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26 初任務

ウィルフリードが黒銀騎士団に入ってからは、放課後に三人で訓練を行うようになった。

ウィルフリードは主に魔法の練習、ヨハンは今まで通り武術の訓練をしている。


「ヨハン、ウィル様、早速依頼が来ました。黒銀騎士団の初めてのお仕事です。頑張りましょう。」

わたしは張り切って二人に声をかけた。


「え?もう?学生三人の私立騎士団だよ?まだ無名だろうし、いくらなんでもその仕事は怪しいんじゃないかな…。内容にもよるけど…。」

ウィル様は訝しがっている。


「ウィンチェスターの名のおかげで、まだ子どもにも関わらず期待されているようです。それに、お父様が口添えしてくださったみたいで、新設騎士団にしてはかなり優遇されています。」

「そうか、ラインハルト騎士団長が…。それは効果絶大だろうね。早々に依頼が来るのも頷ける。」


「それで、依頼はどんな内容なんだ?」

永遠と続く基礎練習にだいぶ飽きているヨハンは、そろそろ実践を経験してみたいようで、興味津々と言った様子だ。


「木の実採取だよ。」

「木の実!?なんだ、依頼って言ってもそんな地味なやつなのか…。」

一気にヨハンのモチベーションが下がるのがわかった。


「でも貴重な実だよ。ベラドナという植物の実で、薬効が高くて需要も多いんだけど、これが貴重な理由は、単にその数が少ないからというだけじゃなくて、クラリモザっていう危険な魔物の好物だからなんだ。」

「なら、その魔物と戦えるってことか…!」

ヨハンのやる気が戻ってきたようだ。


「そういえば、そんな特徴の実があるって聞いたことがあるな。確か、見た目は丸くて真っ赤な手のひら大の実だ。」

「さすがウィル様ですね。これからは、騎士団の活動を行っていくにあたって、魔物や採集物の情報も覚えていかないといけませんね。」

「…そんなのすぐに覚えてやる。」

ウィル様がベラドナの実について知っていたのが悔しいのか、ヨハンがむっとした顔で呟いた。


「では、次の休日にウィンチェスター領の森に行きましょう。他領だと立ち入りに手続きが必要ですし、あの森にはベラドナの実がたくさんありますから初任務には丁度良いでしょう。王都からは少し距離がありますが、馬に乗って行けばすぐです。ヨハンももうひとりで馬に乗れるよね?」


「ああ、乗れる。メアは意外と鬼教官だったからな…。まあ、おかげでだいぶ体力は付いたと思う。」

渋い顔でヨハンが言う。

だが、運動が苦手だったヨハンもすっかり自信がついたようだった。


「ヨハンならやれると思ったから厳しくしたんだ。服装は今日みたいな、いつも訓練で着ているものでいいから。武器はナイフだけひとつ持ってきて。」

「剣は要らないのか?ナイフだけだと心配だろ。」


「森の中では小振りなナイフの方が役立つんだよ。狭い場所で剣は振り回せないから、荷物になるし今回は持っていかない。それにわたし達は魔法も得意だし、装備は心配いらないよ。」


次の休日、三人で馬に乗ってウィンチェスター領内、国境近くの森に向かった。


森の手前にある王立騎士団支部の拠点で、乗ってきた馬を預ける。


「今回戦闘になるかもしれないクラリモザという魔物は、大きな花のようにも見えるし、美しく愛らしい女性のような姿でもある。甘い香りで判断能力を鈍らせて、ベラドナの実を奪おうとする者を蔓で締め付けて殺すんだ。」

わたしはクラリモザの特徴を二人に説明していく。


「クラリモザは魅了の力を持っていると聞くし、用心してかからないとな。」

ウィル様はすでにおおよそ知っていたようだ。


「ヨハンとウィル様は、女性経験は豊富な方ですか?」

「「は?!」」

ふたりとも勢いよくこちらを向いた。

なんだかすごく動揺しているようだ。

そんなに驚くようなことを言っただろうか。


「…?女性に免疫があるなら、クラリモザのような魔物にも多少は耐性があるかと思って聞いたのですが…。表現がやや直接的すぎたでしょうか?」


「い、いや、急に聞かれたから少しびっくりしただけ…。俺は、別にそんな、特に経験とかは…。」

ヨハンはちらちらとわたしの顔を窺いながら恥ずかしそうに答えた。


「別に隠さなくてもいいのに。ヨハンはアカデミアでもよく女の子達に話しかけられているし、少なくとも魔法科では一番モテモテじゃない。」

元々なんだかんだ面倒見の良いヨハンは、痩せてから外見も抜群に良くなって、気さくな美少年として絶大な人気を集めている。


「あいつらはメアの話が聞きたくて話しかけてくんだよ!…てか別に興味ねえし。」


「俺も剣の鍛練で必死だったし、色恋沙汰には全く縁がなかったよ。」

ウィル様は少し自嘲するように笑いながら答えた。


「え?騎士科の演習のときなんか、わざわざ他の科から女の子が大勢ウィル様を観に来たりしてて凄かったじゃないですか。ふふ、嘘付かないでください。」

「嘘じゃないんだけどな…。」


側から見ても明らかに女子人気の高い二人が全く恋愛経験がないというのはやはり疑わしい。

まあでも本人達がそう言うのなら、今回はそういうことにしておこう。


「では二人ともほとんど経験がないのですね。それならクラリモザに近付くのは危険ですから、二人はわたしの後ろに下がっていてください。」


「えっ!?いや、メアに守ってもらうだけなんてそんなの嫌だ。それに俺は、他の女を見たって惑わされたりなんかしない!」

「ああ、ヨハン君の言う通りだ。俺だって他の女の子に心を奪われたりなんてしないよ。」


…?

よく分からないが、ヨハンもウィル様もむきになっている。

「まあ、そこまで言うなら、頑張って。」


森に入って少し奥に進むと、ベラドナの群生地を見つけた。

三人でそこに近付こうとすると、やはり近くにいたのか、クラリモザが現れた。


本当に、美しい女性のような外見で、薄紫色の大きな花の中に立っているふうなその姿は、まるで花の妖精かと思われた。

髪のように見える綺麗な緑の葉がくるんとカーブしていてとても愛らしい。


やはり男性は危険なのでは…、とそんなことを思っていたら、次の瞬間には、ウィル様が火の魔法で牽制し、ヨハンが風の魔法でクラリモザを木っ端微塵に切り刻んでいた。


黒銀騎士団の団員はまだ少ないが、すでに戦力は相当なものだ。

だが、予想以上に簡単に終わって拍子抜けだ。

記念すべき初任務で結構張り切っていたのに何もしていない。


「…容赦がないな。」

わたしが呟くと、ヨハンが得意そうに言った。

「だから言っただろ。さっさとベラドナの実を採って早めに帰ろうぜ。」


安全になったその場所で、三人でベラドナの実を採集していると、少し離れたところから人の話し声が聞こえてきた。

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