セーフティの罠
「では、何か代替案は、ございますか?」
「……ぐぬう、勇者のオプションを今いる世界の者に勇者の意識と共に付けることは?」
「魂のコピー及び記憶の転写は可能ですが……天使の庇護か神の加護で絶えず魂を補強する必要が出てくるかと思われます」
「そのコストとリスクは?」
「コストは勇者召喚並みで済みます。リスクは魂の制限によりオプションを使いこなせない可能性が出てきます」
「幾らかマシだが、使い熟せずに失敗したら目も当てられんじゃないか……因みに今、私の世界の未来を見るのは」
「禁忌に触れます」
「即答かよっ。成功か失敗か知る位で禁忌とかどうなんだよっ」
「現時点で、ネルソン様の未来は不確定、で、ございますので」
「ならば、想定情報から予測するしかないな」
「それでは時空検索のコスト説明を致します。分かりやすくネルソン様の世界の年周期に合わせます」
それと同時に画面に浮び上るMCPコスト。
『未来/過去へ検索範囲を広げた場合
100年 ×100
200年 ×400
400年 ×1,600 』
「高ぇよ〜」
「広域と合わせれば、確実に見つかると思いますが」
「見つかるだけで終わるよっ!」
「本来、かかる時間を超えて召喚しております。従って、ゲートを開けて喚ぶよりも検索にコストがかかって、ございます」
「もう疲れた。……っ!?」
_________
59,983,800 MCP
_________
59,983,700 MCP <カシャッ
視界内と画面のMCPの表示がいつの間にか減っている!?
「おいっ所持MCPが減ってるぞ!」
「この空間も時間を超越しておりますので維持MCP分の消費、で、ございます」
「悠長にもしておれんのか……魂の転写による勇者召喚、それとオプションは予測予想系と魔力特化、筋力特化どちらか、後は文明に明るい知識人だと助かる」
「それでしたら提案、が、ございます。神、御身が地上に顕現する時の受肉……エイリアスを用い、召喚としてはいかがでしょうか?
魂の転写先に元の人物の魂がある為、オプションが活かせないと思われますので、なかなか試されませんがエイリアスにて新たな肉体を構築した魂の容れ物に複写した魂を入れるの、で、ございます」
「その場合のコストは?」
「召喚は勇者召喚の2/3、エイリアス維持の魔力供給が必要になるだけ、で、ございます」
「そのエイリアスの作成と維持の魔力コストは?」
「ファイアボール並みくらいには抑えられますでしょうか……」
「その一回の維持期間は?」
「成長に連れて保有魔力が増大すると思いますので賄える術を確立しなければ維持期間が短くなり、維持魔力が増大します」
「今、成長時の増大分隠そうとしなかった?
「まさか、で、ございます」
「……勇者召喚とコストを比べたら?」
「遥かにパフォーマンスは良いと思われます」
「? 前例がないと言うのは?」
「我がワールド ユグドラシルの支援実施回数が数えられる程度とエイリアス……言い方を変えれば純魔力構築体の長期運用は、神でさえ行ってませんの、で、ございます」
「ならば、これをエイリアス召喚の例とするのもアリだろう? その分、負けてくれないか?」
「何を負ければいいの、で、ございますか?」
「MCPを負けてほしいに決まってるだろう」
「無理だと思いますが……」
「何故!?」
「MCPはもともと必要最低限の魔力行使量とワールド ユグドラシルの運用最低魔力量で調整された魔力行使量ですから。ギリギリの魔力量をさらに減らせと言われてもワールド ユグドラシルを停止させねば実現しません。更にワールド ユグドラシルの停止は全次元の停止に繋がります。つまりは無理、で、ございます」
「通貨ではなかったのか!」
「ですから、魔力リソース、で、ございます。そろそろ検索を行いますか?」
「最後に質問だ。その勇者につけるオプションを例えば私につけるとかは出来ないのか?」
「それも無理でございます」
「理由は?」
「魔術式が他次元からの召喚と前提されております。それと勇者は勇者たる所以の条件、が、ございます」
「勇者たる所以?」
「決して他人任せにはしない、で、ございます」
「それは、誰も信じていないと同義だろう」
「逆、で、ございますが、言葉遊びに興じる程余裕はおありでしょうか?」
MCPがまた減った。
「では、他に代案はございますか?」
「閃いたぞ、今度こそ完全完璧抜かりなしだ」
「なん、で、ございましょう?」
「ターゲットは、その世界から誰からも必要とされず見捨てられ死に至りそうな存在で人よりも優れた才能の持ち主! 更に才能に気付かれずに朽ちようとしている勇者資格者だ! コストは?」
「お待ちを演算します……勇者検索より低く見積もりが可能、で、ございます」
「オプションの説明をしてくれ」
「付随出来るオプションは大きく分けて『心、技、体』と『戦闘、生活、支援』の2種3カテゴリずつ、で、ございます」
「そうか。なら! 身体強化系、武具習得系か魔術習得系、予測演算系がいいな」
「しかしそれでは、本人の希望にそぐわない可能性も出てくるのではないでしょうか?」
「武具か魔術はそうだろうが、後の二つは割とみんなが欲しいチートオプションだろう」
「詳しいカテゴライズは聞かないので?」
「検索の後にでも聞こう」
「はぁ」
システム端末の何処に呼吸器官があるのか知らないが溜息をつく音の後やれやれと言ったニュアンスで続けた。
「広域範囲は、如何致しますか?」
「100だ」
「過去時空は、如何致しますか?」
「100だ」
「未来時空は、如何致しますか?」
「100だ。送還なしならこの先の心配もない! 成功の暁にはエイリアス情報として保存しておくが良い」
「お気遣い、ありがとうございます。トータル600,000,000MCPです。所持MCPが足りません予備がありましたら、即時充填を推奨致します」
「予備でも足りないよ。チッキショー。……広域を10に変更、予備石の使用許可を承認!」
「オールクリア。時空検索を実施しますか? 60,000,000MCPが使用されます」
「実施!」
「221人程、該当。ソートフィルターを指定してください」
画面に表示されるソート項目
『生きる意志
利己意識
力
知恵
気力 』
「文明レベルの高い世界順、年齢、知恵、生きる意志の順にフィルター編集」
それをあっさり無視してリクエストする。
「了承致しました。検索結果一位、阿笠 衛(72) 軽トラック運転手ですね」
「72!? 長寿だな」
「彼は勇者たる不退転の心を持ってますが、勇者たる相応しい精神は持ち合わせていません」
「なに? ……魔王の仇敵とトラブルに愛されている運命をつければ問題は無い。そのうち勝手に持つだろう。持ってる才能は?」
ここで私は気付けなかった。勇者の心構えなくても良いんじゃんと……。
「"策略軍師"、"軍師"に奇策を使い熟す"策略家"が付随した技能ですね」
「ほう……、人となりは?」
「酒好き、ギャンブル好き、女好き、で、ございます」
「見事なクズだな。さて。女好きか……時空検索の様に時を越えられるなら、記憶を保持したまま若返らせるのだろう?」
「造作、も、ございません」
「オプション使って60年若返らせて奴隷女を魔王軍から助けさせよう」
「なんと言うハメごろし」
「なにかね?」
「いいえ、なんで、も、ございません」
「よし、オプションを洗いざらい見て取らせるシナリオを作成! 完成したら召喚実施!」
「了解致しました。 ネルソン様」
◆
◆
◆
そうして、召喚がいよいよ実施され、私は現実に戻る。
「ワールド ユグドラシル システム 種保存救済支援 サービスのご利用、ありがとうございました」
「おう」
しかし、次の衝撃の言葉が私を襲う。
「召喚時の記憶は、召喚対象者が魔王討伐に失敗した時のお客様の安全のために消去させていただきます」
「なにぃー!」
「有益な交渉情報ありがとうございました。
またのご利用が無いよう、一同祈っております」
「ちょ!? そのクズ、誰が面倒見んのー!?」
今までの記憶が走馬灯の如く走り去り、冒頭の思いを抱く。
私の意識はそこで途切れてしまった。
Fin……?
いつもお読みいただき、ありがとうございます
今回の短編はコレで完結です。
次回短編で続きみたいなものを考えてます。