3 落ちこぼれ
お母様はいつも笑顔だ。
だが、いつもご機嫌というわけではない。
怒っている時も喜んでいるときもにこにこしているので、それを読み間違えてしまうと一大事である。
かえって恐ろしい。
美しく透き通るプラチナブランドの髪に、澄んだ空色の瞳。
お父様もお兄様も美形だが、お母様は家族の中でも特に美しい。
わたしも成長したら、お母様のように女性らしく可憐で華やかな容貌になれるだろうか。
周囲の者たちは、わたしの顔はお母様に似ていると言っているが、わたしはよく男の子と間違われるし、お父様の方が近いのではと自分では思っている。
ちなみにお兄様は、見た目も性格もお父様とそっくりだ。
ぼんやりとしか記憶がないが、以前はもう少し表情豊かだったような気がするのに、最近はほとんどずっと無表情だ。
「ウィンチェスターの女は賢くなくてはなりません。」
お母様はいつもそう言っている。
わたしは、お父様もお兄様も十分賢いだろうと思って、なぜ女なのかと尋ねたことがあった。
「ウィンチェスターの男性は、いざ闘いが始まってしまえば知性など吹き飛んでしまうものなのですよ。」
そう答えたときもお母様は笑顔だった。
わたしはお母様の言う通りに賢くあろうと頑張った。
魔法のコソ練という引け目があるのだから、万が一バレたときのためにも良い子でいなければ。
ダメな子にはなりたくなかった。
家庭教師を何人も付けられて、ウィンチェスター侯爵家の令嬢として恥ずかしくないように、言語、算術、地理、歴史、科学、物理、マナー、ダンス、音楽、美術、裁縫などなど全ての分野の教養、そしてもちろん剣術などの武道を叩き込まれた。
勉強は好きだった。
頑張ればお母様は喜んでくれるし、知らないことを学んでいくのは楽しかった。
音楽も好きだ。
特にピアノとヴァイオリンが気に入って、早く上達するようにたくさん練習している。
先生も筋が良いと褒めてくれる。
ただ、絵の才能は皆無であった。
家庭教師の先生も戦慄していた。
壊滅的すぎて描くのは早々に諦めて、有名な画家や色彩の知識だけ詰め込んだ。
まあひとつくらい苦手があっても仕方ないだろう。
人間だもの。
そんなことよりも、もっと大きな問題があった。
剣術が、いや、運動神経が、いや、身体能力がいまいち優れないのだ。
といっても、並の貴族女性(5歳)の中では非常に秀でていると言えるだろう。
しかし、ウィンチェスター侯爵家に求められるレベルには明らかに達していない。
「普通の人間よりはマシという程度だが、一応加護は受けているのだろう。どうにも中途半端な加護だが。」
お父様はわたしのお稽古の様子を見る度に、冷たい目でこちらを睨んでいた。
「ラインハルト様、何度も言うようですが、メアは女の子なのですから、そこまで拘らなくても…。」
「たとえ女でも、精霊王の加護を受けていながら弱いなどということになれば、他家に示しがつかんだろう。わが侯爵家の子どもは、王立アカデミアでは男も女も全員騎士科に入学することになっているのだからな。」
これはまずい。
非常にまずい。
魔力があっても勉強ができても、剣術ができなければウィンチェスター家ではダメな子なのだ。
なんとかしなくては。