じゃなくて王命か。

どうやら、ガイラシアの領土侵犯の件は丸く収まらなかったらしい。

客観的に見て、国力、軍事力はシュヴァリツィアが明らかに勝っていると思うが、ガイラシアには何か勝算があるのだろうか。


「…ということだ。以上。何が質疑のある者はいるか?」

ラムド様が問うと、一人の男が手を挙げて発言した。


「ひとついいか?今ここにいる奴らは、一緒に仕事をしたことがある奴も多いし、ほとんどが顔見知りだ。だけどよ、そこの坊っちゃんは初めて見る顔だ。まだ新米の団なんだろうし、今回は無理に参加させなくたっていいだろ。それに、王様はそんな子どもまで戦争に駆り出すつもりなのか?」


どうやら彼はとても気の良い方のようだ。

周りの団長さん達も、彼の言う通りだと考える人が多いみたいで、いきなり戦争の作戦会議に呼び付けられた子どもを案じてくれている。


「確かに、子どもを参加させるのは気が進まないのだが、彼が率いる黒銀騎士団の戦闘力は非常に高い。今回のような大規模な作戦から外す訳にはいかないのだ。それに、彼の父親はすでに許可を出している。そうだな?ウィンチェスター王立騎士団長殿?」


ラムド様がお父様に話を振ると、お父様は表情を変えずに答えた。

「ああ、問題ない。」


皆が一斉にお父様とわたしを見比べ始めた。


「え、黒銀騎士団ってあの、化け物揃いって最近噂の私立騎士団か?まさか、そこの団長がウィンチェスターの次男坊だったとはな…。道理で団の昇格がやたらと早い訳だぜ…。」


その場にいる他の団長達も皆驚いていたが、やっと合点がいったというような様子だった。


会議が終わり、皆が部屋を出始めた頃、一人の男性がわたしに声を掛けてきた。


「初めまして、メア・ウィンチェスター殿。私はルナール・ノーフォークといいます。ウィルフリードがずいぶんと世話になっているようですね。」

上質なロープを身に纏った、物腰柔らかなその男性は、私と同じ銀色の髪に緑色の瞳をしていた。


「初めまして、王立魔導師団長様。ウィルフリード様にはいつもわたしの方がお世話になってばかりです。黒銀騎士団にもすでにウィルフリード様は無くてはならない存在なのです。」

魔法が使えるようになったウィル様を、王立魔導師団に寄越せと言われるのかと思ってわたしは警戒した。


だが、ノーフォーク公爵はわたしの気持ちを見透かしたように笑った。


「ずいぶんウィルフリードを買ってくださっているようで何よりです。別に今更取ったりしませんからご安心なさい。それよりも、私は貴方に興味がある。こうして相対しているだけで、その内に満ちる大きな魔力を感じます。それにその髪と瞳を見ると、まるで我が子のようにも思えますね。」

そう言って公爵は目を細めて微笑んだ。


ウィル様を取る気はないけれど、わたしを引き抜きたいってことか?

全く安心できない。


もちろん、わたしは魔導騎士なのだから、魔導師団に入るつもりなどない。

しかし、公爵から絶対に逃すまいという見えない圧力を感じて動けずにいた。


「何をしている、メア。さっさと帰って今回の交戦に備えなさい。」


ちょうど良いところに、お父様から声が掛かった。

お父様は鋭すぎる目付きで、ノーフォーク公爵を睨み付けている。


「これはこれは王立騎士団長殿。そんなに睨まなくとも、ただメア殿の瞳は父君の空色とは違って、私と同じ緑色ですね、とお話していただけですよ。」

殺人的な視線にも全く怯むことなく、公爵は飄々とした態度でお父様を挑発する。


「貴様に声を掛けたつもりはない。気安く話しかけるな。」

お父様は抑揚のない声で冷たく言い放つ。


「御子息はとても素直そうで可愛げがあるのに、貴方は相変わらず目付きも愛想も悪いですね。ああでも、御長男の方は貴方とそっくりでしたかな。仕方がありませんね。邪魔が入りましたし、今日のところはこれで失礼します。では、またお会いしましょう、メア殿。」

ノーフォーク公爵はにっこりと微笑んでそう言うと、優雅な足取りで帰って行った。


「二度と会う必要はない。」

お父様は立ち去る公爵を未だに睨みながら呟いていた。


この後共に戦うのだから会わないというのは無理がありますよ…。

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