2、あなた何者なの?
「──はぁ……本当に何なの?」
1時間目だけでこんなにも疲れるとは思ってもみなかった。ようやく、あの変人と離れることができて安心している。
だって、昨日が入学式で、今日からいよいよ素敵な仲間との生活が始まると思っていたのよ?
それなのに、隣に変人はいるし、学級委員に任命されるし……散々だわ。
トイレに行って、少し落ち着いてから教室に戻る。あの変人……いや、ちゃんと名前で呼ぶことにしよう。さすがに失礼だもんね。
栖原くんは、他のクラスメイトと話す訳でもなく机に向かっていた。
私も静かに席に着くと、次の授業の準備を始める。確か、現代文の授業だったよね?そう思い、机の中から教科書とノートを取り出していると、隣から視線を感じた。
チラッと隣を見ると、栖原くんが何か言いたそうな目でこちらを見ていた。
ま、また何か言われるのだろうか……。
「……な、何でしょうか?」
「いや……信じるか信じないかは辻坂さん次第なんですけど、次の授業いきなり漢字の小テストあるから、勉強しといた方がいいですよ。」
「……はぁ。」
こういうのって予言とでも言うのだろうか?
それとも、栖原くんが先生と密接な繋がりがあって、それを教えてくれているだけ?
分からないけど一つだけ言えるのは、やはり栖原くんは変な人ということだ。
***
「……ありえない。」
私の呟きに、彼はすぐに反応した。解き終えたテスト用紙を前に送りながら、彼はニッコリと笑みを浮かべる。
私たちが学級委員に任命された時と同じように「ほらね。」とでも言いたそうな表情。悔しくなった私は、プイッと顔を反らした。
現代文担当の先生は、一番前の席に座っている人たちから小テストを受け取る。そして、「これからも突然小テストするからねー。」と嫌みっぽく話していた。
それにしても栖原くんって一体何者なの?
一時間目の委員会のことと言い、今の小テストのことと言い……。まるで未来を知っているかのように、自信満々に発言している。
それに、最初に言われた結婚の話も気になる……。
モヤモヤした想いを胸に、私は先生の声に耳を傾けていた。
***
「──辻坂さーん。一緒に帰りませんか?」
鞄を背負い私の席の前に立つのはもちろん栖原くん。彼以外に私に話しかける人物はいないだろう。
高校生になったことでこの土地に引っ越してきた私に友だちはいない。そう考えると、彼には感謝をしなければいけないのかもしれないな。
「好きになられたら困るんじゃないんですか?」
私の言葉に、彼は一瞬目を見開く。そして、また淡々と答える。
「でも辻坂さんは僕のこと好きにならないんでしょう?それなら全く問題ないので、一緒にいても良いかなぁ?と。」
「そうですか。まあ、おっしゃる通りですね。」
私は荷物を持つと立ち上がり、彼の隣を歩きながら学校を後にした。ちょうど良い。聞きたいこともあったし、いい暇潰しにもなるし、話ながら帰るとしよう。
***
学校からしばらく歩いたところで、私は素朴な疑問を彼にぶつけることにした。
「──栖原くんって何者なんですか?」
私の言葉に、彼は満足げな笑みを浮かべた。その笑顔、今日だけで3回見たよ。
「……やっと興味持ってくれた?てか、そろそろ堅苦しい敬語はやめようよ。僕、君に敬語を使うこの状況が気持ち悪くて堪らなかったんだ。」
「私は、あなたの最初の発言が気持ち悪くて堪らなかったんだけど。だから敬語で距離を保とうとしたのに。」
「もうそんなことしなくてもいいよ。君にはこれから色々と協力してもらわないといけないからね。」
「協力?私が?」
「そう。僕たちの最悪な未来を変えるための協力をね。」
また変な話が始まったと思いながらも、とりあえず彼の話に耳を傾けていた。
すると、彼がまたおかしなことを言い出した。
「とりあえず信じられないだろうけど言うね。
僕、未来から来たんだよ──。」