22 夢
22
しずかに揺れている、君の瞳が、ときどき思い出したように、
階段を上がってくる。ちいさな杯の感触、
その杯のなかの芳醇な液体に心の愁いを静かにうつしてみる。
こういうことをしているあいだにいつのまにか潮がしずかに満ち始めている。
しまったと思った時はすでに手おくれで、
君が人生を教えてくれる。呼吸がしずかにあるかないかの境を、
たえだえにつづいている。
夜はさみしくないか。
ふと、泣きそうになっている自分にきづく。
地獄をみおろす煉獄の風窓。
地獄とわかりながらそれでもむらがっている受刑者。
どうしてこの世界はこんなに、つめたいのだろう。
一粒の涙がにじみ出したように、胸があつくなる。
エンジンのような音が聞こえてくる。
大部分は意味のわからぬ音ばかりで、
時がたつとともに、種類が増えてくるようにおもわれる。
耳に達し、まったく別な振動でゆれている耳のなかの空気をかき乱し、
消え去る。
小さい清いほんとうに小川のささやきのような声で、
心のなかの部屋に入ってくる。
うら若くて、かわいらしく清らかなこの花。
なにも知らない女の子にこころをうごかされたりする。
えいえんの生命の惑星のひとつの奇跡。
誰もこの家には入ってこない。
君はなんの遠慮もなく、入ってくる。
とてもながい時間そうだったのだ。
にわかに月のあかりだけになった雲の海がみえてくる。
自分のからだがいま燐の火のような青い美しい光になって、
しずかに燃えている。玄関を開けて廊下からさまざまな扉をしずかに開けて、
またしずかに締める。
窓の下の暗いところから、ゆるやかな円をえがくような猫の鳴き声。
夢の気にしのびよられるランプ。
内面を見つめることにてんじてゆく作用。
だが、雨が感じられる。
どこともしれない深い谷に、
陰暗な夜の物影がしずかにはいずっているみたいに。
ところが雨がやんで、またあたらしく沈黙が領してくると、
いままでここに待ち伏せていた人間を嗅ぎあてなかった道理がわかってくる。
とるべき筋道は、心のなかに地図のように描き出されている。
君はなにを探しているのだろう?
ここには、君がのぞむようなものは、なに一つとしてないのに。
ここは、ひとを必要としない場所。
しずかな夕暮れの空気のなかに灰色によせては返している波音のように、
春はもう終わってしまったのに。
変幻の光の奇術のなかで、現実よりもしずかに話す君。
岩と岩のあいだの自然の水路をしずかにすすんでいく。
さみしくてたまらなくて、胸がいたくて、
ひび割れした瑪瑙のような心臓の、音。
周期的に、ふくれたり、縮んだりしながら、
そのまま、じっと動かなくなった、
人間の性格を見抜こうとする感情のない眼。
堆積物のなかは美しい。
それはそういうものだよ、というようなとき、それがすらりと肯けない。
いつからだろうね、まったく無音の世界を、
ゆるやかに旋回しながら果てしれぬ深みへと落ちていったのは。
君はしずかに揺れている、
この地球の果てのような町のちいさな家みたいな場所でも、
宇宙のリズムを感じている。
君は声のあいだにリズムの対応ができあがった理由を、おしえてくれる。
空気の渦が草の中をうごく時、涼しそうなかおでなびき揺れるみたいに、
ものがなしげな、なんともいえぬよい声で、かぜと落ち葉の音がきこえる。
洪水のあとのようにひっそりしている、つきあかりの部屋で、
ちいさな包み紙を、てのひらのうえにのせて見せてくる。
それは飴、ひと味あじわうごとに、時間をかけて、
ぬるい湯が全身にけだるく沁みこんでくる。




