21 借り物
今日も元気にヨハンと共に鍛錬である。
1年ほど武術と身体強化の厳しい鍛錬を続け、ヨハンの体はみるみるうちに痩せて引き締まっていった。
まあ、毎日あれだけ運動していれば、丸い体型を維持する方が難しそうだ。
無駄な贅肉が落ちたヨハンは、意外にもかなりの美男子だった。
わたしと同じくらいだった身長も少し高くなり、丸まっていた背筋も伸びて、美しい体躯になってきた。
肉に埋まって高慢そうな印象を与えていた深緑の瞳も、今では大きく見えて柔らかい雰囲気になった。
少し癖のある黒髪も愛嬌があって可愛いと、女の子達の間でも密かに人気が高まっている。
そんなヨハンはさっきからわたしの方をちらちらと見てくる。
「メアはさ、もう婚約者とかいたりするのか…?」
小休憩中、ヨハンが意を決したように尋ねてきた。
「いないよ。」
今は婚約の予定もないけど、いずれは愛する人と幸せな結婚がしたい。
上級貴族はなにかと面倒そうだから、できれば家格の低いところに嫁ぎたいな。
メアはアカデミア入学まで存在を秘匿され、お茶会やパーティーなどの社交場に一切顔を出していなかったことと、いつも騎士の格好をしているせいで、世間では男だと思われている。
家族も周囲の誤解を訂正しないでいるため、ウィンチェスター侯爵には御子息が2人と認識されているのだ。
実際、メアに一目惚れした令嬢の家からは度々婚約の申し込みがあるが、令息からは全くない。
「じゃあ気になってる男とかは…?」
「気になってる男性?んー、ウィルフリード様かな。わたしのことをとても可愛がってくださっているんだ。」
「可愛が…?え?それって…。」
「あっ、ウィル様の魔力増強のこと忘れてた。お手伝いするって約束していたのに。」
ヨハンがまだ何か聞きたそうにしているが、今ちょっと忙しい。
魔法科に転科したあと、早く周りのみんなに追い付くために、わたしは魔力の基本的な知識を身に付けた。
魔力のある人は、みんなそれぞれ自分の中に魔力の器を持っていて、その器の大きさで魔力量が決まる。
消費した魔力は時間とともに回復するが、自分の持っている器以上の魔力を溜めておくことはできない。
ウィルフリード様は、魔力の器が小さいために、一度に使える魔力が少なくて困っているということだから、さしあたって検討すべきことは3つ。
器自体を大きくすること。
魔力の密度を高めて収納すること。
自然の中の魔力を借りること。
「ヨハン、魔力の器を大きくすることってできるかな?」
休憩を終えて鍛錬に戻ろうとしていたヨハンに聞いてみた。
「そんなのできるならとっくにみんなやってるだろ。魔力の器は硬いグラスみたいなイメージだから、大きさは変えられないんじゃないか?」
たしかにグラスは膨れたり縮んだりしない。
「じゃあ、魔力を圧縮して器に収納するのはどうかな。」
「それは試したことがある。魔力を圧縮して密度を高めると、魔力の質が良くなって、強力な魔法や繊細な魔法が発動しやすくなったんだ。」
「そうなんだ!やっぱりヨハンは頼りになるね。わたしも練習してみるよ。」
「だけど、圧縮しても魔力量は増えないぞ。魔法を使える回数は変わらないんだ。」
「そうか…。ならあとは自然の魔力を借りる方法を探すしかないか…。」
「自然の魔力を借りる?そりゃ、植物とか川とか地面とかも魔力を含んでるっていうのは習ったけど…。自分のじゃない魔力を使えるのか?」
「わからない。けど、魔力切れの場合とか、人が他者に魔力を分けてあげることはできるらしいし、もともと自分の魔力だったかどうかは、たぶん関係ないんじゃないかな。」
「あー、まあたしかに、そうかもな。」
「人に魔力を分けるときは、手を触れるのが一番簡単だってユリシス先生が仰ってたけど、木とかに直接触れれば魔力を得られるかな?」
「どうだろうな。やってみるか?」
それから、ふたりで木を触ったり地面を触ったり、意味もなく念じてみたりしたが、魔力を得られそうな気配は全くなかった。




