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29 ヨハン目線

ウィルフリード様が騎士科の実習訓練があるとかで、今日の任務はメアと俺の二人だけだ。

依頼内容は商隊の護衛で、途中で一度野営をすることになっていた。


テントや寝床は依頼主側が用意してくれると聞いていたのだが。


「なんでテント一つしか準備してねえんだよ。しかも狭すぎだろ…。」

「まあ、荷物が増えると大変だから仕方ないよ。わたしのことも男だと思っているだろうし。」


あり得ねえ。

これじゃ殆ど添い寝じゃねえか。


泊まりがけの依頼は初めてではないが、こんな状況は今まで一度もなかった。

なにより今回はウィルフリード様がいない。

メアと狭いテントで二人きり…。

眠れるはずがなかった。


「どうにかしてもらえねえか頼んでくる。無理だったら俺は外で寝る。」

「わたしはここでヨハンと一緒でいいよ。地面で寝たら身体が痛くなるし、騎士団の遠征だったら狭いところで一緒に雑魚寝なんて日常茶飯事でしょう。」


それはそうかもしんねえけど。


「…ここにいたってどうせ寝れねえから、外で見張りすんだよ。」

「防御魔法で結界を張るんだから見張りなんて必要ないじゃない。大丈夫。わたし、いびきとかかかないから心配しないで。」

「そういうことじゃねえよ…。」


なんでメアは平気なんだよ。

男と二人だぞ。

信用されてんのは嬉しいけど警戒心なさすぎだろ。

少しは恥ずかしがったりとかしてくれよ。


「ヨハンは、わたしと一緒に寝るのがそんなに嫌なの…?」

気が付くと、メアはあからさまにしょんぼりとした様子で、悲しそうに眉尻を下げてこちらを見ていた。


「…っ、そんな顔すんなよ。別に嫌だなんて言ってないだろ。」

嫌なわけない。

本当はメアに触れたくてたまらない。

それを俺はいつも必死で我慢しているのに、そんな顔するなんてずるい。


「じゃあ、今夜はわたしと一緒に寝てくれる…?」


そんな、同衾みたいに言うな。

意識しちまうだろが。


「…わかったよ。」

メアがあんまり寂しそうにするので、俺は渋々了承してしまった。


テントで横になって布を被ると、メアはすぐに気持ち良さそうに寝息を立て始めた。


もう寝たのか…。


メアが寝てる隙に、何度か外に出ようとしてみたが、その度に必ずメアが起きて引き留めてくるから諦めた。

それでもやはり眠れるはずもなく、今もこうしてメアの寝顔を眺めている。


睫毛長げえ。

毎日一緒に外で訓練してるのになんでこんなに肌白いんだよ。


桃色の小さな唇に見惚れていたら、それが微かに動いた。

「…ん、よはん、行かないで、んむ。」


今度は外に出ようとしていないのに、むにゃむにゃと寝言で俺を呼ぶメアが可愛いすぎて悶絶する。


「…どこにも行かねえよ。ずっとお前のそばにいる。これから何があったって、メアのことは必ず俺が守る。」

思わず伸ばしてしまった手で、柔らかな銀色の髪を優しく撫でた。


「おはよう、ヨハン。今日も頑張ろうね。」

翌朝、結局一睡もできなかった俺に対して、十分に睡眠を取れたメアは機嫌良く声をかけてきた。


「あー、はよ。」

欠伸を噛み殺しながら答える。


「あんまり眠れなかったの?まだ任務は続いてるんだから、ミスしないように気を付けてね。」

「わかってる。」


「ふふ。頼りにしているよ、世界一の天才魔導師様。」

「おー、任せとけ。」


これからもずっとメアの隣にいられるように、でけぇ男にならねえとな。


後日、俺はウィルフリード様に問い詰められていた。


「ヨハン君、メアと添い寝をしたというのは本当かな?」

笑顔が怖い。


「俺は寝てないから添い寝じゃねえ。」

「寝ているメアに妙な真似したんじゃないの?」

「…してねえよ。」

「まあ年頃だし、気持ちは分かるけど、正直に言った方が身の為だよ。」

「何もしてねえって。」


ウィルフリード様はそれでも疑わしそうに俺を見ていたが、しばらくして根負けしたように目を伏せた。

「そう、ならいいけど。」


「てか、そう言うウィルフリード様こそ、いっつもメアに甘えられて抱き着かれて、いかがわしいこと考えてんじゃねえのかよ。」


「あれは、初等部の頃の名残りで…、俺はメアに全く男として見られていないんだよ…。」

さっきまで笑顔で怒っていたウィルフリード様は、はあ、と溜め息を吐いて落ち込み始めた。


「俺も一緒のテントで寝るって話になったのに全然意識されなくて…、たぶん似たようなもんだと思う。」

俺もその時のことを思い出して気分が落ち込んできた。


ライバルではあるが、好きな子に相手にされていない者同士、分かり合える部分は多い。


「…だいたいメアは強すぎんだよ。たまには格好良く守ったり助けたりしてみたいのにさ。」

「そうそう。魔力量も尋常じゃないし、いくら精霊王の加護があるからってあの身のこなしは反則だよね…。」


俺とウィルフリード様は、その後もしばらくお互いの傷を舐め合って友情を深めることになった。

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