14 猫
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酔っぱらっている深尾さんを家に帰したら――。
どういう彼氏なのか、と思われる。
常習の麻薬中毒で結婚サギ師の大ウソつき、と!
「・・・おい、起きてるか?」
酔い以上に寝惚けた瞳で、にまあ――っつ、と笑う天使・・。
駄目だ、こいつ、駄目だ――。
酒からっきしに弱い、なのに、何で飲んだ・・!
家庭のレベルによっては、今日草野球があって、打ち上げで、間違えてお酒飲ん
じゃったんです、と言えば、何となく理解してくれる親御さんもいる。実際、大人
だってどんな真面目な人でも長い人生の間に一度や二度、羽目を外したことがある
。そもそも、子供だって生まれているのだから・・。
しかし、そんな理屈が通用しない人もいる。対応が神レベルを期待するのもいい
が、すごい厳格な両親の可能性もある。彼氏なんてマルチ商法や宗教や新聞勧誘そ
れ以下、不潔で社会のゴミで、かどわかし、であるという人もいる。
深尾さんの両親を俺は知らないので、場合によっては、俺は不良というレッテ
ルを貼られて、学校に連絡、責任を取る形で、停学を食らう。無論、勝手に飲ん
だなんて言い訳は通用しない。厳しい追及をする人なら、俺だけの話ではなく、
どうして居酒屋に女子高生がと言われる。しかも、俺がビールを飲んでたのは
事実だし、場合によっては居酒屋に迷惑がかかる。連帯責任・・。
みんな飲んでるよと言ったって、未成年者に酒を提供していいわけがない。
狙いをつけた車の前で突然、サイドブレーキを引き背後から追突させるみたい
に・・深尾さんと別れさせられ、停学を食らい、居酒屋に迷惑をかける。最悪だ。
深尾さんと別れさせられるのもまあいいのだけれど、いや、よくはないけど、
親の話で子供が泣き寝入りなんてよくあるケースだ。
実際、俺は深尾さんがそこまで俺のことを好きだとは思っていないし、いい
タイミングじゃないか、とすら思う。彼女にはもっといい人がいるんじゃない
かな、と。ただ草野球に出て、似顔絵描きまでした苦労を考えると、ディズニ
ーランドへ行ってからにしたい、もちろん、一緒にグラウンドでプレーした仲
間に迷惑をかけるような真似は死んでもしたくない、というのが俺の気持ち。
まあ何はともあれ、それは避けたいので、女友達Aこと小倉さんにメールす
る。なお、メールの表記は勝手に俺が変えてる。絵文字もろもろ、ついてるの
だ。また電話だったら変な勘繰りを受けそうだったので、メールにした。
またそこまで切羽詰っていないというのもあった――。
『すみません、三枝です。深尾さんがチューハイを飲んで酔っぱらったので、
今日は家に帰すわけにはいかなくなりました。申し訳ありませんが、
深尾さんのご両親に、今日はそちらに泊まるというような電話を、
していただけませんか?』
連絡が来なかったらどうしようか、と思ったが、一分で返ってきた。
絶対にメールは来るだろうと思ったけど、万が一はある。
その時は女友達Bに頼ろうと思ったが、彼女にそういう仕事をさせるのは、
ちょっと難しいのではないか、と個人的に思った。
深尾さんから聞いた話では、両親が厳しいという情報も得ていたし・・。
最低、こういう場合、頼る相手ではないな、と――。
(って、深尾さん、何、しなだれかかってくるの。)
(胸おしつけちゃ駄目だよ。
柔微・・髪なんかすごいいい匂いがするし、石鹸の匂い?
酔っぱらってネコ科する霊長類の不思議・・!
ぬくぬくとして居心地がいいのかなあ――。)
「にゃあ。」
(いや駄目だって、耳舐めちゃ――うわああああっつ!!!)
『小倉です。三枝君の話は、わかったよ。でもそれなら、あたしの家に、
まゆ泊める? それとも、三枝君がお持ち帰りする?』
お持ち帰り、違う。ピザ違う。そんな肉食系表現違う。
(深尾さんを引き離す――。どうどう・・どう――。馬か!)
といって、男である俺は狼ではないけれど、ぬいぐるみの熊ではない!
酔っぱらった女を介護するようなふりをした俺をふっと想像する!
(深尾さんは、俺の膝の上で丸くなって眠ってる・・。)
(ヤバイナア――・・)
というか、携帯画面の向こうで、この事態を面白がってる小倉さんを想像し
た。実際、真面目な深尾さんがお酒を飲むなんてハプニングなかったに違いな
い。猫の真似もしてたし・・・!
思春期にありがちな恋愛模様の一つのシチュエーションだな――。
『都合がよければ、小倉さんにお願いしたいけど、
無理なら、こちらで何とかします。』
と、少し頑張ったメールを送ったら、
二分くらい時間を置いて返ってきた。
(深尾さんが、上目づかいで、「したいの?」とか言ってくる。
何言ってるんだ、この女は・・! キャラ変わりすぎだろ!)
『・・・個人的には、すごく話がわかる。
この場合、あたしの家で一日泊めるのが筋だと思う。
でも、まゆ的には、多分、三枝君の家に泊まった方が、
安心すると思うのね。あたしが思うに。』
と、何かひどく難しい言い回しをしてくる。
ようは、アンタ、彼氏なんだから何とかしなさいよ、ということだろう。
とは言いつつ、付き合って間もない二人が一緒の夜を共にするというのは、
まゆにとってはありだとは思うけど、でも、何かあってもいけない。
だからやっちゃダメだよ、というニュアンスだと思う。
(深尾さんは、手を誘導して、自分の頭の上にのせる。
撫でてくれ、ということなのだろうか・・?)
(ふにゃあーっ、とか言ってくる。)
(ヤバい、本当に可愛い・・。)
ふっと、女性の値踏みするような眼つきを思い出す、そんな文章だ。
女性の本能が炸裂してる気がする、うまく言えないけど――。
でも、やらねえし・・・!
酔っぱらった女襲うほど、鬼畜じゃないし・・・!
第一、家には家族がいるし・・!
アンアンやってたら、それこそ俺の立場が危ういし・・!
(というか、こんな無防備な深尾さんを襲ったら、悪魔だ――。
俺はそこまで、人間を棄てれる自信がない。)
(でも、こんな風に素直に甘えられる、
お前がちょっと羨ましい・・)
(窓の外を眺めながら甘えているカノジョ、
視線の向きから空を見る深尾さん・・)
・・・まあ、というのは考えすぎかも知れないけれど、
気を巡らしている文章というのは間違いない。
『小倉さんには電話の連絡だけお願いするよ。
後はこっちの方で何とかします。ありがとう。お願いします。』
ともかく代役をお願いするしかない。
そうメールを返すと、数秒後に連絡が来た。
(深尾さんって、本当は誰かに甘えたいと思っているのかな・・。
家庭厳しいのかなあ、と、豹変する深尾さんを見つめながら、
ちょっと思ったりした―――。)
『じゃあ、まゆのこと、お願いね。シンライしてます。』
このシンライしてます、には、色んな含みが感じられた。
すごいボディブローを持った文章を持ってる――。
マラソンのしすぎで膝が笑っているような、か。
女だなあ、いや、メスだなと思う・・。
まあ、しかし、これで何とか深尾さんを家に帰さなくても済んだ。
酔いが覚めて家に帰れるぐらいにまで回復したらありがたいけど、
その時はきっと深夜になるだろうな、とも思った。




