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25 設立

この日、騎士団設立の申請をするために、わたしは王城近くの行政区に来ていた。


王都の中心にある王城には、王族の住まいや議会審議の間、迎賓館などが整備されている。

そのすぐそばに位置する行政区には、財務局、法務局、総務局などいくつかの機関が置かれており、王立騎士団、王立魔導師団の本部や訓練場もこの行政区にある。


今回、用があるのはそのうちの総務局だ。

総務局では、国王や議会が決定した政策実施のための関係各所への通達や、国内外の情報収集の取り纏めなどを行なっている。

また、私立騎士団や私立魔導師団、傭兵等の募集・管理や依頼の割り振り、達成報酬の支払いも総務局が担っている。


総務局の大きな建物に入ると、多くの役人たちが慌ただしく動き回っているのが目に入る。


わたしは私立騎士団のカウンターに向かい、受付のお姉さんに声をかけた。

「すみません。私立騎士団新設の申し込みをしたいのですが。」


こちらに目を向けたその女性は、頬を赤く染め、口を半開きにして固まった。


「…?あの、すみません。」

「あ…、も、申し訳ありません。えっと、私立騎士団の新設ですね。…失礼ですが、まだ学生さんでしょうか?団員が学生だけの騎士団は、申し訳ございませんが、設立許可が下りない場合があります。」

もう一度声をかけると、お姉さんはやっと返事をしてくれた。


「そうなのですか。わたしは王立アカデミア中等部2年、メア・ウィンチェスターと申します。団員は全部で3人ですが、あとの2人もアカデミアの学生です。」


「ああ、騎士団長の御子息でしたか!本当に、ウィンチェスター侯爵家は麗しい方ばかりですね。学生とはいえ、ウィンチェスター家の方がおられるのでしたら何の問題もございませんね。お手続きをいたしますので、こちらに必要事項をご記入ください。」


男の子と間違えられるのにも流石にもう慣れた。

いちいち訂正するのも面倒だし、わざわざ紛らわしい格好をしているのはこちらなので、間違いを謝罪されるのも申し訳ない気持ちになる。

今回も特に訂正することなく手続きを済ませた。


黒銀騎士団の設立手続きを終えた後、何日も空けずに、わたしはまたお父様の部屋に呼び出された。


何の相談もなく勝手に騎士団なんか作ったから怒っているのだろうな。

しかし、すでに設立してしまえばこっちのものだ。

事前に相談なんてしていたら、王立騎士団長の圧力で申請を潰されていただろうし、今だけ大人しく怒られてやり過ごそう。


「メア、私立騎士団を立ち上げたそうだな。」

表情がないせいで冷たく見える空色の瞳がわたしを見据える。


「はい。」

「王立騎士団に入らないつもりか。なぜだ。」

「王立騎士団ではわたしの持つ魔力を活かすことができないからです。わたしは魔法と武術の両方を修めた騎士団を作りたいのです。」

「…。」


「どちらの戦力も持ち合わせていれば、より多彩な攻撃や戦術を駆使することが可能です。現在、王立騎士団と王立魔導師団の間に、ほとんど連携はないと聞いております。それはとても効率が悪いのではありませんか?」


「魔導師団とは協力できるような状況にない。」

やはり王立魔導師団とは相当仲が悪いのか、不機嫌そうな声音でお父様は言った。


「騎士と魔導師は、どうしてそこまで関係が悪化してしまったのですか?」


「…ずっと昔、事件があった。戦闘中、誤って味方を巻き込んだ者が仲間の怒りを買って殺され…、シュヴァリツィアの騎士と魔導師はその場で互いに殺し合った。両者とも先に手を出したのは相手だと主張し、真偽は今でも分からぬ。被害は殊の外大きく、怨恨は深くなった。それ以来、騎士団と魔導師団は可能な限り距離を置いている。」


「そ、んなことが…。」

「だから、どんなに非効率だろうと魔導師団と連携することはできない。」


「では、わたしが魔導騎士団を設立し、連携の有用性を身をもって示します。その恨みや不信感を和らげられるような橋渡しとなりましょう。」


生意気なことを言うなとか、お前ひとりで何ができるとか、そんなようなことを言われるのだろうか。

わたしは怒鳴られる覚悟を決めて姿勢を正した。


「…そうか。では、やってみなさい。お前の騎士団にも仕事を回すよう、私の方でも言い含めておこう。」

お父様は静かにそう言って、話は終わったとばかりに、わたしに退室を促した。


え…?

わたしは拍子抜けした。


黒銀騎士団の知名度アップに協力までしてくれるというのか。

予想外過ぎる。


お父様が認めてくれたのは喜ばしいことなのだろう。

驚きの方が勝って実感が湧かないが。


しかし王立騎士団長のお墨付きだ。

これで大手を振って活動できる。

大口叩いた手前、結果を出さなければならない。

わたしは改めて気を引き締めた。


メアが父ラインハルトの私室を去った後、母ユーリアナがそこに訪れた。


「最近は分かりやすくあの子を可愛がっていらっしゃいますね、ラインハルト様。以前は照れ隠しが多すぎて、メアに怖がられていましたのに。」

ユーリアナは、誰もが見惚れるような美しい顔に、いつものように笑顔を浮かべて、ふふっ、と揶揄うように言った。


「照れてなどいない。あれの剣の腕があまりにも未熟なので、このままではウィンチェスターの名に傷が付くのではと思っていただけだ。」

ラインハルトはいつにも増して仏頂面で答えた。


「先ほどこの部屋から出て来たあの子、なんだか呆然としていましたよ。また嫌われるようなことを言ったのではないですか?」

「…ユーリアナ。メアは私のことを嫌ったりなどしない。」


「あらあら、子煩悩も大概にいたしませんと、あの子が嫁ぐ時に大変ですよ。」

「あれは騎士になり、将来もこのウィンチェスター家で過ごすのだから、他家に嫁ぐ必要はない。」


「ウィンチェスター家は女性も騎士になるほど特別なお家柄、とは言っても侯爵家の娘ですよ。いずれは然るべきお家に輿入れしなければならないでしょう?我儘仰らないでくださいな。」

「私がいつ我儘を言った。だいたい、どの家の者も皆、今もあれを男だと思っている。二番目の御子息にうちの娘はどうかと、そんな話ばかりだ。」


「それはラインハルト様があの子を誰にも紹介なさらないからでしょう。ヴィクトルも周囲の誤解を訂正する気がないようですし、親子揃って縁談の邪魔ばかりするなんて…。」

またふふっと笑いながら、あの子も大変ねえ。とユーリアナは小さく呟いた。


そのとき、コンコンっとノックの音がして、ラインハルトが返事をすると、ヴィクトルが顔を出した。


「申し訳ありません、お話中でしたか。」

「構わない。入りなさい」


「では、失礼いたします。メアのことで少しお話が…。」

「あら、今もちょうどメアの話をしていたところなのよ。」

あなた達二人がメアの恋路を邪魔してるっていう話をね、と思いながらユーリアナはヴィクトルを見て微笑んだ。


「そうだったのですね。メアが騎士団を新設したというのは本当ですか?」

「ああ、そうだ。魔導騎士団とか言うものを作るらしい。」


「魔導騎士団…。そういうことでしたか。」

ヴィクトルはその意味を考えるように呟いた。


「あれにはやってみろと言ったが、お前は不満か?」

「いえ。たしかに、今のメアなら武術にも魔法にも秀でた騎士になれるかもしれません。私は王立騎士団で自分の義務を果たします。メアはメアで自分の道を進めば良いと思います。」


「…そうか。メアが王立騎士団に入らないのだから、ヴィクトル、お前がウィンチェスターの騎士二人分の働きをしなさい。」

「心得ております。」

そう答えたヴィクトルの瞳には、これまで以上に強い意志が宿っていた。

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