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幕あい Part L-4 いつまでも友達でいたい

【西暦2126年11月10日】


 ノーマルの失踪。

 確かにそんなニュースをネット上で見たな。


「どうやって調査すれば良いですか?」

「それを考えるのも君の仕事という訳だよ。

 揺り籠には特別なセキュリティレベルの専用回線を用意してある。

 上手くやりたまえ」






 つまんねぇ~~。

 ああ、つまんねぇ~~。


 折角ラボで最先端の研究ができると思ってたのに。

 こんな筈じゃなかった。


 もう夕方だ。今日はもう疲れたし、いいや。


 ヘレナはどうしてるかな。

 メッセージを送ってみよう。

「ヘレナ。初日はどうだった?

 俺は対策局なんて部署に配置になって散々だよ」


 ……。


 ピコポンッ!


 もう返事が来た!

「やあノット!

 何か残念だね。

 こっちはとても楽しい所だよ!

 未知の部分が多い精神世界について調査できるの!」


 楽しそうだな……。


「なあ、ちょっと会えないか?」

「いいよ!

 バーチャルでもパイオニアは優遇されてて、パイオニア専用のバーにアクセスできるわ。

 そこで会いましょう!」


 まあ、そうだよな。

 会うって言ってもバーチャルだよな普通。






「ノット! こっちこっち!」


 指定されたバーにアクセスすると、テーブルの1つに座るヘレナが手を振って迎えた。

「こんな場所あったんだな。

 パイオニアの特権の1つってやつか」

「そ。

 ねえ、見て見て!

 このドレスかわいいでしょ?

 結構いい値段するデータだったんだ」


「あ、ああ……。

 悪くないと思うぜ」

「へへ。

 そうだ。初仕事大変だったみたいだね?

 どんな感じなの?」

「どうもこうも、聞いてくれよ。

 対策局の局長にいきなり最終テストの違反を疑われて、生身で手足拘束されて尋問だぜ。

 最悪だよ」

「ウソ!? 何それ!

 ……で、結局許してもらえたの?」

「ああ。

 だけど局長がいけ好かない変な奴でさ。

 しかも他の同僚とは話も出来ねえの」

「あらら。

 じゃあ寂しい時は私が相談に乗ってあげるよ!」

「…………。

 そ、それよりお前の方はどうなんだ?」

「うん、アットホームな良い所だよ!

 私は精神世界へのアクセスデバイスを開発する課に配属されたんだけど、その課長さんが案内をしてくれたドナテロさんなの。

 すごく優しい人なんだ」


「そうか……良かったじゃないか」




 それから2時間くらいヘレナと話したあと、彼女と別れた。

 やっぱり良い店でダウンロードする電子アルコールは質がいい。






 翌日。

 気が進まないが、仕事に取り掛かるか。


 ネットに流れているニュースや情報をAIに収集させる。

 失踪事件に関する内容で、人数が多いものに絞る。


 ……来た来た。


 あれからもどんどん拡大しているな。

 今日までで発覚している分だけで520万人。

 ユーラシア、北米、南米、アフリカ、オーストラリアの全ての大陸で発生している。

 5大陸の中では、俺のいる北米大陸が最も被害が少ないようだ。


 おいおい……北アメリカ北部の失踪事件、S024ラボの近くまで広がってるじゃないか!


 今のところ、パイオニアの失踪はまだない。

 だが、これはただの事件じゃないぞ。


 もし自発的だとすると、揺り籠から出てどこへ行く?

 この時代、揺り籠以外で人が生きられる場所なんてない。

 可能性は低いな。


 それなら大規模な犯罪グループの犯行だとして、どこかに収容するならインフラの流れで絶対にバレるはず。


 ……なら、誘拐してすぐ殺している?

 これだけの人数を?

 何のために? どうやって?


 全く分からん。


 それなら、関連する事象はないか?

 失踪事件が発生している場所は、全ての大陸で起きてはいるものの、明らかにエリアの偏りがある。

 いくつかの場所を起点に、ごっそりと人が消えている。

 ユーラシアで3か所、他の大陸でそれぞれ1か所。


 消えたエリアで共通するその他の記事を収集して整理しよう。




 暫く時間がかかりそうだ。

 がんばれよ、AI。


 よし。今日は仕事したな。

 もう終わり。






 ヘレナはどうしてるかな。

 今日も会えるだろうか。


 誘ってみるか。

 今度はリアルで。




「どうしたの?

 わざわざリアルで会いたいなんて珍しいね」

「そうか?

 俺、結構好きなんだよ。リアルも」


 リアルだと、喉が渇くな。


「リアルの食事も悪くないだろ?

 見ろよ。本物の肉だぜ」

「ホントだ!

 どれどれ……?

 何これ!? 美味しい!

 合成肉と全然違うよ!

 ほら、ノットも食べてみなって!!」


 ヘレナは目を輝かせている。


「あのさ、ヘレナ」

「うん?」


「俺、ガキの頃からお前のこと……ずっと好きなんだ。

 付き合わないか?」


 心臓がバクハツしそうだ。


 ヘレナはフォークとナイフを止め、驚いた表情でこちらを見ている。


 …………。


 おい、何だよ。

 ダメか?


 もしかして、ドナテロと……。


「ありがとう。

 気持ちは、すごく嬉しいよ」


 ヘレナは視線を切り、少し下を向いた。


「……でも、そういう感情……。

 何て言うの? 恋愛感情?

 私にはあんまり無いんだ」


 …………。


 ヘレナは続ける。


「私達22世紀世代って……セックスして生まれてきた子供じゃないじゃない?

 精子・卵子バンクの中から自動的に抽出されて、人工子宮で育った毎年11月10日に生まれる『人類の子』。

 そのせいなのかな?

 恋愛っていうものが……よく、分かんないの」


「……そうか」


「でも、ノットがそう思って私に伝えてくれたことは、とても嬉しいよ。

 本当に嬉しい。

 いつまでも、友達でいたい」






 はぁ~~……。


 昨日は盛大に振られたな。


 仕事、するか。




 失踪事件の発生エリアで事件前後に起きた事象の共通事項は……何だよ、こんなにあるのか。

 これだけの条件付けだと全然絞り込めない。

 やはり情報が少なすぎる。




 最新のニュースは……。


 ……!!

 S024ラボのパイオニアの1人が失踪!?


 ノーマルだけじゃないのか!


 一体何が起きている?

 ラボのセキュリティは?


 ……どこかに失踪の痕跡がある筈だ!






 S024ラボの失踪者の揺り籠に関する記録にアクセスして解析したところ、分かったことが1つある。


 失踪前にスクール時代のノーマルの友人に会っている。

 そして、そのノーマルの友人……2日前に既に失踪者として報告が上がっていた人物だ!


 どういうことだ?

 そいつが犯人の1人?

 でも失踪者だぞ。

 失踪者という情報が嘘なのか?




 分からない。

 予想すら立たない。


 煮詰まった。休憩。




 そういえばあのデブリはどうなっただろう。

 もう解析は終わったかな?


 宇宙開発部門にアクセスしてみる。

 デブリの出所は……まだ分からないのか。

 地面への衝突後、しばらくして爆発したようだが、爆発直前に抽出したデータがあるみたいだな。


 中身は……ダメだ。

 流石に俺の権限じゃ覗き見できない。


 どうやらデータが暗号化されていて、それが解読を阻んでいるらしい。

 ラボでも解読できない暗号って、そんなもの作れる奴いるのか?


 仕方ない……。今は諦めるか。






 仕事に戻る。


 事件前後のニュースの共通事項、これ1個ずつ確認すんのか?

 面倒臭え……。


「デジタルマネー詐欺」

「電子ドラッグのオーバードーズで集団死」

「バーチャル上のストーカー被害」


 下らないニュースばっかりじゃないか。

 ……ん?


「流星が燃え尽きず落下」


 これって……あの日のことだ!


 世界8か所でほぼ同時に流星を観測。

 それらはいずれも大気圏で燃え尽きずに地表に落下。

 いずれも大きな被害はなし。


 落下地点の情報はあるか!?


 ……あった。ビンゴ!!


 どれも後に失踪事件が発生するエリア内に落ちてる! これだ!!

 いや、でもうちのラボの隣にも落ちたけど、このラボやホームタウンの揺り籠では1件も失踪事件は起きていないよな。


 何故ここだけ……?




 ピコポンッ!


 何だ? ニュース速報?


「S024ラボ、全職員が失踪」


 ……これはヤバい。

 絶対に何か起きてる。

 失踪は伝染する?


 とにかく手掛かりは流れ星だ。


 宇宙開発部門に任せていてはラチが明かない。

 バーチャルは信用するな。

 直接リアルで見たい。


 今、夜10時。


 ……今から行くか。


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