表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い壁  作者: カモラス
3/53

3 海


   3



 どうして眼を開けた傍らに、眼をつむったりあけたりする深尾さんがいた

のだろう。昼食の前、四時限目からどうも居眠りをしてしまったらしい。瞼

のふちに残っている黒板、授業内容が皿やナイフにすりかわる。手書きのシュ

ーベルトの作曲した楽譜でも見つけたように、感性や才能といったものが、

うす紅いろの、風情のわるくない、ややすらりとした彼女を炭素繊維や繊維ガ

ラスにしていく。くすぐったい、イミテーション。あるいは、スマートな、シ

ャープな愛の吸収・・空想は逸脱し、心理と行動は、観察と意識のたわむれの中

で自己抑制のストイシズムを壊していく。世界はいかなる理念も卑俗の次元に

あるというのに、神を殺し、夢を笑い、それでいてなお、熟みわれた果物の蜜

で膨らむのはどのようなユートピアの希求なのだろう。曲率半径はエロチシズ

ムのプレリュード。なまめかしく卑しめる、底辺の開花。あらゆるものに下品

な付属物を与え、音声やBGMや効果音をあてたふきだし。透視術――円形の

管は六角形の管になり、そのこなれやわらぐ状態のまま、うつつにあふれてく

る、ポーズやジェスチャー。フランス軍側からの砲撃は止み、イギリス軍の大

砲が時折聞こえてくるみたいに、何度か、笑い声は聞いた。この人は、得体の

しれないところがあるけれど、最低、嘘はつかない人だろうな、と思う。そう

想いながら、ビタミンEとポリフェノールによる抗酸化作用や、コレステロー

ル値を低下させるオレイン酸の効果。人間の思考というのはどうしてこう白い

飛沫を伴うものなのだろう。葉書のように半永久的に何処かの壁にセロファン

テープでとめられている筆記体。流れるまぼろし、撓う柳、ゆれる、さまよう

時代感覚。教室は孤独の住む沼地であることをやめ、風力発電用の巨大回転翼

でもあるみたいに様変わりしていた。窓から風が入ってくるのは、見えないし

じまの塔にでもあたったからだろうか、と馬鹿なことを考える。ショベルカー

がひっくり返ったみたいに、僕は、地面に押し付けられたままの状態で、美術

品を空間と一体化させたようなインスタレーションを味わう。そこに、静かに

誰も見えない海が見えてくる。自分の海、自分の知っている海、波の音、呼吸

するリズム、打ち寄せる心臓の音、それが、一瞬何もかもはっきり見えたよう

な気がする。気のせいかも知れなかったけれど――。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ