10 ジークとの試合
「おい、女。」
ある日の放課後、クラスメイトのジーク・カーライルという少年が不躾に話しかけてきた。
珍しく女だと認識されていて驚いた。
この失礼な男は、カーライル伯爵家の三男だ。
カーライルの領地は、ウィンチェスターと同様に国境に面しており、ウィンチェスターの領地とも僅かだが接している。
王立騎士団において共に国防を担う家柄なのだが。
「お前、まぐれでゼノビアさんに勝ったからって調子に乗るなよ。ゼノビアさんだって女相手だから手加減してたに決まってるだろ。」
…ジークはゼノビアをとても慕っているようだ。
だから女だとわかったのか。
しかし、わたしを巻き込まないでほしい。
それにゼノビアは女相手でも手加減などする奴ではない。
「…はっ、まさかお前、侯爵家のわたしに伯爵家程度の奴が話しかけるな、とか偉そうなこと言うつもりか?アカデミアでは身分差は関係ないだろ。そんなことも知らないのかよ!」
まだ何も言っていないのだが。
面倒なやつに絡まれてしまった。
騎士科には面倒なやつしかいないのだろうか。
「…実際は大して強くもないのに、わたしの態度が大きくて気に入らないと、君が言っているのはそういうこと?」
「そうだ。だいたい女のくせに騎士科に入るなんて何考えてるんだ。いくらウィンチェスターの子だからって、命を懸けて国を守るなんて女には無理だろ。」
口で言っても仕方なさそうだ。
わたしは内心呆れながら答えた。
「申し訳ないけれど、わたしには偉そうにしてる自覚がないんだ。わたしと君で手合わせして、もし女のわたしに君が負けたら、今後くだらない難癖を付けるのはやめてくれないか。」
「な、難癖だと?…はっ、いいだろう!だがもし僕が勝ったらそのときは、お前に騎士科を辞めて貰う!」
「わかった。じゃあ早速やろう。」
全く賭け代が釣り合っていないが、負ける理由がないので問題ない。
わたし達は騎士科の訓練場へと移動した。
会話をどこから聞いていたのか知らないが、ギャラリーもそれなりに集まってきている。
「僕はゼノビアさんのように手加減しないぞ。怪我しても自己責任だからな。」
「ああ、頼むから全力でやってくれ。」
後から、あれは本気じゃなかったとか、なんだかんだ言われるのが一番面倒だ。
「ではいくぞっ!」
ジークが勢いよくこちらに向かってきた。
そして、渾身の一撃を繰り出す。
…やれやれ。
これでこいつの女性蔑視が少しは改善されると良いのだけれど。
そう願いながら、わたしは目にも止まらぬ速さでジークの木刀を弾き飛ばした。
「なっ…!」
ジークは空っぽになった自分の手の中を見つめて茫然としていた。
「それじゃあね。ちゃんと約束は守ってくれよ。」
わたしはそれだけ言うと、さっさとその場を後にした。
膝を付きがっくりと項垂れるジークに、近くで見ていたゼノビアが近づいてきた。
「メアに喧嘩を売るなんて大した度胸だな!」
「ゼノビアさん…。女に負けるなんて、僕、自分が情けなくて、ううっ…。」
「俺もメアに負けたぞ!知ってるだろ?」
「ゼノビアさんは手加減してたんじゃ…?」
「全力で戦って負けた!だが俺は絶対に諦めない!必ずメアに勝ってみせる!だからジークも諦めるな!」
「…っ!はい!ゼノビアさん!」
「よし!では一緒に特訓だ!付いて来い!」
「はい!どこまでも付いて行きます!」




