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最終章 Part 3 治療法

【500.7】


「ジャック君、どんな作戦だい?」

「あんた達はさっきまでと同じように、隙をついて攻撃してくれればいい。

 液化した部分は俺が回収する」

「了解だ」


 クレイモア、クラン、アーサー、メリールルの4人で連携を取り、赤熊の短剣を掻い潜りながら少しずつダメージを与えてゆく。

 攻撃を受けた場所は液化して地面に飛び散り、それをすぐさまジャックが回収する。




 やがて赤熊はその四肢を保てなくなり、遂には黒い球状の塊だけが残った。


「ふ~~……。

 何とか容量足りたか。

 ……で? これからどうすんだよ?」

「この中にイヴァンが囚われているはずです。

 割ってみますか」

 クランが球体にナイフを突き立てる。


 甲高い金属音。


 球体は極度に硬質化され、ヒビすら入っていない。


「ダメですね。

 ナイフの方が欠けてしまった」

「だったら僕が。

 この双剣の切れ味なら、歯が立つかもしれません」


 今度はアーサーが黒い球体に双剣の一方を突き刺した。


 ブシュゥゥゥ……!


 刃が球体の表面を割った瞬間、中から勢いよく噴き出したのは、さっきまでの黒い液体ではなく鮮血だった。


「血……!

 これって、マズかったでしょうか」

「分からん……。分からんが、止めないと」


 その時、頭の中に響くように、声が聞こえた。


――そのままとどめを刺してくれ――


「この声……イヴァンか!?

 お前、大丈夫なのか!?」


――これ以上、お前達を傷つけたくない――


――取り返しがつかなくなる前に――


――殺してくれ――


「待てよ! それじゃ一体何の為に……」


――早く……!!――




 突然、ジャックが持っていた水筒がガタガタと震えだした。

 そしてジャックの手を離れ宙へ飛びあがり、水筒を内部から突き刺すように黒い短剣がその姿を覗かせた。


 同時に黒い球体がグニャリと歪み、等身大の人のような形状へと変化する。

 黒い影のような「それ」はそのままクレイモアへ飛び掛かり、彼の首元へ両手を伸ばした。

 「それ」の口元には鋭い牙のようなものが見える。


「クソッ……!!」


 やむを得ずクレイモアは剣を抜き、すれ違い様に「それ」の胴を両断した。


 崩れ落ちる影。


 やがて、黒い部分は蒸発するように消えていき、腹部から下を失ったイヴァンの姿が現れた。

 宙を舞っていた水筒はそのまま地面へ落下した。

 そこには既に黒い液体や短剣など影も形もなくなっている。




「おいイヴァン! イヴァン!!」


 クレイモアとクランが駆け寄る。

 イヴァンは既に虫の息だった。


「これで……いい……」

「おい待て! 死なないでくれ!」


 イヴァンの胸元から、透き通る半透明の黒い球体が現れ、シャボン玉のように上空へと上がってゆく。


「……これは……?」

「おいお主ら、イヴァンが取り込んだアーヴィンの魂とやらは、これのことか!?」

 バルチェが叫んだ。

 クレイモアとクランには聞こえていない。

「クレイモアさん、この半透明のシャボン玉が、以前イヴァンさんが取り込んだものですか?」

「……ああ、恐らくそうだが」

 半透明の球体はやや速度を増しながら、垂直に空へと昇り続けている。

「ドロシー、わしはこれを追う!

 コイツが元凶じゃ!!」


 バルチェは行ってしまった。




 イヴァンの肉体は生気を失い始めている。

 もう長くは持たない。

 でも、どうすれば?

 私のイニシャライズは時間を遡る魔法だ。

 今発動させたとしても、再び黒い球体や赤熊の状態へと戻るだけ。

 それでは意味がない。


「……エルビス! エルビス頼む!!

 お前の力で……!!」

「俺だって救いたいさ!!

 だが前にも言っただろう!

 無理なものは無理だ……!」


「出来るかもしれません」

 アーサーだ。

「クランさん、貴方の肉体生成による治療が自分以外で成功しない理由は、他人の肉体が細部まで掌握できないから、ですよね?」

「ああ……そうですが」

「ドロシーのスキャンでイヴァンさんの肉体構造を細かく認識し共有すれば、高い精度で肉体生成を発動できるのではないですか?」


「そんなことが、可能なのですか!?」

「確かに精密さを極限まで高めてスキャンを発動すれば、その情報をクランさんに共有することは可能です!」

「出来るのか!?

 おい聞いたかエルビス!!」

「しかし…………成功の保証はできんぞ」


「すぐに取り掛かりましょう!」


 スキャンを精度重視で発動させる。

 イヴァンの肉体構造、特に腹部の欠損箇所を重点的に。


「何てことだ……!

 血管や筋繊維1本1本に至るまで……視える!

 これならやれそうだ」


 クランが肉体生成の特殊魔法を発動させる。

 肉や骨が蠢きながら次第に胴体を形成してゆく。

 やがて、両足の先まで肉体は再生された。


「血液も複製した。これで……」


 皆が見守る中、イヴァンがゆっくりと目を開けた。

 肉体の修復が成功したのだ。


「イヴァン!」

「……生きてる、のか? 俺」

「そうだよ……!

 今度はやってくれたんだ。エルビスが!」

「イヴァン、体の具合はどうだ?

 痛くはないか……?」


「そうだな……。

 下半身が涼しいよ。ズボンも再生してくれりゃいいのにな……」






 王都へと戻り、シャワーを浴びてから夕食を摂る。

 イヴァン、クレイモア、クランの3人からはこれまでにない程感謝された。

 特にクランは、長年のわだかまりが解けたような、清々しい表情をしていた。

 はじめてこの能力に価値を見出せた、と。


 イヴァンからも話を聞いた。

 彼は今まで「アーヴィンの魂」の影響で何度か暴走していた間もちゃんと意識があったのだという。


「『アーヴィンの魂』に体を明け渡している間、僕の魂は体を離れて自由の身となり、世界を彷徨っていた。

 それで世界中の情報にアクセスできていたんだ。

 今思えばあれが『クロニクル』ってやつなんだと思う。

 だから、君たちが今まで世界を旅しながら何と戦ってきたか、この世界が何のために存在しているのか。

 何となくは分かっているつもりだよ」


 図らずもイヴァンはバルチェと同じような体験をしていたようだ。

 知る筈のない情報を得たり、予言に近い言動ができたりしたのもその為だという。


「だから改めて言わせてもらうよ。

 ドロシー、本当にお疲れ様。

 君の決断を、僕は支持するよ」






 夜になり、やっとバルチェが帰ってきた。


「どこまで行ってたんですか?

 随分遅かったですね」

「わしも予想外じゃったよ。

 宇宙まで行っておった」

「……は?」

「遂に見つけたんじゃよ!

 ガージュの正体と、その拠点をな!」

「ということは、アーヴィンさんの魂と思われていたものは、やはりガージュと関係があったわけですね?」

「ああ。

 言うなればガージュの一部のようなもんじゃった」

「一部? どういうことです?」

「全て説明しよう。

 言葉でなく、映像でな!!」


 よく分からないが、バルチェが興奮状態だということだけは分かる。




 1時間後。

 私達4人とバルチェは客間に集合していた。

「では諸君!

 今からわしがあのシャボン玉を追った先で見てきたものを、共有しようと思う」

「えらい興奮してんな。大丈夫か?」

「早く見ようよ! 映像楽しい!」

「まあ落ち着きたまえ。

 映像を共有する前に、まずは事の経緯を説明しよう。

 わしはイヴァンの身体から抜け出た半透明の球体を追った。

 あれが行き着いた先は大気圏を抜けた宇宙空間じゃった。

 赤道の直上、高度約3万6千キロの静止軌道上に……」

「ちょっと待って、バルチェさん。

 タイキケン? セイシキドウ?

 言葉の意味が僕にはよく分からなくて……」

「そうか。

 これらは科学文明の用語じゃったな。

 まあ、気にせんでもよい。

 要するに、空のずっと上にあったんじゃよ。

 ガージュの拠点がな」

「ガージュの拠点が!?」

「おお!

 いい驚きっぷりじゃな。

 拠点と言ってもこの物質世界での拠点じゃ。奴の本当のねぐらは、物質世界と精神世界の丁度中間、狭間のような領域にあった。

 空の上の拠点は、この狭間の領域と物質世界を結ぶゲートが存在する施設じゃった」

「それで? もしかして狭間の領域ってとこまで行ってみたの?」

「ああ。

 ちょっとビクビクしながら侵入してみた。

 そこで見つけたのよ。

 世界のソフィアとウィル、そして生命の情報を余すことなく記録したクロニクルとは別の、ガージュの行動や奴らが集めた情報が集積されたデータバンクをな!」


 クロニクルの中を探しても見つからなかったというガージュの痕跡。

 それが別の場所にまとめて保管されていたってこと?


「わしはそのデータバンクの情報を全て見た!

 そして遂に理解したんじゃ。

 ガージュは世界意志に創られた『ノア』という機械生命体であることを!」


 ノア……?

 ユノ・アルマートも確かそう言っていた。


「反応が薄いな……。

 もっと驚いてもいいのに。

 よし、百聞は一見に如かず!

 皆で映像記録の世界へ行くぞ!」

「待ってました~!!」

「この映像はノア、そしてガージュについて理解するためにデータバンクの情報をわしが編集したもの。

 名付けて……『ガージュの気持ち、体験ツアー』じゃ!!」


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