最終章 Part 4 ネスト
【500.7】
バルチェの映像を見て分かった。
ノアの正体、存在意義。
そして、ガージュの行動の目的。
やはり、ガージュの存在は私達の世界にとって脅威だ。
ユノ・アルマートによるワールドダイブの可能性はなくなったが、ガージュはこの先も絶望の種を蒔き、育て続けるだろう。
ガージュが私達の世界に干渉し続ける限り、滅亡の危機は去らない。
私は、この世界を守りたい。
それが私の望み。
何とかして、ガージュを止めないと。
「止めるって、お前さんどうするんじゃ?」
「もう一度彼と話すことはできないでしょうか……」
「話すって、危険すぎるだろ!
どれだけやべー奴か、映像見て分かっただろうが!」
「僕も同感。
それに、少なくとも今すぐに対処すべき脅威とは言えないと思うよ」
「アタシはムカつくけどね。
ガージュとか言う奴」
「私達に対しては、直接危害を加えたりはしないと思うの。
今までずっと人をそそのかし、自分の手を汚さずに行動してきたから。
対話することは出来ると思う」
「……言い出したら聞かんところは、ユノと同じじゃな。
いいじゃろう。
案内してやる」
「アーヴィン」との戦いの後、バルチェは空の上に浮かぶゲートから、ヤツの拠点「ネスト」へ足を踏み入れた。
同じ方法でネストへ行けば、ガージュと対面できるはず。
翌日午後。
準備は整った。
攻撃される可能性はないのか?
ある。
それは私にも分かってる。
と言うか、必ず戦闘になる。
見たのだ。
昨晩、夢の中で。
予知夢が発動し、私に迫る黒い液体と殺意に満ちたレピアの顔が見えた。
それでも、行かなければならない。
手は打った。
問題はメリールル、アーサー、ジャックの方だ。
彼らも一緒に行くという。
本当は私1人で行くつもりだったんだけど。
「ネストは物質世界の領域ではない。
お前さんら、どういう意味か分かるか?
わしらの知る3次元空間とは別の原理が支配する領域なんじゃ。
あちらの領域ではドロシーの空間干渉魔法は使えんということじゃ。
ガージュが易々と元の世界に帰してくれる保証はない。
その時、テレポートに頼ることは出来んぞ」
それでも、彼らも行くという。
「分かりました。
私達の最後の仕事、一緒に行きましょう!」
「ところで、どうやってネストへ行くんです?
ドロシーのテレポートは届かないんでしょう?」
「まずは空の上の施設へ行くんじゃ。
あそこまでならテレポートが使える。
空気もあった。
……ドロシー、一度接続空間へ移動できるか?」
「はい」
全員で拠点の空渉石から接続空間へ。
「もう使わん空渉石を1つ選べ。
その内部情報を書き換える」
「そんなこと出来るんですか?」
「製作者じゃからの」
だったら、グンツーフか。
あそこにはもう用事はない。
「よし。
じゃあグンツーフ行きの空渉石に触れ、『設定!』と宣言するんじゃ」
そんなんでいいの?
「設定……!」
すると、テレポートは発動せず、端末と同じような光の板が現れた。
「新しい座標を入力する。
いいか? 言ったとおりに間違いなく入力するんじゃぞ?
壁にめり込みたくないじゃろ?
行くぞ、1163……」
何桁も数字を入力する。
こんな反則的な事が可能とは。
これはつまり、安全が保証された正確な座標の値を知っていれば、行ったことのない場所にも空渉石を設置できるってこと……。
「出来たな。
これで空の上の施設にあるゲートの手前まではテレポートできる」
「みんな、本当に良いのね?」
「アタシらがあんたを1人で行かすと思う?」
「……ありがとう」
設定を変更した空渉石を使いテレポートを発動する。
金属で囲われた部屋に移動した。
目の前に壁があり、白く縁取られた真っ黒の鏡のようなものが設置されている。
「これがネストへ通じるゲートじゃ。
入ったら、簡単には引き返せんぞ」
覚悟を決め、一歩を踏み出す。
ネストへ。
そこは闇夜のような、海底のような、不思議な場所だった。
黒を凝縮した深い闇の中に、青白い光の粒子がいくつも漂っている。
バルチェの映像で見たソフィアの流れに似ている。
振り返ると、私達の背後に白い額縁のようなものが浮かんでいる。
これがさっきのゲート?
自分の足が踏みしめている地面も奇妙だ。
黒い鏡面のように私たちが映り込んでおり、足の裏に感じる重力の感覚がいつもと違う。
ここが物理世界と精神世界の狭間の領域。
試しにアイソレートを発動させてみる。
……何も起きない。
空間干渉魔法が使えない。
本当に3次元空間じゃないんだ。
「こんなところまで来たのか」
頭上から声がした。
見上げると、頭上に8枚の白い四角形をしたタイルのようなものが浮いている。
その1つにガージュが座り、こちらを見下ろしている。
レピアの姿で。
残りの7枚のタイルには、黒い人型の影が彫像のように固まって佇んでいる。
「ガージュ、話し合いをしに来ました」
「話し合いか。
俺の得意分野じゃないか」
ニヤニヤと笑っている。
「あなたの目的も心情も理解しました。
ですが、我々には今後故意に干渉することをやめて欲しいのです」
「お前達のような愚かな生き物に指示される覚えはないんだがなぁ」
「世界意志は、私達に使命を全うさせると言いました。
あなたがやっていることは世界意志の意向に反しています!」
「世界意志の意向、だと……?」
ガージュは憎悪を露わにした。
「どの口がほざく!
畏れ多いんだよ。お前達が主の心を推し量るなど……!
俺はいつでも主の道具として在るべき姿を追求し、忠実に行動している。
主の意向を理解しないのは、愚かしいお前達の方だろうが!」
こんなに感情を表に出すとは……。
ダメだ。やはり、まもなく戦闘になる。
「もうやめよう?
無駄だよ、こんな奴に何言っても!
帰ろうよ」
メリールルが私の服を引っ張る。
「帰すと思うか?
二度と俺に関わるなと前回言ったよな?
破ったのはお前達だぞ」
スウッ……っと、ゲートの枠が消えた。
「時間干渉魔法のスキルをいただくのも、悪くはないか」
帰れない。
……すべては、予知夢のとおりか。
「みんなは手出ししないで距離を取って!」
鏡面のような地面を蹴って後方に跳ぶ。
ガージュも白いタイルを蹴ってこちらに一直線に跳んできた。
速い……!
もう少し。
ガージュが体の一部を液化させ、私を包もうと広げる。
もう目の前へ迫っている。
……今だ!
ガージュの心臓の辺り、ノアの情報記憶装置にのみ領域を絞って……。
イニシャライズ!!
一瞬閃光が走る。
ガージュは止まらず、そのまま私を飲み込んだ。
黒い渦に体が取り込まれる。
息ができない。
そんな中、あれが始まる。
……ドクンッ!
MP上限を大幅に超えた魔法発動、その後遺症。
私は意識を失った。





