魔術だよ。交渉じゃないよ。魔術だよ。
「ネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様、残念ながらこの世界に絶対はあり得ません」
「そ、そんな、しかし! 今更、『ハイそうですか』と辞められる訳がなかろう!」
「ネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様、では、本来ならば英雄か勇者どちらかの検索を行うのですが、第1検索フィルターを外して広域検索致しましょうか?」
「なに!? 出来るのか!?」
「勿論、で、ございます。ネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様」
「長ぇよ! ネルソンで良いよ!」
漸く、突っ込めた。
「了承致しました。ネルソン様」
対応はやっ! もっと早目に突っ込めば良かった!
「それで、その広域検索とやらを直ぐにやってくれ!」
「畏まりました。広域範囲は何処まで致しましょうか? 標準単位は1億光年からです」
「? んーな、ななんだその単位は?」
「光が1億年かけて進む距離、で、ございます」
……なんだか、凄そうだ。
「よ、よし1億で良い!」
「1回の検索に勇者なら8,000、英雄なら10,000、第1検索フィルターなしなら16,000のMCPが必要になります」
「なんでも良い! 早くやってくれ!」
この時、長い秘書のいる生活が私の資産管理の勘を鈍らせてしまって居た事を後に悔いる事になった。
「了承致しました。ネルソン様16,000MCPを使用いたします。
……検索結果、該当0件、で、ございます」
その瞬間、視界の上方で何かが動いた。
直方体の上面の手前の数字も動いた。
「ま、待て」
「なん、で、ございましょう?」
「この59,984,000MCPとはなんだ?」
「ネルソン様の残魔力保持量、で、ございます」
「な ん で す と ?」
「世界を救済する対価としてMCPを我がワールド ユグドラシル システムは頂戴しております」
「つまり、所持金か」
「概念としては近いです。しかし、実態は魔力リソース、で、ございます」
「魔力リソース……?」
「はい。ところでまだ、検索で見つかれば英雄召喚は可能、で、ございます」
「ちょっと待て、召喚に広域検索のコストは入らないのか?」
「はい、基本的には入りません。召喚時にかかる最低コストが勇者召喚とほぼ同程度になり、英雄は偉業を成した分の経歴をそのワールドアカシックレコードから読み出すコストが付随します」
「先に言ってくれよ〜! 16,000無駄にさせられたんじゃん!?」
「そう言われましても、検索フィルターを外す際に同意されましたのは、ネルソン様、で、ございます。検索には銀河系(天の川)の人種の存在する星々からなので……」
「コレで勇者召喚にランクダウンしてウチの世界救えなかったら、ユーの責任だからな!」
ヤ◯ザの様な言いがかりだが、こちらとしても人類存亡がかかっているのだ。サービスの向上を計らねばならない。
「はぁ。……お言葉ですが、勇者召喚にはそれなりなメリットがございます。それに、検索時の1単位が1億光年と説明した時に最低である事になぜお気付きになられなかったかの、で、ございますか?」
「最低!? 最低で16,000もするのか!?」
「ネルソン様。先ずは、他人任せの召喚救済ですが、考えを改めていただけますか?」
「な、なに?」
「貴方の世界を別の世界の英雄に委ねるのですから、弱さにあぐらをかく姿勢はおやめ下さい」
「あ、胡座だと?」
「私も生まれたてを盾に交渉するのはやめにします。貴方にとってワールド ユグドラシルの代表端末ですから、全知全能を持って交渉のテーブルに着くことを宣言し、有りMCP全て出させるサービスになることを誓います」
「な、なんだ、いいい、イキナリ」
「ネルソン様は、先程一瞬ですが私共に敵意に近いものを抱きました。即ち、ここは交渉と言う名の戦場となったとお考えください。手持ちの所持MCPは心得ましたね? 遊びは終わりです」
ひょっとして、敵にしてはいけない者を敵にしたのか?
「ふ、ふん? ポーカーフェイスも意味もなさない心がお見通しで、な〜にが交渉と言う名の戦場か。せめて料金表くらい出さんかいっ」
「ネルソン様は、政治家向きではない、で、ございますね。料金表なんてあるわけないじゃないですか」
「何故!?」
「こんな膨大な量の魔力を使う儀式に需要があると思ってるんですか。ぽんぽんぽんぽん異世界渡り歩ける程甘くないの、で、ございます。支援側だってやりくりしてるの、で、ございます」
まだだ、まだ思うな。支援側の弱みに気付いたと考えるなら一瞬で計算して口に出すしかない。
「無駄、で、ございます。貴方は交渉のテーブルについてしまったの、で、ございますから」
「魔術だよ! 交渉じゃねーよ! 召喚魔術だよ!」
「しのごの言わずに広域検索してくださいませ」
ここで閃いた。
「英雄の強さは検索設定できるのか?」
「可能、で、ございます」
「勇者召喚の料金が安すぎる。メリットとは?」
「あとで説明させていただく所存でした。勇者はまだ成長途中の者、且つ偉業を成しておりません。その勇者が召喚に応じてくれたボーナスとして新たにスキルを与えることが出来ます。その時の為の対価分が召喚や検索並みにかかる可能性があります。」
「魔王の属性を知っていれば対魔王として料金も安くできるわけか……」
「最も、スキル自体はカテゴリのみ選択可能で、どのスキルを取るかは召喚対象者が選びます」
「なに? こちらで選べんのか?」
「運に関してだけ幾つかは選べます」
「どんなものだ?」
「いわゆる逃亡防止策です。トラブルに巻き込まれやすくなったり、魔王の仇敵になりやすくしたり……ですね」
「ふむ……英雄の強さの最底辺で勇者広域検索は可能か?」
「可能、で、ございます。なかなか前向きに考えていただけてる様で何より、で、ございます」
「先程、成長性に関して説明していたな。過去とか未来の時間軸をずらして検索は可能か?」
「それも可能、で、ございます」
「ふむ。どれ位のコストか、分かりやすく最低コストでそれぞれ説明してくれないか」
「了承致しました。ですが、その前に注意事項があります。」
「先刻は、そんなものもしなかった癖に?」
「先程までは飽くまでデモンストレーション、で、ございます。銅貨1枚の説明書閲覧とでも思っていただければ良いかと」
「有料説明書かよっ!」
「失礼、で、ございますが、ネルソン様には気構え、が、ございませんでしたので、その為の先行投資、で、ございます」
「余計なお世話にしか思えないっ!」
「その判断はこれからの注意事項を聞いてからの方が、よろしいと思います」
「まぁ、良い、続けてくれ」
「時空検索を行う場合、勇者が英雄になっている瞬間も検索可能、で、ございます」
「ふむ。それは願っても無いな」
「その際に勇者を召喚しますとその世界の英雄が消滅します」
「む?」
「従って歴史が変動し、最悪その世界は滅亡します。貴方が召喚した為にその世界が滅亡してしまうのです」
「なんだと!? しかし、待て! 召喚を実行するサービスとやらはお前たちワールド ユグドラシルだろう」
「我々を共犯だと言いたいのですね。しかし、実行犯は貴方がたの世界の総意です」
「ぐぬぬ」
「良かったではないですか? 犯してしまうかも知れない罪が16,000程度の失敗で」
「いや、ならば、事が終わった時点で元の世界に戻すのはアリなのではないか!? 時間をも超越出来るのであろう!?」
「はぁ。……また、膨大な魔力量を使用して、ですか?」
「うぐぬ、……それは、仕方あるまい」
「では、勇者召喚と諸々のオプションと英雄送還でトータルで100,000,000MCPほどになりましょうか。50,000,000程で召喚し、英雄送還時に魔力が足りない場合、英雄が怒って暴れる可能性も考慮してください」
「……無理だぁ〜。魔王倒した英雄暴れたら世界終わるぢゃ〜ん」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
端末CVですが、大川透さんもアリだと友人より指摘がありました。
抑揚の無い説明台詞と言うところでしょうか。
後ほどイメージを壊さないよう1話目直しておこうかなと思います。