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IDOL DREAMER!  作者: 会津さつき
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第2話【先行き不安】

 昨日、あれからしばらくお昼寝をして目覚めたのは午後六時を過ぎた頃。その時間からではポスターの作成云々をしてしまうと、沙輝の帰りが遅くなってしまう。それを避けた結果が·····。

「結局これになっちゃったね」

「仕方ないよ、あのままやってたら沙輝ちゃんの帰りが遅くなっちゃうかもだったし」

 昨日は勧誘ポスターの一部修正を済ませて終わっている。流石に誤字は修正し、それを千夏の家にあるプリンターで大量に印刷して今日からの部活動勧誘に臨むらしい。

 今日から四日間、火曜日から金曜日までの放課後、校門付近にて登下校する新入生を在校生が部活動勧誘する事になっている。バスケ部や陸上部、水泳部などの運動部をはじめ、吹奏楽部などの文化部。総勢九つの部活が勧誘に臨む。その部活の中に、千夏たちも混ざる。そうでもしなければ出遅れてしまい、新入生獲得に失敗してしまう。

「今日から四日間、部活動勧誘がんばろぉ!」

「お~!」

 気怠く返事をする沙輝は、昨日の晩。スクールアイドルについて猛勉強していた為、少し寝不足気味の様子。欠伸が止まらない。

 春の穏やかな陽の光と窓から入る箱根のさわやかな風、それに単調な授業が沙輝と千夏を睡魔の道へと引きずり込む。おかげさまで二限から四限まで授業間の休み時間以外の記憶が無くなっている。それもそのはず、深く寝てたんだから。そりゃ記憶もないはずだ。

「千夏起きて~! ほら沙輝も!」

 そう言って起こしてくるのは、三年生の『矢田香織』。千夏の幼馴染で、芦ノ湖のほとりにある桃源台にてお茶屋をやっている実家の看板娘だ。去年からお昼は一緒に食べる事になっていた。

「もう、いつもの場所に居ないから探しに来てみれば寝てるとか、新学期早々不真面目ね」

 まったくもって香織の言う通りだ。新学期始まってから二日目でもう寝れる。先生も可哀想だ。

 千夏は机に伏していた身体をゆっくりと起こす。伏せていたせいか前腕に赤い跡が残っている。それはおでこにも残っていた。

「だって、この陽の光とそよ風が眠りを……ふわぁ……」

 大きく伸びながら欠伸をする。それに続いて沙輝も伏していた身体を起こす。

「私は夜までスクールアイドルについて勉強してたから……ふわぁ……」

 沙輝がそう言った直後、かすかに香織の顔が険しくなったのを、千夏は見逃さなかった。しかし千夏はそれについては問いたださなかった。寝起きで半覚醒だったため、それが見間違いだと考えたからだ。誰しも寝起きで観測した者には自信が持てない。

「そっか。とは言え二人とも、授業中に寝るのは良くないよ」

「「ごめんなさい……」」

「午後はちゃんと受けなよ?」

「「はぁ~い」」

 千夏達からすれば、香織はお姉ちゃん的存在である。いや、保護者なのかもしれない。

 今はお昼休み。お昼ご飯を食べなくてはならない。持参したお弁当と水筒が入ったトートバッグを持っていつもの中庭へと向かう。

 中庭にある桜の木を囲むベンチに腰かけ、ランチタイム。千夏はまげわっぱのお弁当箱に、和食ベースで彩り豊かなお母さんの手作り弁当。沙輝はそぼろと卵とエンドウ豆の三食丼をベースにして、トマトなどの野菜も添えた栄養バランスを考えたお弁当。それに対して香織は野菜たっぷりのハムサンドとほんのり甘いたまごサンド。それにプラスしてデザート程度のイチゴサンド。もちろん千夏たちの分も作ってある。さすが保護者、じゃなくてお姉さん。気配りのできる事。

「ふにゃあぁぁ……イチゴサンド美味しい……」

「クリームたっぷりな上に、イチゴが甘酸っぱくて……」

「「惚れるわぁ~」」

 息ぴったりである。事前に打ち合わせなどはしていない天然ものである。

「ありがとう、そんな二人に朗報だよ。これ、うちの新作メニューに加える事になったから、良かったら食べにおいでよ」

 それを聞いた千夏と沙輝は目をキラキラ輝かせる。こんなに美味しいものが食べられるんだから、それはそうなって当たり前だ。

「「絶対食べに行く!」」

「あはは、期待しないで待ってるよ」

 そう言われるのも仕方ない。千夏たちの最寄り駅である強羅駅近辺から桃源台にある香織の家まで行くのは結構大変なのだ。観光で訪れる人たちは、ケーブルカーとロープウェイを合わせて使うが、そうすると片道約二千円と箆棒な金額が掛かってしまう。なので駅から出るバスに乗り、途中の宮ノ下で乗り換えて向かう必要がある。これもまた一時間半ほどかかり、そこそこ大変なのだ。

「はぁ·····もう少し香織ちゃんの家が近かったら毎日でも食べに行くのに·····」

「確かに千夏の家からは遠いかもね、でも千夏の家から小田原まですぐだから良いじゃん。こっちなんかバスで一時間ちょいだよ? その上片道千円超えるし……」

 そう、大体このあたりに住む嶺女生は小田原に服など雑貨を買いに行く。この辺りでは、『家が学校と小田原に近い=ステータス』なのだ。

 そんな感じで談笑をしていると気付けば予鈴が容赦なく三人の女子会に終止符を打つ。

「あっ! そういえば次の授業選択だった! 急がなきゃだから先行くね!」

 そう言って香織は足早に中庭を後にする。

「私達もそろそろ戻ろうか」

 残された千夏と耀も教室に戻る準備を進める。

「ねぇ沙輝ちゃん、私達ってこの後の授業なんだっけ?」

「えっとね、確か化学だった気がする」

 その言葉に千夏は絶望する。千夏の苦手科目は理系科目、その中でずば抜けて苦手なのが化学の授業。千夏曰く、「なに言ってるのか分かんな~い」だそうだ。

 しかし化学の授業を避けられるはずもなく、足取り重く教室へと戻る。しかし、この時の千夏は知らなかった。化学式という睡眠魔法に襲われ、化学の先生に教科書で叩き起こされることを知る由もない。

 放課後、遂に来たる部活動勧誘。千夏たちにとっては勝負の時だ。

「ついに来たね、勝負の時だよ。ちなっち、準備は良い?」

「バッチリだよ。さぁいざ校門へ!」

 千夏たちはホームルーム終了後すぐに校門前に向かう。急がなければ他の部活に取られてしまうからだ。校門前はどの部活動も狙う好立地の為、部活動同士の競争率も激しいのだ。

しかしながら、千夏たちは競争にすら混じれなかった。運動部の三年生が送り込んだ刺客である二年生が既に好立地を占拠している。

 仕方なく千夏たちは少し好立地から外れたところに拠点を置く。役割はこうだ、千夏が声出しをして沙輝がビラを配る。これで完璧……と思われた。

 声を出しても出しても、チラ見をする程度で目の前を通り過ぎる新入生。沙輝のビラ配りすらほとんどの生徒が受け取ってくれない。

 部活動勧誘は三日にわたって行われる。一日目に配れた部数はたったの五部、余ったのは四十五部。全部を配るには途方も無い数字だ。

「あ、明日があるよ! 明日こそ全部配るぞー!」

 そう言い聞かせ、今日は撤退。しかし翌日、千夏たちの願いは叶う事はなく、生徒会室に居た。そう、状況は悪い方向に進みつつあった。

「コレはどういう事ですか?」

 目の前には生徒会長と千夏が作った部活動勧誘の紙が。

どうしてこうなったのか、事の始まりは三十分前に遡る。今日も放課後にビラ配りをしていた千夏たち、これと言ってビラをもらってくれる生徒 は片手で数えられるほどにしか居なかった。

そんな時、風が吹いて数枚のビラが飛ばされてしまった。その飛ばされたたった一枚が、偶然にも部活動勧誘の様子を見に来た生徒会長の手中に収まり、申請書も出されていない部活が勧誘している事実に対して「これはどういう事ですか?」という流れになり、生徒会室に連行、現在に至る。

「えっと〜、部活申請をするのに部員が足りなくて·····勧誘してました!」

千夏のその言葉に呆れたのか、はたまたその言葉が生徒会長の怒りを買ったのかは知らないが、生徒会長が両手を机に叩きつける。

「馬鹿馬鹿しい。すぐに勧誘から撤退してください!」

 生徒会長は千夏達に撤退しろと命じるが、そう簡単に千夏は折れない。千夏も生徒会長の机を両手で叩く。

「イヤです! 絶対に撤退しません!」

 二人の迫力は凄いものだった。マンガ的に表現すれば二人の間にバチバチと稲妻のような物が走っている。そんな描写を想像すると分かりやすいと思う。まさにその描写が目の前で行われているのだ。

 その時、千夏の後ろで勢いに押し負けて小さくなりつつあった沙輝が口を開いた。

「あの……生徒会長」

「なんですか?」

 冷静さを取り戻す為に一つ咳払いをする。その後に沙輝が切り出した。

「コレはあくまで噂程度の事なので、聞き流してもらっても構いません」

沙輝は小さく深呼吸をしてから。

「生徒会長。あなたは過去にスクールアイドル部を設立しようとした生徒に対して頑なに設立を拒み続け、部員が最低人数に達したにも関わらず設立を承認しなかったという噂がありますが。もしコレが事実なら、あなたは私達に全く同じ事をするおつもりですか?」

 沙輝のこの言葉に、冷静さを見せていた生徒会長が少し動揺している。

 一方、千夏の方は「そんな噂、私知らないんですけどー?」と言いたげな目で沙輝を見つめた。

 生徒会長は再度咳払いをし、冷静さを取り戻す。

「所詮は噂です。ですが、もし仮にそれが事実であるならば、私は否定するでしょう。頑なにね……」

 その後に小さな声で何かを言っていたように思えたが、沙輝や千夏には聞こえなかった。

「とにかく承認は出来ません。お引き取りを」

「分かりました」

 生徒会長のその言葉に千夏はただでは下がらない。退室間際、生徒会長に最後の抵抗を試みる。

「往生際が悪いかもしれませんが。ある程度の部員が確保出来たら、もう一度来てもいいですか?」

 この抵抗が、千夏達にとって最後の抵抗であり、最終手段だった。先程、「頑なに拒否する」という言葉が千夏達の脳裏を過ぎる。その言葉は、もう一度チャンスを貰える確率を大幅に下げることも意味していた事は二人とも理解していた。だが、生徒会長は不敵な笑みを浮かべてから。

「良いでしょう。二週間の猶予を与えましょう」

 その言葉は、千夏達にほんの少しの可能性が生まれた事を意味した。

 だが生徒会長の最後の言葉に、一同は息を呑んだ。

「最低九人を集めてください、それが最低条件です。スクールアイドルと言うモノは、最大九人での参加が可能と小耳にした事があります。その人数を集めてください。そうすれば、少しはこちらでも考えましょう」

 ハードルが大きく上げられた。スクールアイドルはソロからグループと幅が広い。グループは最低二人、最大九人で編成とスクールアイドルの活動規約に記載されているのは事実だ。もちろん千夏も把握している。この条件を満たすのは、容易ではない上に千夏達には選択肢がない。

 自ずと答えは出た。こんなので引き下がるほど弱くはない。

「分かりました。二週間ですね、なんとしてでも集めます」

「強気ですね、期待して待ってます」

 その言葉は煽りにも応援にも聴こえる言葉だった。どちらかなんて答えは必要無い。今は生徒会室を後にし、仕切り直す事が先決だ。

 千夏達は生徒会室を後にし、今日は帰宅する事にした。





 千夏達が昇降口から出てくる姿を、窓越しに見つめる生徒が独り。先程の騒がしさから一転、静寂に包まれたこの空間にただ独り。

「スクールアイドル……悪いですが設立は止めさせていただきます」

 そう呟き、彼女は拳を握り締めた。


大変長らくお待たせ致しました。

無事に第一志望大学に合格し、執筆活動を再開することとなりました。

長期間執筆活動から離れていた為、前回とは言い回しが違う箇所が多々あると思います。暖かい目でご覧いただければ幸いです。


という事で次回予告です。


【次回予告】

千夏達に真っ向から立ちはだかる生徒会長。そして、千夏達に課された大きな課題。なんとしてでも9人を集めなくては!

次回!【部員探し】

お楽しみに!

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