16 ヨハン目線
俺は全属性の魔力の持ち主で、天才魔導師だ。
大抵の人間は一つずつしか持っていない、水、火、土、風の四つの属性を全て持ち合わせている。
しかも魔力の量も凡人とは桁違いだ。
貴族のくせに魔力のないやつもいるっていうんだから、どう考えても俺はこの世で一握りの天才のうちの一人だろう。
将来は王立魔導師団で大活躍する予定だ。
デイカー男爵領は王国の端っこにあるど田舎だ。
大した特産品もなく、まあまあの品質の小麦をそこそこの量生産しているだけの、特に見どころのない領地だ。
アカデミアのやつらは、俺のことを田舎男爵の子だといつも馬鹿にしている。
でも俺からすれば、奴らの方こそ一属性の凡庸な魔力しか持たない凡人で、天才魔導師の俺とは次元が違うのだ。
それなのに、何をあんなに偉そうにしてるんだか。
「そこを退いてくれないか、デイカー。」
クラスメイトの男が横柄な態度で声をかけてきた。
「あ?なんだよ。向こうから通ればいいだろ。」
「そりゃ田舎では場所に困らなかっただろうけど、王都では君のその大きな体は通行の邪魔だよ。」
近くにいた奴らがクスクス笑う。
「お前、魔法で俺に勝てたこともないくせに生意気だぞ。痛い目に合わせてやろうか!」
「おや、辺境出身者はやはり野蛮だな。ちょっと魔力量が多いからって調子に乗るなよ。いくら魔法が得意でも、怠惰でヘタレな君が魔導師団に入れるわけがない。」
「なんだと!」
「悔しかったら必死に運動でもして嵩を減らすんだな。」
運動は嫌いだ。
勉強も嫌いだ。
嫌なことはずっと避けてきた。
天才魔導師の俺には必要ないからだ。
「教養科目はほとんど落第しているそうよ。」
「田舎者で外見に気を遣えない上に頭も弱いなんて気の毒ね。」
「いくら全属性持ちでもそれじゃあ魔導師団は厳しいわよね。」
女どもは面と向かっては言わないが、いつもヒソヒソ馬鹿にしてくる。
中等部に上がった新学期最初の日、ユリシス先生が騎士科からの転科生を連れて来た。
騎士科の野郎たちに魔力なんかほとんどねえだろ。
魔法科に転科なんかしてどうしようっていうんだ。
ウィンチェスター?
たしか子爵家、とかだったか…?
もちろん領地の場所なんて知るわけない。
むかつくことに、転科生の少年はかなりの美形だった。
おまけに、すらっと背が高く、手足が長い。
長く伸ばした銀髪を後ろで一つに結んでいる。
確かに服装は騎士科の制服だが、本当に毎日鍛錬していたのかと疑うくらいに肌は白く滑らかだ。
「あのウィンチェスター家の御子息よね。お美しいお姿だけれど、きっととてもお強いのでしょうね…。」
「ええ、わたくしもあんな素敵な騎士様に守っていただけたら…。」
教室の女子たちがアイツを見て頬を染めているのがわかって、余計にイライラした。
俺は太った容姿を馬鹿にされることも多いから、見た目の良い男は嫌いだった。
ちっ。
ユリシス先生は俺の隣に机を置いていたから、アイツはこの席に来るんだろうな。
気に食わない奴がいつも隣にいるなんて最悪の気分だ。
予想通り、ユリシス先生に言われて奴が俺の隣に座った。
「よろしく。」
声をかけられたので、一応奴に目を向けた。
…っ!!!
女の子だ。
か、可愛い…。
クラスメイトの女子もまあまあ可愛いとは思うが、彼女の可憐さ、美しさには遠く及ばない。
騎士科から来たって聞いて男だと思い込んでいた。
近くで見れば、間違いなく女の子だ。
長い睫毛に縁取られた、大きなペリドットの瞳が俺を見ている。
「よ、よろしく。俺のことはヨハンでいいよ。」
「わかった、ヨハン。わたしもメアと呼んでくれて構わないよ。」
ヨハンと呼べと自分で言ったのだが、彼女に名前を呼ばれて俺は有頂天になった。
メア、か。
ああ、可愛い…。
こんな綺麗な子がいつも隣にいるなんて最高の気分だ。




