65話 死んでもいいならかかってこいよ
氷の魔法を使う者より
こぼれ話...というか意図的に零した話です
ナンバリングはとりあえずつけておきます
空間を引き裂いた
細かい説明をするならば
凍らして、無理やりこじ開けた、だ
細かくもなんともないね
ソエルに内緒でやったら出来てしまったのだ、…うおとと
温度差で発生した風に巻き込まれて穴に吸い込まれる…!
◇
グワングワンとした感覚を覚えながらを空間を移動する
予定なら雷帝がいるはずだが…
フワッとした感覚
「ん?」
空中ですね、これ
一瞬の浮遊感の後、尻もちをつく
ゴウッ…
そして頭上を炎が通り過ぎていった
「あ、あぶねぇ…」
そこまで高くなかった、とか
少しタイミングがズレたら火傷、とか
色々とね
周りを見ると
赤黒い艶のある髪の毛の修道女がでかいタコを焼き払ったのが見えた
警戒しながら立ち上がる
「…だれ?」
いやぁ、こっちのセリフでもあるんだなぁそれは
まぁ間違いなくこの場に出たのは自分が悪いと思う、多分
「フェルだ、そう言うそっちは誰なんだ」
「む?この街で私を知らないのは少しショック、新参者?まぁいいや」
そう言いながら炎弾がとんできた
いや、だれだよ!
名乗れよ!
下から氷柱を勢いよく作り上げ空に舞う
十分な高さがある状態でもう一度氷柱を作り、その上に立つ
宙返り付きだ
…お、上手くできたなぁ
「へぇ…」
ニヤリとしながら修道女は右手に炎の短剣を構える
え、この子怖い!
こちらに向かって走り出してくる修道女
牽制も込めて修道女の両サイドを掠めるように氷の刃を飛ばす
「ふっ、ノーコン…」
…しにたいのかな?
鼻で笑いながら煽ってきたのに対して簡単に乗ってしまった、どうやら人と話してないうちに煽り耐性が低くなっていたようだ
どうも、沸点も体温も低い氷の人です
…冗談はおいといて
修道女に刺さるように氷の刃をとばす
直ぐにサイドに避けようとする修道女だが
先程放った二つの刃からも二段目がとんでおり、修道女に刺さる
計三本の氷の刃が刺さりながらも修道女の顔は不敵に笑ったままだ
「効かない、効かない…」
その体はぐったりとしてはいるがその声に苦しそうなものは感じられない
「…死んでもいいならかかってこいよ」
煽られたら煽り返す、少し頭に血が上っているなぁ
繰り返し氷刃をとばす
立っている氷柱から飛び上がり、修道女を囲むように円を作りながら、氷柱を作りながら、氷刃をとばす
囲った氷柱からも氷柱は出ているし、外れた氷刃は地面に刺さったあと二発目を修道女に繰り出している
前後左右、自分が上から、二発目が下から
全方向からの攻撃
撃ちまくった結果
…氷のトゲトゲボールが出来上がった
「…やりすぎた」
そう呟いた瞬間
立っていた氷柱を含めた全部の氷柱が爆発した
ドカァアン…
「うぐっ…」
いつ仕込んでいた?
そんな暇はなかったはずだが
吹き飛ばされながらも体制を整えて着地する
すると煙の向こうから氷の刃がまるで意志を持つかのように襲いかかってきた
「んなっ!?」
躱しはするが、どういう理屈だ?
全てがバラバラの軌道で統率感は無い
つまり魔法では無い
統率感なく襲う魔法なら人の身で理解出来る範疇を超えるからだ
煙が晴れた先を見ると自分が放った氷刃を我が物顔で周りに浮かせた修道女がこちらを見ていた
「溶けない氷の刃…面白い特異だね」
ボロボロの修道服が赤いドロドロに包まれ、無くなると修復が完了されていた
先程の炎の短剣もそうだが、服も特殊なのか…
現実逃避も兼ねて
割とどうでもいいことを考えていると
修道女から炎の羽が生える
「は?」
何だこの修道女…
スンッと浮かび上がる修道女
その羽は羽ばたいていない
だが宙に浮かぶとは、ガルドか?
…あー?わかんね
「高さの優位性ってずるかった、ってことを教えてあげる」
周りの温度が一気に熱くなる
足をジリ…と踏み込む
空中戦、出来なくないぜ?
熱くして貰えるなら自分はずっと飛び続けれる
こちらの構えになにか思うところがあるのか攻めてこない修道女
「ふんっ」
少し膠着状態にはなったが互いに動き出す
自分は氷の羽を作り、温度差を発生させながら飛び上がる
まるで宙を走るように
修道女はその短剣を構えた
加速し、二人が接近した時
「フェルっ!!」
「セーラっ!!」
互いの後ろから同時に声がかかる
自分たちを阻むように地面から植物の壁が生える
そのまま植物の壁に絡まれる
ミキミキ…ミシッ…
「うぉぁ…ソエル…やりすぎぃ…」
植物の壁の向こうからはドゴォンと激しい音が聞こえた
地面がヒビ割れした
「…」向こうでもなにか起こっているようだ
「もうっ!行くなら行くって言ってよ!」
すこし見上げる位置から花畑の道を作りながらソエルが歩いてくる
つまりは宙を歩いてきているわけで
え、何それ…
空中に浮かぶ花畑は階段のようになりながらソエルが降りてきた
通った後は花畑は綺麗に無くなっている
「もうっ!」
ぺしっとデコピンをされる
頬を膨らませて怒っている顔のソエル
かわいい
けどもっ…
「フェルの生命力はあっちだとゼロなんだから慎重に行くって話だったでしょ」
ミシッ
一段強く締めあげられる
く、苦しいです、ソエルさんっ
凍らして支配下にすれば緩めれるけど…まぁそういう訳にはいかない
「とりあえず一旦戻りましょ」
「えっ」でもまだ修道女との勝負が…
これからって所だったのだ
一方的に勝てたと思いきやなんの前触れもない爆発
大人げない氷刃の嵐を受けてなお動きに淀みがない修道女
是非とも大ダメージ与えてみたいのだ
「えっ、じゃありません」
…殺気
体を氷で覆い、ソエルと植物の壁の間に向かう
絡みついてきた植物は支配下におかせてもらった
両手から円形の氷の盾を生み出し構える
「フェル?」
ミシミシっ
音もなく壁に線が入り、その線から音を立てながら植物の壁が崩壊し始める
バリンっ
氷の羽は折られ、盾は弾けた
それ以上のダメージはないのでソエルにダメージはないはず
壁が崩壊して現れるは、修道女
修道女の手には身の丈に合わない大きさの剣、禍々しい剣だ
その剣と修道女の手は融合しているように赤く溶け合い、黒く混じりあっている
そして修道女は顔の半分を頭蓋骨の仮面で覆っている
うわぁ、夢にでも出てきたら飛び起きるね…
他に姿はない
両手に氷のメイスを作り出す
サイズは小槌のようで取り回しが効きやすいのだ
「ソエル」
「任せて」
詳しく言う前に返事を貰う
熱気が満ちているこの空間では常に空中にいることが出来る
向こうの剣の大きさ的に地上で戦った方が良かったかもしれないが
修道女に迫る時に何も無い空間から花がうみ落とされる
ソエルには何かが見えていて、花に変化させてくれたようだ
一時的な変化だから少し急ぐ必要がある
修道女に近づき左手のメイスを投げる
それを炸裂させる
左手でメイスを生成しながらも右手を振りかぶり殴りにかかる
左前、修道女の右手から嫌な予感がして
右手のメイスはそちらに向かわせる
ガィインっ
修道女は炸裂したメイスを受けながらも怯むことなく攻撃を仕掛けていた
恐怖とか痛みとかの感覚抜け落ちてるんじゃない?コイツ…
「凍れ」
これは全力でやっていい相手だ
右手のメイスを中心に世界を凍らせる
しかし修道女は半分凍りながらも半分は霜すら出来ていない
半分効いて半分効かない
もう訳わかんねぇなコイツ
「フェルっ」
ソエルから声がかかる
修道女はアガッ…と苦しそうだ
「その氷、時間も凍らせてるわっ」
ポンッと視界が花で埋め尽くされる
…強制終了のお知らせだ
ソエルがこれ以上の干渉は危険と判断したらしい
…自分もそう思います
ソエルの援護を取り付けたにも関わらず自分の未熟さで終わらせてしまった
◇
氷の花になったフェルを回収して急いで花の階段を駆け上がる
タダでさえ空間を割いて来ているのに時間にまで干渉して…
もぅ…
生命力を花になるように与えて、一時的に花にする
そこら辺の幽霊達も花に変えたけど
フェルが対峙していた子は花にならなかった
その代わりなのか
黒い氷の花を咥えた赤い鳥がそこにいた
…氷の花?鳥?
疑問に思いながらもフェルが変化した氷の花を持ち、花の階段を駆け上がり、空中に浮かぶ氷帝の紋章に辿り着く
開いた裂け目はフェルの印魔法で蓋をしておいたのだ
氷の花を近づけると紋章にヒビが入る
この、元の世界には日を改めて来ることにしましょう
…ね?フェル?
◇
花の生命力が尽きて元の姿に戻る
「うへぇえ…」
「もう、フェルったら」
こっちの世界では時間はもう止まってるから油断していたが
今自分の氷は時間ごと凍らせる力もあるらしい
考慮してなかった
「こっちと向こうの差を埋め合わせてからまた向かいましょ、時間はあるんですから」
「…ああ、そうするよ」
それはまるで夢のような戦いだった
この戦いを見ていたある人物はそう語ったという、言葉通り、戦いの次元が違う、と
ちなみにソエルは氷の空間で花を巡り咲かせているのでフェルの内緒、は全て見られているようなもんです、あら怖い
氷の空間の話はもう少し書きたいですね
主人公対主人公っていいですよね
作者はこの手の話大好きです