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幕あい Part L-2 対策局へ配属だ

【西暦2126年11月10日】


 今日は俺達2111年生まれの誕生日。

 15歳になった日だ。

 そして、初めてラボに顔を出す日でもある。

 そう、この前の最終テストで歴代最高スコアの99.8を取った俺は、見事パイオニアに認定され、希望どおりラボに配属されることになったのだ。




 パイオニアになるかノーマルになるかは、成人の時、つまり15歳の誕生日に決定される。

 後になって変更されることはない。

 そして、パイオニアになれるのは同年代の中で2パーセント足らずだそうだ。

 うちのスクールには92人の同級生がいたが、卒業時にパイオニアと認定されたのは俺とヘレナの2人だけだった。


 ノーマルとなった者は、揺り籠の中で一生を遊んで暮らす。バーチャル空間の情報、娯楽、趣味に浸り、合成食料を摂取しながら。

 別に閉じ込められて外に出られないわけじゃない。ただ、リアルの世界には何もないから。

 半世紀前までは残っていたという様々な「仕事」も、今ではほぼ全てAIと機械が代わりにやってくれる。


 人類は、労働から解放されたのだ。


 技術革新は高性能で効率的な機器と人間に近いAIを生み出した。

 しかし、それでもAIにはイノベーション、つまり「既存の知識の延長線上でない新たな発案」を行うことが出来なかった。

 そこで、希望者の中で知能が特に優れている者が「パイオニア」に認定され、ラボで研究活動を行いながら将来の技術を発案し、AIを統括する。


 より良い未来を築くために。






 メッセージが来ている。

 ラボからだ。

 俺のアカウントにS135ラボへのアクセス許可が与えられた、とのこと。

 S135ラボは、俺のいる揺り籠のすぐ隣に建っている研究施設だ。

 先月隕石が落ちた場所。

 まあ隣と言っても、結局自分の揺り籠からバーチャル上でアクセスするだけだから距離は関係ないんだけど。


 ん? いや、違うな。

「リアルで来るように」と記載されている。

 バーチャルじゃなく、実際にラボに来いってことか。

 生身か……面倒くさいな。

 まあ、機密情報の保護とか、色々あるんだろう。

 結局ラボの施設内のより安全な揺り籠へと移るだけだ。




 さて、今日のニュースは……またこれか。

 ここ半月の間に世界各地で話題になりはじめた人間の大量失踪。


 原因は不明。


 失踪した人間はこれまでで400万人を超えた。

 今の世界人口が20億だから、全人口の0.2%。

 どうせ消えてんのはノーマルばっかだろ?

 どうでも良いよ。

 近頃まともなニュースがないな……。


 さて、そろそろラボへ行くか。

 何か緊張するな。




 あの日以来久しぶりにラボを訪ねた。

 白く巨大なその外壁が研究所の崇高さを表しているようで、改めて見ると圧巻だ。

 そして、同時に誇らしい。


 ここで、世界の先導者になるんだ。


「やあ。来てくれたね、ノット・クローバー。

 また会えて嬉しいよ」


 扉が開き、研究員が出てきた。

 ドナテロだった。


 彼に案内されて白い廊下を歩く。

 この建物、内側も白いのか。

 外と違って室内は空気が綺麗だ。

 やがて小さな部屋に通された。


 会議室だろうか。

 ミニマルな洗練された印象。言い換えると、小さな机と椅子しか置いていない。

 そしてそこには、先に来ていたヘレナが座っていた。


「ノット!

 ……リアルで会うの、何か久しぶりだね」


「ああ」

「聞いたよ?

 歴代最高得点だって?」


「まあね」

「ねえどうやって勉強したの?

 ……まさか事前に試験問題をハッキングしたとか?」

「そんなことしねーよ!

 俺の実力だ」

「怒んないでよ。分かってる。

 ノットは前からルール違反は嫌いだもんね」


「お前に……お前に、追いつきたかったんだよ」

「え? 何?」

「何でもねー!!」


「さて、そろそろ行こうか。

 午前中はこの施設内を案内するよ。

 2人とも、ついてきて」




 ラボでは様々な研究が行われていた。


「ここが精神世界研究部門。

 ヘレナ君、きみが今日から配属になる部署だ」

「精神世界の部門、ですか?」

「魂の還る場所、そう呼ばれているらしいですね」

「さすがノット君、よく知っているね。

 そう。人の魂の在り処と言われている。

 精神世界研究部門では、精神世界の可視化を実現した。現在は、精神世界へのアクセスを試みようとしているんだ。

 とてもやりがいのある部署だよ。

 実は私もこの部門の一員だ。

 ヘレナ君、今日からきみの上司は私ということになる」




 エネルギー部門、兵器研究部門、バーチャル・インフラ部門……。

 様々な研究が、部門別に行われている。




「ここが最後の部門、宇宙開発部門だ。

 現在この部門では、先月ラボ近傍に落下したデブリ、つまり宇宙ゴミに関する研究解析を実施しているそうだ」


 あの日の流れ星のことだ!


「あれはデブリだったんですか!

 流れ星じゃなかったんだ……。

 でも、なぜデブリなんかの解析を?」

「所属が未だに不明らしいんだ。

 通常は宇宙ステーション、人工衛星、デブリに至るまで、地球の周回軌道を廻る物体は全て所属が判明している。

 だが、このデブリは落下するまでレーダーにも映らず、ラボの監視網が認識すらしていなかった。

 だから躍起になって解析しているんだろう。

 宇宙開発部門のメンツに関わるからね」


 なるほど、そういうことか。

 尚更興味が湧いて来たぞ。

「いつもは何の研究開発を行っているんですか?」

「重力操作技術に関する研究が大詰めだと言っていたね。

 さて、研究部門の説明は以上だ」


 ……あれ? 俺の所属は?


「ドナテロさん! 俺はどこの研究部署所属なんです?」

「ノット君、きみは研究部署への配属ではないんだよ」

「え……? どういうこと?」


「きみは本部の対策局だ」






 ラボの案内を終え、ドナテロとヘレナとは別れた。

 ナビゲーションに従って歩くと「対策局」と小さく表示された一画に辿り着いた。


 ここか。


 対策局。

 ラボの本部に属する組織の1つらしい。

 一体何をする部署なんだ?


 俺のアカウントが既に登録されているのだろう。

 厳重そうな扉が近付いただけで自動的に開いた。


 そこは、行き止まりの小さな部屋だった。


「やあ。そろそろ来る頃だとは思っていた訳だよ」


 部屋の中央に、1人の男が椅子に座ってこちらを見ている。


「は、初めまして。

 本日からお世話になります、ノット・クローバーです」

「その挨拶、必要かね?

 さっきの私の言葉を聞いても、私が君を認識出来ていないと判断した訳かね?」


 何だコイツ?


 黙っていると、男は地面を蹴って椅子の上で回り始めた。

 回転椅子で遊ぶ40過ぎの大人を初めて見た。


「まあ良いだろう。

 私は対策局局長のパルスマン。

 君の直属の上司という訳だ」


 地面に足をつきピタッと止まった。

 こちらに背中を向けている。


「ついてきたまえ。

 時間が勿体ない訳だよ」


 そう言ってパルスマンは立ち上がり、奥の壁に向かって歩いて行った。


「え? ついていくってどういう……」


 俺の言葉が終わらないうちに、パルスマンは白い壁の向こうに消えてしまった。


 この壁、バーチャルか!

 入っていきなり袋小路なんておかしいもんな。

 でも、なぜこんな壁の映像を?


 状況が理解できぬままパルスマンを追いかけホログラムの壁を越える。

 次の部屋も同じ大きさの何もない小部屋。

 パルスマンはどんどん進んでいく。


 4つほどホログラムの壁を通り抜けただろうか。

 同じく小さな部屋で、パルスマンは足を止めた。

 今までと違い、2つの黒いひじ掛け椅子が置かれている。


 パルスマンはその1つに腰を下ろした。


 ……。


「何してる?

 早く座りたまえ。

 行動が遅い者は何も達成できない者という訳だよ」


 いちいちイラッとするな。このおっさん。


 俺が椅子に座った瞬間だった。

 ひじ掛けと脚部に金属製の輪っかのようなものが展開され、俺の手足を拘束した。


「何ですか!?

 これってどういう……」


 右を向いてパルスマンに話しかけると、パルスマンは椅子ごと姿を消してしまった。

 コイツ自身もホログラムか……!


「さて……。

 それでは、尋問の時間という訳だ」


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