世界級魔術実施
スナック菓子かツマミでも用意してお読みください。
『あなたが要望する支援サービスの
召喚術はどちらですか?
A.英雄召喚
B.勇者召喚 』
え?
待って待って、それ、何が違うの?
◆
私はネルソン・F・B・マグナロス。
帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長である。
9ヶ月前、魔王が進軍を開始。
帝国最強と謳われる“剣聖”率いる対魔王討伐騎士団が事実上、壊滅したのは3ヶ月前。
それまで魔物と戦える者の育成を進めつつ、どうにか均衡を保ってきたと言うのに討伐騎士団の壊滅で一気に局面を迎えた。
この世界の人類は、滅亡の危機に瀕しているといっても過言ではない状況に陥りつつある。
3つの貿易都市が魔物達に潰され、そこで漸く帝国は重い腰を上げた。異世界召喚術を行使する決定が下されたのだ。
世界級魔術と云う魔術行使。
それは強力なゲートを開き世界を超えてこの世界を救い得る可能性の者を呼び寄せる、神の如き人智を超えた偉大な魔術。
世界の理に接続してその法則を一部捻じ曲げて実現させる魔術は神の御業に匹敵するとされる。
ところが!
ところがである!
このワールド・マジック、いざ使ってみたら超面倒臭い!
今まで起動に奔走した知識体系にそんなマニュアルなかったわ!
責任者出てこい!
しかもよりによって……
おっと、熱くなってしまった。話を戻そう。
まず、起動に膨大な魔力量が必要と巨大な魔力結晶石が8本用意された。
この魔力量は投射式着弾爆発型範囲魔術ファイアボールが約100万発撃てると言う膨大な量の魔力を秘めた石である。
その石から広間に描かれた巨大な複合魔方陣へ魔力が注がれる。
かくして、古より伝わりしワールド・マジックは発動された。
その代表者として私は発動監督者を務めた。
◆
術の発動は眩かったが、気が付けば満点の星空の中、地上も見当たらない。が、そこに佇んでいた。
恐らく意識のみとして、ここに居ると直感した。
目の前には黒曜石の様な直方体が立ち、丁度手を置くには良い位置で上面が見やすくなるように斜めにカットされていた。
そこに右手の形で光が現れた。
右手をここに置けと言う事だな。
置いてみた。
すると、置いた右手の上面、光の文字が浮かび上がる。
ちゃんと私の理解出来る日常言語だ。
そのすぐ後、読もうとした矢先に響く声。抑揚のない声で文面と違わぬ淀みのないアナウンス。
「ようこそ。ワールド ユグドラシル システム 種保存救済支援サービスのご利用、有難う御座います」
「……はい?」
思わず、聞き返した。
「ようこそ。ワールド ユグドラシル システム 種保存救済支援サービスのご利用、有難う御座います」
なんだ、このサービスとか言う違和感。
「お、おう」
とりあえず、返事した。
アレだ。きっとその時代の単語に無理やり合わせて翻訳する意思疎通の魔術の類いの所為だ。
「何か、お困りの事態があったと推測されますが、まずはユーザー登録をお願い致します」
「!?」
ゆうざあとうろく?
「はい、まずはユーザー登録をお願い致します」
聞こえてるのかよっ!
「お客様は意識体ですので」
え、何これ記録媒体系のテンプレ回答ぢゃ無いの?
「当システム端末は、ワールド ユグドラシル のシステム オペレート遂行人格搭載でございます」
「あー、わかったわかった、分からないけどわかった。で、その『ゆうざあとうろく』とかどうやるの?」
「ユーザー登録でございます。お手元の画面をご覧ください」
なにやら、四角く区切られたシート(?)がいつのまにか表示されている。
大昔に見た冒険者ギルドカード発行時の記入するやつに似ている。
こんな魔力量を大量に使うシステムにこんな登録手続きが必要なのか……?
考えても埒があかないので書き込む。
と言うか念入力なのでこれは楽だ。
後でこれと同じシステム作ろう。
……暇ができたら。
「認識、照合致しました」
「う? うむ」
「お客様はネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様で宜しいでしょうか?」
し、しまった。つい名前のところで肩書きまで念じてしまった。
だって、役職欄なかったんだもん。
ウォッホン、まぁ、良い。
「そうだ。とにかく早くしてくれ」
「ご安心ください、お客様、ここは隔絶された意識の中でございます。支援のほどをご存分にご検討ください」
「どうでも良いから、早く勇者を呼んでくれ」
「了承致しました。ネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様」
「う、うむ」
「では、早速ですが次の項目をお選び下さい。ネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様」
『あなたが要望する支援サービスの
召喚術はどちらですか?
A.英雄召喚
B.勇者召喚 』
え?
待って待って。
「それなにが違うの?」
思い切り素で聞いてしまって恥ずかしさのあまり、また咳払いで誤魔化す。
「既に偉業を成した者と成す可能性のある者、で、ございます」
「今、なんで、『で』で区切った?」
「ネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様の対応イメージに沿った、イマジンフェイスを構築しているためたった今取り込まれた対応、で、ございます」
「そんな、変なサービスなんてね、要りませんよ!」
「しかしながら、スムーズな交渉にリラックスして臨んで頂くための判断、で、ございますれば、ネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様のMCPを根こそぎ交渉材料に挙げるような他意はございません」
「あるよね! それ、思い切りあるよね!」
「……どちらを選びますか?」
「……そりゃ、偉業を成した方だろう」
「了承致しました。英雄召喚でよろしいですか?」
『★英雄召喚 40,000,000 Magic Credit Point
勇者召喚 10,000,000 Magic Credit Point』
「待て、勇者はなぜこんなに安い?」
そこはかとなくイヤな予感がする。
「それは、勇者はまだなにも成し得てません。実績の違い、で、ございます」
「勇者を呼んだ場合、役に立たない事もあるのか?」
「ネルソン・F・B・マグナロス帝国上院議員議長 兼 魔術教会裁定議席員副長様、例え、英雄召喚であっても、100%は保証致しかねます。発動スペルに組み込まれた宣誓にて同意なさっていると認識しておりますが、宣誓事項を今一度ご確認になられますか?」
えー? あのスペルにそんな事入ってたの?
「た、頼む」
「こちら、で、ございます」
私の理解出来る日常言語に訳された宣誓の内容が光の文字でツルツルした直方体の上面に浮かびあがった。
『一つ 種として弱いが故、異世界の者に頼らざるを得ない事を
我々は認識し、我々の総意として希望となりうる者の
召喚を行う。
一つ 希望が希望として揺るがぬ様に我々の総意として希望を
支え、希望と共に絶望に立ち向かう事を誓う。
一つ 希望が絶対である事はあり得ない事を認識し、それでも
頼るしか無い事実を受け止め救われないとしても召喚を
行う……』
「はい、ここ、ここに絶対(100%)ではない、と、あります」
「……上級魔術語の真意なんぞ知るかー!!」
「宣誓したからには同意とみなしておりましたが、お辞めになりますか?
「確実に救ってくれる者は、いいい、居ないのか!」
お読みいただき、ありがとうございました。