40 エロに走れ!
40
ディズニーランドからの帰り道、俺はそっと切り出した。
「・・・ヌード――を、描きたいんだよなあ。」
無視された。深尾さん、あれ、なんかそこに糞虫がいたな、という風に眉に
眉間を寄せられた。完璧に無視された。玉置が口酸っぱくじれったいと言った
って、安全地帯へ持っていかれる!!!
ビーチクを見たい、口にすると恥ずかしい。中国語ではこのような時、ピン
インと言う。ピンインを見たい。いや、やっぱり恥ずかしい。冷静に考えると
すごく恥ずかしい。VTと、略語っぽくするが、その低能ぶりがすでにオワタ。
『柔道部物語 小林まこと』の漫画の表紙を見ながら、どう見繕っても、真
性アルマゲドンが出てしまったと思うぐらい恥ずかしい。でも、マサーチュセ
ッツを整骨院の親戚と思っている斜め前の爺さんよりマシである。きっと。
ナルニア国物語と言うだけで、感じやすい俺は、どんだけナルシストな物語
なんだろう、と最初は思っていた。
「・・・本物を見てみたいんだよ―――その芸術で、どうすれば本当の、あ
りのままの・・・女性を描けるのかって・・」
胡散臭い。引田天功がカッパエビセンを食べるぐらい、あやしい。でも、深
尾さんが一瞬赤らんだ。芸術っていうのは、押せる単語なのか。このまま忍者
ハットリ君しながら夕陽の地平線クレイジー柔術に走ってしまうかオレ!
しかし、急にもじもじとする、深尾さん。
「・・・どうして―――急にそんなこと?」
どうして急に、だって、そんなの性教育でばっちりわかっちゃってるでしょ
う。あなた男性が上下オットセイ運動をしたらキューピーマヨネーズが出て
くると思ってるのか。hydeの身長は一五六センチなんだよ。成歩堂龍一なんだ
よ、誰がどう考えたって偽名なんだよ。でも、男と女は別のジュギョー、そう
いうことです。君の温度差冷えちゃうよ、これはこれで辛いものがある。お察
し下さい。ご理解ください。オトナ語のセカイ・・。
付き合って間もない恋人同士が平井堅みたいなショウユ顔になるのは難しい。
成層圏ーラブホテル、どこだそれはイスカンダルかという世界だ。外国の石油王
からトイレットペーパーもらうぐらい難しい。
新参者であるブルーギルやアメリカザリガニは、どこにでもいる古来の生き
物、たとえそれが因習であれ、タナゴや、モツゴや、ヨシノボリが大切なので
ある。あなたが好きよと屋上で告白しておきながら、あわよくば泉ピン子や和
田アキ子となって逃げたいのである、この女は。
コノヤロー、とか言われてしまうのだ、何かあれば。
こうなったらもう、日本ひきこもり協会に入団するしか・・!ナノデーアル。
でも、折角生まれ変わって深尾さんの裸、ナチュラルボディ(笑)を見ない
という選択肢はなかったね。そりゃオレもね、水谷豊の某テレビドラマ見なが
ら、いやただの陰険なオッサンだろ(笑)としか思えなかったけど、そこは設
定シンケイメガネビームってやつでさ、だからジミー大西とギャグの境界線の
中で絵を考えるのはもうやめようって思ってるわけ。わかるだろ、三島由紀夫
にゲイネスを求めるな、あいつにあるのは背徳への恐れなんだ。だから、一人
で主張すればただのバカ者扱いで終わるところを、数の力でどうにかしようと
いう理念のもと、繰り出すわけさ。
深尾さんは絵のことを知らなさすぎるよ、と――。
トーキョータワーって実はべねえずら人のことだから。(*嘘です)
「・・スペインの画家のゴヤ氏もね、『裸のマハ』をね、描いていた時
は、きっと、ちょっと、やらしい気持ちになったかも知れない。マハリクマ
ハリタア、って唱えてたかも知れない。少女もきっと、恥ずかしい気持ちに
なったかも知れない。やめてゴヤ。うるさいゴーヤ。だまらっしゃいトッチ
ャンボーヤ。でもそれがどうなったか、モダンアートの領域を広げたエポッ
クメイキングな作品となった。」
「っていうか、三枝さん、あなた何言ってるんですか。」
・・・そうかなー、結構いい切り口だと思ったんだけどなー。
いや、聞け、そこの少女よ、幸福の科学の大川先生の必殺技はイタコ!
「リアリズムの父であるギュスターヴ・クールベも、天使を描いてほしい、
と言われて、・・おほん、私は天使を見たことがない。悪魔くんは観た
ことがあるけどもね。もし見せてくれるのなら、似顔絵のように美化たっ
ぷりこめて描いてみせよう、ベロベロバア、と言った。彼も、きっと内側
では風俗へ足しげく通いながら、悶々とした気持ちを持っていたのだ。そ
れがどうだろう、あのような芸術作品になる、オー、マナブ、マヂカンゲ
キ!・・ゲイジュツという、魔の山をのぼれ!」
段々、深尾さんの顔がまずくなってくる――。
(*というか、お前、偉大な画家にアヤマレ!)
「・・・だから俺は深尾さんのヌードを描きたい。」
「嫌です。」
即答キタアアア!!!
ウワアア、グハッ、グエッ、ガハアアッ、キタア!!!
「・・・・どういうつもりなんですか?」
なんか、顔がもう『古谷実』の絵と化していく。
あわよくば『寄生獣』すんぞ、ああン、みたいな――。
ゼイゼイハアハアだし・・。救心いるか、みたいな。
こうなっては、どんなに我慢強いあだち充でも無理だし、ツツイヤスタカが
メタという昆布を持ち出してもそれは海藻類だから、納豆に混ぜなければ駄目
だ。精力をつければ、リアップ(笑) そんな偉大なるお二方が内なるブラッ
クバスを求めながら哀切な天国への階段を弾きまくってハレルヤしておられる
というのに、十七年ゼミのような自分にサッチェル・ペイジはむずかしい。ド
ナルドダックできるわけがない。抑制などという要素さえ、グリーンデイには
難しい。そういうことだ。
でも俺だってドモン・カッシュ氏みたいに、さぁ、最後の仕上げだ!とか、
言いながら、石破ラブラブ天驚拳とか言いたい。スタッフにそりゃ、ラブラブ
はないっすわ、とか言われる。でも、展開というか、Gガンダムというメモリ
ースぺクタル・イヴにはそのような記号が必要だった。認知されたとはいえ、
黒歴史の中でもしぶとくゴキブリ並の耐性を身につけているこの言葉はときめ
きメモリアルのあの美女は性格が悪すぎると語り継がれるようなものである。
(*というか、お前、悪口言いたいだけじゃないか。)
もちろん俺だって、そっと背後に回って「好きなんだよ」と言いながら抱き
しめて、胸を揉むとかいう卑怯な技を考えなかったわけではない。だが、抱き
しめるのは、仮にありでも、胸を揉んだ瞬間にやらしお、である。
スイーツ(笑)確定である。
剣道一本、面!面!面!デアール・・。
でもこうなってみて、俺はたんに萌えよドラゴンしていたにすぎなかったん
じゃないか、と思った。なあ答えてくれよ、村上春樹、お前はただのポルノ作
家なんだろ。なんていう道化芝居、心中ダザイだろう。人生が二週間で、何で
ここまでエロに執着するのだろう。この不潔どもめらが。いや、オレだ。やは
りここは念写でいくべきかも知れない。そうだぞ、偉大な妄想力で深尾さんの
裸体をシャーロック・ホームズする。俺に不可能の文字はない。混ざってるか。
「・・・もういいよ。じゃあ、他の奴に頼むよ。」
とぼとぼと、歩いていると、深尾さんが言った。
そのせいで、思わず俺はグリコのポーズを取ってしまうぐらいだった!
「・・何やってるんですか?」
「いや、イエス・キリスト。汝の罪を許そう。」
いや、そんなキャラじゃないだろう、キリスト。
「―――どーしても、私がヌードじゃないとダメなんですか。」
「いやだからもういって、別の女の子だったら、すぐOKだから。もう、キ
ャロルだから。なんていうか、キャサリンだから。」
たとえば、近所のメス犬のマルコとかね。
「・・・俺は芸術を信じてる。」
「三枝さん・・」
手口が巧妙化する、悪いジュウナナサイ。
いま、校舎に入ってしまったら窓ガラス割りながら歩く。
「あたし、三枝さんの才能を信じてます。」
いたいけな女を騙すのが画家ということなのか?
・・ピ・ッツカ・ァアア・ソ!
でも、ここで、ものすごく疑った顔をしながら、深尾さんを見る。
「いやでも、ゲイジュツって信じてないんでしょ?」
「ゲイジュツは・・信じたいデス・・」
「仮にあなたが、グスタフ・クリムトの『ダナエ』ほどの官能を持ち合わせ
ているというなら、俺だって、いや、世界中の男という男が、欲情したって
不思議ではないかも知れない。」
なんか、喩えがどんどん下劣になっているような気がする・・。
「あなたに、あれが出来ますか? 私は娼婦よという顔しながら、画家の眼
にイグニッション・キーまわせますか。西部警察、火薬使いすぎだろ、でき
ますか。スピルバーグだって我慢してる、本当は一大エロス映画を撮りたい。」
というか、オレどうしちゃったんだ、あることないこと、フキまくってる!
吹き矢のマナブ・・用心棒に混ざったら・・水戸黄門に混ざったら、
入浴シーンとか越後屋が若い娘を襲うところばかり描く――。
「出来―――マセン・・。」
「そんな奴が、たかだかヌードぐらいで騒ぐのは、いわば、鯛焼きを食い逃げ
したKanonの月宮あゆみたいなもの。ぬるい。当たり前のこと。そんな奴は、
ウグゥ言っていればよろしい。」
「ウグゥ。」
お、ちょっと可愛い、と思った。長谷川に自慢しよう、と思った。
「でも、私、三枝さんの絵の力になりたいと思っているんです。」
「じゃあ、脱げ。恥ずかしがらなくていい、俺はプロフェッショナルだ。いわ
ば、ミッションインポッシブルだ。東京大学じゃない東北大学だ。女の身体に
欲情? とうの昔に、解脱しておるわ! もう、俺の中で無数の裸体は一つの
プラネタリウムになっただろう!」
プラネタリウムになってどうする、と一人でツッコム。
でも、隣のいたいけな女の子は、これにダマされる。
「すごい・・!」
「仮にいま目の前に、千人の美女がイエスカモオンといったところで、この屑
共が、と言う。俺は天下のシェイクスピア、人を不幸に落とす名人よ。でもよ
お、落とすのはセリフであって、女じゃない。地獄へ堕ちろ、と言う。いま俺
がどんな気持ちか、芸術三昧、美の昇華。それだけである。」
かえすがえすも、ギャグである。でも気持ちは、本当にそう思ったのである。
・・多分、深尾さんが、男の子を気持ちよくさせるツボを心得てるからだ。
「じゃあ私みたいな貧相な女の子が服を脱いでも・・。」
「貧相?」
深尾さんが、顔を隠しながら言った。
「私、スタイルにあんまり自信がないんです・・仮に私が、アンジェリーナ・
ジョリーぐらいだったら、そうね、あなたの芸術のために協力したいと言う
んです。」
というか、比べる相手間違ってないか?
俺が、いわば、二枚目俳優とやり合うぐらい無駄な足掻きだ。
競争相手はそれではない。でも女って、時々変な競争相手を見つけてくる。
「身長だって低いでしょう、胸だって小さい、もし、まかり間違って後世に
残るような傑作を作ってしまったら、私、きっと一生恥ずかしいじゃないで
すか。その、下だってまだ生えていないし・・」
ピカーン、とした。ブボッと、鼻血が出た。いいねえ、いいよお、君。
―――俺、あまりのピュア・ハートに萌えた。
しかし次の瞬間には、これは駄目だ、と思った。鼻血だしたのを隠しながら、
何真面目になってんだ、間抜けだよ、ハクナマタタだよ、でもこんなことを思
ってくれるような相手を、絵にするには、あと、もう十何年修行が必要だ。
――エロいことを考えていても、最終的にそこに不時着してしまう。
「絵の予約は入れておくから、覚悟できたら言えよ。」
「・・・はい。」
でも、と、深尾さんが言った。
「でもどうして、急にこんなことを?」
なんか、いままで散々エロいことを考えてきた自分を言い訳するヒッサツ
ワザ。 亀仙人みたいに、変な笑いしようか。
「――そこに山があると思えたから・・かな。」
で、誤魔化せるわけないよな、と思っていると、深尾さんがウットリとした
眼で見てくる。マジかよ、と思う。深尾さんの中の俺って、どんな偉大な画家
なんだろう。でも、ここはまあ、そういうことにしておこう、と思った。何か
急に絵を描きたくなってくる。別に、ヌードじゃなくても、一枚ぐらい、こい
つの絵を描きたいな、それだけでいいかなあ、と思ったりもした。
・・・あと二週間とわかっていて、こんな馬鹿なことしか出来ない。




