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12 ヴィクトル目線

妹のメアは、これまでウィンチェスター侯爵家の子が誰も持って生まれなかった魔力を持っている。


妹のことは昔から可愛くて仕方がないが、気を抜くとすぐに甘やかしてしまいそうになるので、そんな素振りは一切見せないように、普段からかなり気を付けている。


メアの生まれ持った身体能力は、ウィンチェスターの平均水準からは遠くかけ離れていた。

しかし、加護を持つウィンチェスター侯爵家の者には国防の主力を担う義務がある。

これから先、大きすぎるその名を背負って生きていかなければならない。


精霊王の加護がなければ、血反吐を吐くほど努力したところで、身につく実力などたかが知れている。

それでも、少しでも力を付けさせてやりたくて、稽古では心を鬼にして完膚なきまでに妹を打ち負かす。


ずっと私が守るから無理はしなくていい、と何度言ってしまいそうになったことか。


しかし、どんなに厳しく接しても、妹は変わらず私ににこにこと話しかけてくる。


内心、嬉しくてたまらないが、厳しい兄を常に演じていなければ二度と稽古など付けられなくなりそうで、つい素っ気なく接してしまう。

そのうち愛想を尽かされやしないかと、ひやひやしながらも、今日までどうにもできずにいる。


ある日を境に妹は、目に見えて身体能力が上がっていた。

スピードもパワーも格段に向上していた。

まだまだ私に追いつくほどではないが、練習相手の役割は十分果たせる実力をつけていった。


「はやくお兄様のように強くなりたいです。」

力が付いてきたからか、少し誇らしげな表情で妹が言った。


「お前が今の私と同じくらい強くなる頃には、私はもっと強くなっている。一生お前が私に追いつくことはない。」

いつものように冷たく言い放ってしまったが、何故か妹は嬉しそうに笑っていた。


どんな手を使ったのだろうか。

何をするにしても、おそらく一朝一夕で身に付くようなものではないだろう。

愛する妹の著しい成長を自分のことのように嬉しく思った。


もうすぐ私もアカデミアを卒業という時期のある日、騎士科の同級生のジルヴェスター・バースという男がこちらに近づいてきた。

バース侯爵領は有用な資源の取れる鉱山をいくつも有しており、工業も盛んで経済力豊かな領地だ。

王都を挟んでウィンチェスター侯爵領の南西に位置している。


亜麻色の髪にルビーの瞳をしたジルヴェスターが、いつものように気安く話しかけてくる。

「ヴィクトル、お前も相当なものだったが、初等部の弟もとても優秀だそうじゃないか。武術も教養も満点しか取ったことがないって聞いたぞ。」


弟…?ああ、確かにアレは男にも見えるか。

たしか父様も以前、娘を御子息と呼ばれたがそのまま誤解させておいたと言っていたな。


女とわかった途端に、その辺の男どもがメアに纏わり付くと思うと鬱陶しい。

父様の言う通り、誤解している奴らにわざわざ教えてやる必要もない。


「当たり前だ。」

「うわー。ウィンチェスターではそれで当たり前なのか?苦労するなあ。あ、そうだ!今度、弟も紹介してくれよ。」

「断る。」

「えー、なんでだよ!?結構可愛い顔してるって噂なんだよ。一回会ってみたいんだ。用もないのに初等部を覗きに行くわけにもいかないだろ?頼むよ。」

「煩い。二度とその話をするな。」


「あれ?やっぱ実は兄弟仲悪いって噂もほんとだったのか?よく一緒にいるウィルフリード様とはめちゃくちゃ仲が良いって聞いたけどな。」

「お前には関係ない。」


そんなくだらない噂を流したのはどこのどいつだ。

私とメアの仲が悪いわけがないだろう。


ウィルフリードというのは、ノーフォーク公爵家の末の子か。

…そのうち様子を見に行ってみるか。

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