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The Memoirs 9th(回顧録 第9部)「これが、世界の選択か」  作者: 語り人@Teller@++
第六章「魔術師達の閑話」
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第36話②『魔術師達の閑話②』

第36話②『魔術師達の閑話②』

――――――――――――。

 カークはいつもの公園へと向かうと、ベンチにはいつも通り理正がくつろいでいた。

「こんにちは、理正さん、ってありゃ? ゆーずぅ!?」

 そしてその隣には……譲葉がいた。

「こんばんは」

「こんばんは。カーク君」

 カークの挨拶に、2人が返す。

「どうしてゆーずぅがここに? ってか、もう大丈夫なのか!?」

 昨日の今日なので、カークは何事もなかったかの様子の譲葉の姿に目を大きく見開く。

「私はもう大丈夫だよ! 総一郎君のおかげでもあるし、あの後自分でも治癒かけたからね。もうピンピン!」

「Oh……」

 譲葉はベンチから立ち上がると、腕をぐるぐると回す。本当にもう大丈夫なようだ。

「カーク君はなぜここに?」

「俺は、ちょっと理正さんに会えないかなと思って」

「そっか。私はその、異空間のことを、理正さんに相談してたの」

 どうやら異空間の件について、理正に話していたようだ。

「譲葉君から聞きましたよ? 大変なことになったそうじゃないですか」

 理正はカークの方を向いた。

「あっ! そのっ! すみません! 理正さん。俺という身が居ながら……」

 カークは理正に言われて、思わず顔を歪ませる。

「いやいや。別に怒っては居ませんよ? 無事で何よりです。それにそもそも譲葉君の話を聞くに、君達がどうにかしたところで、今回の事態は防げなかったと思いますよ?」

 カークの謝罪に対する、理正の態度は極めて冷静であった。


 理正は2人に対し、諭すように話を続ける。

「君達、補助魔術は使っていますかな?」

「補助魔術?」

「攻撃と回復以外の魔術ってことでしょうか?」

 理正の問いに対し、2人は首をかしげる。

「……その様子だと、知らないみたいですね。正直『防御を上げる補助魔術』、あるいは『敵の攻撃力を下げる補助魔術』さえ使えていれば、譲葉君もそんな大怪我することはなかったと思いますよ?」

「What!?」

「そんなのがあるんですか!?」

 カークと譲葉は、目を見開く。

「ええ。魔力の使い方は、敵を攻撃したり、傷を癒したりするだけではありません。身体能力を上げたり、下げたりする使い方もあります。他にも、火傷や凍結といった状態異常を与えることに特化した使い方もある。そういった使い方をする魔術が、いわゆる補助魔術です。ゲームとかでもよくあるでしょう?」

 理正は、2人にとって分かりやすい例えを使って説明した。

「バフ(強化)・デバフ(弱体化)ってことか。……状態異常ってのは考えたこと無かったなぁ」

 カークは、思わずゲームの専用用語を口にした。

「でも、理正さん。私達、そもそも新しい魔術をどうやって覚えるのか分からないんですけど? 魔術というのはどうやって覚えるんですか?」

 譲葉の理正への問いは、至極真っ当なものであった。

 思えば各々、突然覚えた魔術をそのまま使い続けており、鍛えたり、新しく覚えたりという経験は今まで無かった。

「良い質問ですね。ちょうどいい機会です。2人に魔術の鍛え方を教えましょう。桜散や総一郎君にも、後で教えてあげてください」

「おっ! これは面白そうだな。新しい術を覚えられれば、今後の戦いも楽になるだろうし」

 カークは理正の話を聞き、胸が高鳴った。


「それでは説明しますね。そもそも魔術とは、魔力を使う技術の総称なのですが、基本的には自分の体内から魔力を生み出して使うものです」

 理正は魔術について説明を始める。

「よく大気中に魔力があって……みたいな設定をフィクションで聞いたりしますけど、そういう訳ではないと?」

 理正の説明に対し、譲葉は早速質問。

「ええ。異空間では魔力が漂っていることがありますが、あれは基本的に仮面の怪物の体内で生成されたもの」

 理正はコートのポケットから手帳を取り出すと、これまたポケットから取り出したボールペンを使い、手帳に書き始める。

「大気中の魔力、……よくフィクションで『マナ』とか呼称されているものは、現実世界には存在しません。魔力は基本的に、『自分で生み出して、自分で使う』ものなんです。他人に分け与えることもできないようです」

 理正は手帳を見せながら、魔力の出所と、その使い方について語った。

「あれ? 他の人に与えられないってことは、補助魔術なんてものは使えないんじゃ?」

 理正の話に、譲葉は突っ込みを入れた。

「譲葉君、分け与えられないのは魔力そのものであって、魔力によって発生した現象・効果は、他の人や物に掛けられますよ? でなきゃ攻撃すらできないはずですから。例えばゲームで、MPを消費して補助魔術を他人にかけますが、MP自体を与えているわけではないでしょう? そういうことですよ」

 魔力そのものと、それによって発生する現象・効果の違い。

 混同しそうな要素である。

「なるほどな。ってことは、魔術を鍛えるには、体を鍛えればいいってことか?」

 カークは、理正の話を大まかにそう解釈した。

「ただ鍛えればいいってものではありませんよ? 基本的に魔力は精神、特に感情に起因する力なのですから。鍛える必要があるとするならば……」

「心?」

「その通りです、譲葉君。精神の習熟、もっと簡単に言うと、イメージすることが魔術習得において大事になります」

「イメージ……」

 魔術は、イメージの力。

「っ……」

 この瞬間、カークの脳裏に、以前浮かんだイメージが再び浮かび上がる。


――――――――――――。



「――――――――精神の習熟、もっと簡単に言うと、イメージすることが魔術習得において大事になります」


――――――――――――。


(『デジャヴュ』……。前に浮かんだのは、今理正さんが言ってたことまんまだ)

 カークの脳裏に浮かんだのは、さっき理正が言ったのと寸分の狂いもなく同じ言葉。

 言っていたのも、今思うと理正その人の気がする。

(あれは理正さんの言葉? 俺はこれを、経験している……?)

 これぞまさしく、既視感だ。

 今までのデジャヴュは、ただ漠然と経験したことがあるような感じだったが、今回はさっき目の前で起きた出来事と寸分の狂いがなく、明確に「これ聞いたことあるぞ」と認識できるものだった。

「……? どうかしましたか?」

「A、いや、なんでもねえ!」

 デジャヴュを垣間見てぼーっとしていたカークであったが、理正の言葉で我に返る。

「覚えたい魔術をイメージすれば、自然と使えるようになるんですか?」

「うーん……そこも難しいところなんですよね。ある魔術を覚えたい場合、その前提となる魔術を習得している必要があるんですよ。例えば『防御力を上げる魔術』の習得には、あらかじめ治癒魔術を習得している必要があります」

「習得条件があるっていうのは、まるでスキルツリーですね。ゲームとかの」

 このお嬢様、かなりゲームに詳しい。


「Ah、その……俺も治癒魔術使えるなら、使えるようになりたいんだが……。ゆーずぅの事もあったし、総一郎も使えるみたいだからな」

 ここでカークは理正と譲葉のやり取りに割り込む。

 そして、治癒魔術の習得方法を尋ねた。

「治癒魔術を習得できるのは、水属性か地属性の使い手だけです。カーク君の場合、魔術属性が火なので、残念ながら習得できないということになりますね」

 カークの問いに、理正は残念そうに答える。

「魔術の属性ってのは、変えられたりしないんですか?」

「基本的には、生まれつきですね。私みたいに複数属性操れる人もいますが、そういった人は世界中見て十数人くらいしか居ませんよ。基本的には1つと考えて良いでしょう」

「そうなんですね……」

「Ah……そうなのか」

 理正と譲葉のやり取りを聞き、カークは少し残念な気持ちになった。

「まぁ逆に、火属性でないと習得できない補助魔術もありますので、それをカーク君には教えましょう」

「何! そういうのもあるのか! ぜひ教えてください!」

 カークは気を取り直した。

「分かりました。火属性が習得できる補助魔術には、『攻撃力を上げる魔術』、『攻撃力を下げる魔術』、『火傷にする魔術』といったものがあります」

「ふむふむ」

「この内、一番習得しやすくて、使い勝手が良いのは攻撃力を上げる魔術なので、まずそこからチャレンジしてみては? これを覚えているだけで、怪物との戦いも楽になるでしょう」

 理正はカークに、攻撃力を高める補助魔術を習得するようアドバイスした。

「攻撃力を上げる? ってのは、どうイメージすればいいんだ?」

「強くなれ~! みたいな感じで念じればいいの?」

 2人は理正に尋ねる。

 すると理正は両腕を合わせ、前に突き出す仕草をしながらこう答えた。

「ただ念じるだけでは、おそらく炎が出るだけでしょう。重要なのは、力の加減です」

「加減?」

「はい。攻撃魔術を放つときは力いっぱい念じますが、補助魔術を使うときはそっと、弱い力で念じるのです。そしてその上で、自分を強化するイメージを持ってください。最初は何も起こりませんが、何度か繰り返していくうちに、身体から力が湧いてくるようになるはずです」

「イメージ、だな……」

 さっき聞いた言葉と、デジャヴュで浮かんだ言葉。

 全く同じワードを、カークは脳内で反芻する。

「さらに続けていくと、念じた後に身体から赤いオーラが出てくるようになるはずです」

「赤いオーラ、でいいんだな?」

「はい。力が湧いてくる感覚と共に、赤いオーラが出るようになれば成功です。このオーラは魔術の素養を持つ者にだけ見えるもので、魔術が掛かっている証拠です。自分に掛けるのに慣れてくれば、相手に対しても同じ要領で掛けられるようになりますので、どうか頑張ってくださいね」

「おう! ありがとう、理正さん! 頑張って、モノにしてみせるよ!」

 カークは理正に頭を下げた。


「ねえ理正さん! 私にも、補助魔術を教えてください!」

 今度は譲葉が、理正に頼み込んだ。

「分かりました。譲葉君は水属性の使い手ですから、すでに覚えている回復魔術の他に、先ほど言いました『防御力を上げる魔術』、『防御力を下げる魔術』、そして『相手を凍結させて動きを止める魔術』などが習得できます」

「この中で一番覚えやすいのは?」

「回復魔術を既に覚えていますから、その派生となる『防御力を上げる魔術』がおすすめですよ。君が言っていた一昨日のシチュエーションでも、あらかじめ自分の防御力を強化していれば、不測の一撃を受けても重篤なダメージにはならなかったはずです」

「確かに……」

「更に、受けるダメージを抑えられれば回復魔術を掛けるときの負担も減るので、一石二鳥です」

「なるほど」

 譲葉は理正の話を聞いて、相槌を打った。

「それで、習得方法は? カーク君のと同じ?」

「はい、基本は同じです。防御力を上げる魔術の場合、青いオーラが出て、力が湧いてくれば成功です」

「なるほど……。ねえ理正さん。強化する魔術で力が湧いてくるってことは、逆に力が抜けてくる感覚があったら、それが弱体化させているってことなの?」

 譲葉は、ふと疑問に思う。

 強化魔術は全て、力が湧いてくる感覚があるということは、逆に力が抜ける感覚があったら……。

「察しが良いですね、その通りです。青いオーラで、力が抜けてくる感覚があれば、それが『防御力を下げる魔術』です。この2つは対になっていて、片方を習得できれば、もう片方も使えるようになります」

「そうなんですね……。一方が掛かっている状態で、もう片方の魔術をかけたらやっぱり打ち消すんですか?」

「はい。その通りです。相手に掛かっている強化魔術を、弱化魔術で打ち消すことも、その逆も可能です。ただ、強化魔術と弱化魔術はオーラの色が同じなので、どちらが掛かっているかを見分けるのは難しいです。相手の動きや動作、攻撃の通り具合を見て判断しましょう」

「分かりました。ありがとうございます、理正さん」

 譲葉は、理正に対し頭を下げた。


 3人が話を終えたとき、夕日は既に地平線の下へ落ち、街灯が点き始めていた。

「それでは、今日はこの辺で。後で属性ごとの魔術系統についてメールで送りますので、頑張って補助魔術をものにしてください」

「はい! 頑張ります!」

 譲葉は力強く返事をした後、ぺこりと理正に一礼した。

「Thank you very much、理正さん……って、あっ!」

 3人が別れの挨拶を交わそうとしたところで、カークは思い出したかのような仕草をする。

「ん? どうしましたか?」

 理正が尋ねる。


「Eh……理正さん、『デジャヴュ』って知ってます?」

 カークは、最近自分の身に起きている現象を聞いて、理正に聞いてみることにした。

「デジャヴュ、既視感ですね。……何かあったのですか?」

 ……言葉の意味を知っているか、という意味で尋ねているわけではない。

 そう判断した理正は、カークに問い返す。

「それが……」

 カークは理正に、経験したそれについて、一通り説明した。


「経験したことがない、でも何となく覚えがある記憶やビジョンを見て、それが切っ掛けで魔術が使えるようになった、ですか……」

「はい。後、変な夢も見ていて。知らねえ奴が俺に語り掛けてくるっていうか……。内容ははっきりとは思い出せねぇんですけど」

「デジャヴュに、奇妙な夢ですか……」

 理正は、顎に手を当てて考える仕草をする。

「ねぇ理正さん。今カーク君が話したことって、魔術によるものなんですか?」

 譲葉はカークの話を聞いて、これらは魔術によるものではないかと考える。

「可能性はあります。人の記憶や認識に干渉する魔術……催眠魔術の類は実在が確認されていますので。ただ、カーク君の事例がそれに該当するかは、私も断言はできないですね」

「そうですか……」

 カークの語気が少しだけ弱まる。

「まぁ、そう気を落とさないでください。少なくとも『他者が魔術でカーク君に干渉している』可能性があるというのは心に留めておいてください」

「OK、分かりました」

「もし更なる変化があったら遠慮なく相談してくださいね」

「はい!」

 カークは力強く返事をした。


(何者かが干渉している……? 魔術で……?)

 カークは理正に返事をしつつ、心の中で自問する。

(変な奴に絡まれそうになったことがあるが、奴らが魔術を?)

 自分に絡んできそうな奴について、カークは実のところ覚えが1つだけあった。

 それは忌々しき昨年の『事件』に関することである。

(いやでも、それなら俺に力を習得させるようなことをするか?)

 だが、それはなさそうだとも思い直す。

(それに、もしそうならもっと早く干渉が来てもおかしくはないはず。原因があるとするならこの春以降か……? 理正さんの言う通り、もう少し様子を見てみるか……)

 一旦、更なる出方を伺ってもよさそうだと何となく感じ、カークはそこで考えを止めた。


「それじゃあ、改めて。また今度会いましょう。さようなら」

「さよなら!」

「ばいばい!」

 やり取りを終えた3人は、各々家へと戻って行った。


(あっ……やべっ……)

 公園から離れ、家の前に着いたとき、カークは突如、思い出す。

(魔術の腕輪について、聞いときゃよかった……)

 人と別れた後になって、話したいと思っていたことが次々と浮かんでくるのはよくあること。

 デジャビュの事を理正に聞いたものの、総一郎が拾った腕輪について聞くのを忘れていたことをカークは思い出す。

(しょうがねぇなぁ……また今度聞くか……)

 とはいえ今更連絡するのも面倒に感じ、カークは家の扉を開けた。


――――――――――――夜。

「ただいま!」

「おかえりなさい」

 カークがリビングに行くと、李緒がキッチンで料理をしていた。

「お帰り、カーク。結構遅かったな」

 ソファーの方を見ると、桜散が腰かけていた。

「まあ、いろいろあってな」

「そうか。まあいい。詳しい話、後で、みっちり、聞かせてもらうからな?」

「はいはい」


 夕食後、カークは公園での出来事について、桜散に話した。

「なるほど、譲葉ちゃんはもう大丈夫なんだな。良かった……」

 桜散は胸をなでおろす。

「それと……父さん、に会ったんだな」

 桜散は少し間を置いてそう言った。

「ああ」

「……そうか」


「それにしても、デジャヴュは『記憶や認識に干渉する魔術』か……覚えはないんだよな?」

「当然」

「……本当に?」

「ホントにホントだよ! 強いて言うなら先月から起きた現象だから、仮に何かしらの干渉を受けたとするとそれ以降だと思うんだが、まるで見当がつかねぇ。何なら動機も分からねぇ」

「動機が分からない、か。……腕輪の件は、聞けなかったんだよな?」

 桜散はカークに、同じく動機が分からない腕輪の件を引き合いに出してカークに尋ねる。

「……あぁ」

 その問いに、理正に聞きそびれたカークはばつの悪い顔をしながら頷いた。

「そうか。それじゃ今度父さんに会うときは、私も連れて行ってくれないか? カークが言いそびれそうなことも忘れず伝えられると思うし……」

「What!? Eh……大丈夫なのか?」

 カークは恐る恐る、桜散に尋ねる。すると……。

「まあ、カークの懸念は分かる。私だって、まだ割り切れてるわけじゃない。ただ……今後、母さんに会うことを考えると、今の段階で、慣らしていかないと思ってな」

「……そうか」

 彼女なりに、家族に向き合おうとしている。

(見守っていかないとな……)

 カークは固くそう誓った。


「後、腕輪の件だが……。確か父さん……左腕に妙な装置を付けていて、そこから魔術を放っていなかったか?」

「装置……あっ!? あのひし形の装置か」

 ここでカークは、理正が装置を使って魔術を放っていたことを思い出す。

「そうだ。あれも魔術に関する何かしらのデバイスだとすると、腕輪の件はやはり父さんに聞いた方が詳しい情報が得られると思ったんだ」

「なるほどな……。分かった。今度行くときは、さっちゃも連れてくよ」

「ありがとう。頼んだぞ」


――――――――――――深夜。

 深夜。カークは寝る前に、理正から届いたメールを確認していた。

 そこには属性ごとに習得できる魔術の一覧、そしてその習得までの道筋が事細かに記された添付ファイルが付いていた。

(ありがとう、理正さん)

 メールは既に桜散や他の面々にも転送済みだ。

 後は各々、自分で学習するだろう。

 (今日はもう遅いし、練習は明日以降にするか……)

 魔術の鍛錬について思いを馳せながら、眠りに就いた。



40日目

――――――――――――朝。

「おい! 朝だぞカーク」

「うーん……」

 朝。カークは桜散に起こされた。

 桜散の様子は、荒っぽい感じではない。

「あー、そうか。今日は月曜日か……」

「そうだ。ほら、下降りろ。朝ご飯が出来てるぞ?」

 桜散は、カークの手を取った。

「お、すまんな。朝ご飯は?」

「ハムエッグだ」

「そうか」

 何気ないやり取りが続く。

「あと、メールありがとう。あれを基に、私も練習してみるよ」

「Ah、どういたしまして。俺も頑張るよ」

 メールのお礼のやり取りを交わした後、2人は階段を下りていった。


――――――――――――放課後。

 そしてその日の放課後。

 カーク、桜散、譲葉、アレクシア、総一郎の5人は、大学の図書館にあるフリースペースに集まっていた。

「これ、私の物、じゃない、わ」

 テーブルの上に置かれた腕輪を見るなり、アレクシアは首を横に振る。

「本当にそうなんだよな?」

 アレクシアの向かいに座ったカークは、念を押すように尋ねる。

「ええ」

 アレクシアは腕輪を舐め回すように首を動かす。

「ねぇアレクシアちゃん。これって一体何なの?」

「……」

 譲葉の素朴な問いを受け、アレクシアは少し考えた後に、こう答えた。

「……これは、『E2C』」

「いーつーしー?」

 総一郎はアレクシアが口にした言葉を復唱する。

「Emotion-Energy……Converter、略して、E2C。感情を、魔力に、変換する、装置。装備、するだけで、誰でも、魔術、使える、マジック、アイテム」

 アレクシアは間の空いた喋りで腕輪について説明した。

「誰でも魔術を使える……?」

「それは本当なのか?」

 カークと桜散が疑っているのを見て、アレクシアは追加で説明を続ける。

「……魔術の、素養、ない、人間、でも、使える。……素養、ある、人間なら、魔術の、素養、覚醒する」

「魔術の素養がない人間でも使えて、素養がある人間なら覚醒させる……僕の場合は後者ということか」

 総一郎は、たどたどしいアレクシアの話の内容を復唱する。

 アレクシアは、無言で頷く。

「なるほどね……。それにしても、そんなすごい代物なんだね。これって」

 譲葉はさっきアレクシアがやったように腕輪を眺める。


「これ、各国が、血眼で、探す代物」

「えっ?」

「Hh!?」

「何…!?」

「っ!」

 アレクシアから物騒なワードが淡々とした口調で飛び出し、4人は思わず声を漏らさずにはいられなかった。

 だがそんな反応を横目に、説明は続く。

「このまま、持ってると、貴方達が、危険。……早く、手放した、方が、いい」

 アレクシアは一通り喋り終えると、腕輪を総一郎の方にそっと押し付けるように動かした。

「……」

 そして、ゆっくりと深呼吸した。


 辺りに沈黙が走る。

「……えーっと、結論といたしましては、早く交番に届けた方がいい、ということでしょうか?」

 沈黙を破った総一郎は、腕輪を手に取る。

 全員の視線が、総一郎に向く。

「……」

 アレクシアは無言で頷く。

 再び会話が途切れたものの――。

「正直なところ、私はアレクシアが言っていることについてまだ完全に納得しているとは言い難いな。ただ話の真偽に関わらず、それ自体は拾得物であることに違いはないから、手放すべきという意見について、私は異論がないな」

 気まずい雰囲気になったところで、桜散が重い口を開いた。

「Uhm、俺もさっちゃと同意見だ。魔術を使える腕輪ってのは何となくそうなんじゃねえかって思ってたけど、国やら何やらが絡むようなものって言われてもいまいちピンとこねぇ。んで、腕輪を手放すのも同じく賛成。警察に届けていいのかなとは一瞬思ったけど、そもそも落とし物を届けねえ方が問題だろうからな」

 桜散の言葉を聞いたカークも、己の考えを皆に伝えた。

「『魔術の腕輪と知らずに交番に届けた』ってことにするって、こと? まぁ、私はそれでも構わないけど、先に理正さんに聞いてからにした方がいいんじゃないかなぁ……?」

 桜散とカークは腕輪を手放すことに賛成したのに対し、譲葉は異論を述べる。

「Ah……。確かにそれは聞いときたいんだよな。どうする? さっちゃ」

「腕輪については実物がなくても聞くことはできると思うぞ? 実物を見せて説明したい気持ちも理解できるが、これを失くして困っている人がいるかも知れないことを考えると、こちらで持ち続けるのに賛成とは言えないな」

「Eh、確かに、落とし物だもんな、持ち主はいるよな…」

「確かにそうかも……」

 桜散の「失くして困っている人がいるかも」という意見を聞いて、譲葉は考えを改めた。

「とりあえずですが、僕は交番に届けるのに賛成です。届けるのは僕が帰る途中でやっておきますよ」

「分かった。まぁ拾ったのは総一郎だしな。……頼むわ。これについて異論はないよな?」

 カークは他4人を見つめる。

「はい、僕はないです」

「分かった。総一郎、頼んだぞ」

「はーい!」

「……賛成」

 腕輪の件については未だに謎があるものの、アレクシアのものではないというのは確かなようだ。

「OK。よろしく、総一郎」

「ええ」

 つまりこの腕輪は持ち主不明の拾得物ということであり……。

 魔術に絡むものとはいえ、それをそのまま自分達で持ち続けるのは望ましくないという点において、5人の意見は一致する。

 総一郎は、腕輪を鞄の中にしまった。


「しっかし、改めて見ると随分人が多くなったな……」

 腕輪の処遇について一段落した所で、カークは4人を見回した。

 仲間と一緒に集まってあれこれ話す。

 このような光景は、数か月前までのカークには到底想像できないことであった。

「それは私も同意見だな」

「そう? 桜散ちゃん、結構友達とかいるのかなって思ってたんだけどなぁ」

 譲葉は桜散に話しかける。

「俺の知る限り、高校時代は友達居なかったぞ?」

「おいカーク! その話をここでして……」

 桜散は不満げな顔をする。すると。

「ははは! そうですか。実は僕も、高校時代はさっぱりでして……」

 桜散の過去話に、総一郎が食いつく。

「えっ? 総一郎君もそうなの? 結構人当たり良さそうに見えるのに、友達、居なかったんだ?」

 譲葉は総一郎に問いかける。

「おいおいゆーずぅ。待て待て、その物言いは失礼なんじゃ」

「カーク君も大概だと思いますが……。まぁ、その通りです、譲葉さん。僕も色々ありまして……」

 総一郎は質問に答えながら、アレクシアの方を向いた。

「そう言えば、アレクシアさんは、高校時代はどんな感じで?」

「えっ!? ……特に、何も」

「友達とかは居なかったの?」

「居なかった。居なかった、わね」

 アレクシアは総一郎の問いに、少し間を置いて答えた。


「そういえば、友達について、私達にやけに聞いてくる譲葉ちゃんは高校時代、どうだったんだ?」

「えっ!? べ、米国に居た頃では何人かいたけど、今は……」

 桜散はにやにやしながら、譲葉に対し質問を返した。

 それに対し、譲葉の答えは後半になるにつれて尻すぼみになっていった。

「Ah……。まぁ……現状は似たり寄ったりってことか……」

 カークは、譲葉の反応を見て察し、言葉を詰まらせた。

「どうやら、そのようですね。でも良かった。こうして5人で集まれて」

 総一郎は感慨深そうに呟く。

「そうかもな……」

 カークもまた、感慨深そうにそう呟いたのだった。


――――――――――――夜。

「むー……」

 夜。カークは自室にて、補助魔術のトレーニングに励んでいた。

 彼が左手に持っているのは昨日理正から送られてきた、魔術についての説明が書かれた文章を印刷したものだ。

「うーん」

 右手に力を込める。

 心なしか、身体に力が湧いてくる気配を、カークは感じていた。

 しかし……。

(出ねぇな、オーラ。出ないと成功じゃないと、理正さん言ってたんだよなぁ)

 力を込めるも、赤いオーラらしきものは一切確認できなかった。

(イメージが足りないのかな。もっと集中集中……)

 カークは再度集中する。すると……。


「Woa!?」

 カークは誤って、手から勢いよく炎を出してしまう。

 幸い、炎はすぐに掻き消えた。

 微小な埃か何かが燃えたのか、辺りに何かが焦げたような匂いが漂った。

(Ouch……危うく家燃やしちまうところだった……)

 彼が右手で額に噴き出した冷や汗を拭ったそのときだった。


「できたぞ!!!」

 突如、カークの部屋のドアがバタンと勢いよく開き、桜散が飛び込んできた。

「Whoa! 何だよさっちゃ!?」

 思わずカークは身体を震わせた。

「何だよ、はこっちの台詞だ、カーク。いきなり大声を出して、どうした?」

 大声を出す原因になった張本人は、悪びれもせずにそう尋ね返してきた。

「いやいきなり入ってこられたら驚くよ!」

「そうか、すまんな。……ん? 何か焦げ臭くないか?」

 桜散は突然、部屋の匂いを嗅ぎつける。

「Ah……ちょっと、補助魔術の鍛錬に失敗して、AHAHA……」

 カークはばつの悪い顔で空笑いした。

 実際火事になりかけたので、笑い事ではないのだが……。

「おいおい! 気をつけろよ……っと、あ! そうだった!」

 桜散はカークに呆れつつも、思い出したかのようにこう告げる。

「補助魔術だ補助魔術! カーク! 使えるようになったぞ! 補助魔術!」

「What’s!? ど、どんな?」

「ふふーん! 見てみろ! これだっ!」

 桜散は両脚を肩幅に開くと、両掌を上に向けた状態で前に突き出す。

 そしてそのまま両拳を握り、前に突き出した両腕を手前方向に90度曲げ、その状態で構えを取る。

「はぁーっ!」

 その構え……まるで武道の達人か何かを彷彿とさせるようなポーズのまま、桜散はシャウトした。

 すると彼女の身体の表面に覆うように、青い色のオーラが現れた。

「Wow……これは……」

「早速だがカーク、私の頬を思いっきり叩いてくれ!」

 カークが問いかける間もなく、青いオーラに覆われた桜散は、自分の頬を叩くようカークに促してきた。

「Huh!? え?」

 当然、カークは困惑し、躊躇うも――。

「いいから叩け! ほらっ!」

「わ、分かった。行くぞ……ていっ!」

 カークは恐る恐る右手を桜散の顔の傍に置くと、そのまま手首を力強くスナップ。

 ペチッ、もしくはパシッという音が響いた。

「いって!」

「ちょ、さっちゃ!? S、Sorry……」

 カークは桜散が痛そうな仕草をしたため慌てて謝罪する。


 だが――。

「痛かった、確かに痛かったが……予想していたものよりは大幅に痛みが小さい! 成功だ!」

 桜散は両手を威嚇する熊の如く高く上げ、ガッツポーズをした。

「Wow! 俺には掛けられる?」

「待ってろ……てぁっ!」

 桜散はさっきと同じ構えをした後、カークに両手を向ける。

 するとカークの身体にも、さっきと同じ青いオーラが現れた。

「Oh……」

 カークは青いオーラを眺める。

「っ!?」

 すると突如、彼の脳裏にビジョンが浮かぶ――。



――――――――――――。

「みんな! 一旦集合!」

譲葉の掛け声で集まるカーク、桜散。アレクシア。

「どうした、ゆーずぅ?」

「はい! これ!」

 尋ねるカークに対し、譲葉は右手をかざして力を込める。

 すると彼女の右手から青い光が放たれる。

 光はカークに注がれ、彼の身体の周囲に青いオーラが形成され――。



――――――――――――。

「Damn!」

 カークは物陰に隠れながら思考を巡らせる。

(とにかくあいつの前まで行きたい! だが奴の攻撃をどうにかしないと先へ進めん!)

 カークは先程鉄パイプで攻撃を一度凌いだが、黒い手の形をした怪物の攻撃は重く、いかんせん彼の腕力では攻撃を受けないようにするのがやっと。

(俺にもっと力があれば……あいつを跳ね返せるほどの腕力が……)

 カークは、脳内で自分が鉄パイプで怪物の攻撃を跳ね返す様子をイメージした。

(跳ね返す、跳ね返す……)

 彼の脳内で、握り拳による一撃を跳ね飛ばすイメージが何度も浮かぶ。


(……ハッ!)

 刹那、彼の中で何かが繋がったような感覚が走る。

(そうだ! このイメージがあれば……)

 彼は咄嗟に精神を集中させ、先ほどまで浮かべていたイメージと、体に力が湧くイメージを強く重ねあわせる。

 すると、突如カークの身体から強い光が周囲に放たれる!

「「カーク!?」」

「「カーク君!」」

 カークの様子を見て叫ぶ4人。

 彼の身体から出た赤い光はそのまま身体の周りに収束していき、赤いオーラが形成される。

「これは……」

 自分の両手を見つめるカーク。体を覆うように赤いオーラが形成されていた! 

 そして同時に、力が湧いてくる感覚が――。



――――――――――――。

 カークは次に桜散の方へと向くと、彼女に手をかざして力を込めた。

 すると桜散の身体にも、カークと同じ赤いオーラが現れた。

「おっ! すごいな! 力がみなぎってくる! なるほど……これはすごいな。ありがとう、カーク!」

 桜散はカークにお礼を言――。



――――――――――――。

「……」

「どうした?」

 突然固まったカークを心配そうに眺める桜散。

「……デジャヴュ」

「っ! 見たのか!? どんな!?」

「……」

 桜散が問いかけると、カークは無言で身体を構える。

「えっ?」

 そしてそのまま、先程のデジャヴュで浮かんだ、「敵の一撃を跳ね返すイメージ」と「体に力が湧くイメージ」を同時に脳内に浮かべながら、桜散に両手を向けた。

 すると桜散の身体に、赤い色のオーラが現れる。

「成功、した! 掴んだ!」

「カーク?! これは……」

 カークは即座に腕を自分に向け、同じイメージを反芻する。

 すると彼の身体にも赤いオーラが現れた。

「……デジャヴュで浮かんだ様子をイメージしたら、できた」

 桜散に問われたカークは、自分がやったことを率直に答えた。

「っ!? ……そうか」

 桜散はその言葉を聞いて、一言だけぽつりと呟いた。


(浮かんだ『デジャヴュ』からイメージを読み取って覚えた、といったところか?)

 桜散にとってカークのデジャヴュは全容が掴めぬ、まったくもって謎の現象だ。

 思えば、カークが魔術を使えるようになった切っ掛けもデジャヴュだったはず。

 理屈は不明だが、カークは再びデジャヴュを基に補助魔術を習得した。

(でもあの様子、何というか……)

 だが、それは習得したというよりは、むしろ……。 

(……まるで「忘れていたことを急に思い出したか」のような、そんな感じに見えるな。私の覚え方とは明確に……違っている)

 長らく乗っていなかった自転車や竹馬に久しぶりに乗って、乗り方を思い出したような……。

 そんな感覚で、カークは魔術を習得している。

 今回のカークの様子について、桜散はそのような印象を抱く。

(もしこれが父さんの言う通り『記憶や認識に干渉する魔術』だとすると、忘れていたことを思い出させるような、リマインドのような魔術ということなのか? うーむ、一体誰が何のためにカークに……)


 桜散がカークの身に起きている現象についてあれこれ考察している中――。

「……」

 カークは無言で両手を見つめていた。

(やっぱりなんか、覚えがある気がするな……)

 この感覚、初めてという気がしない。

 まるで1度、実際に体験したかのよう。

(なんつーか、イメージから見よう見真似で習得したというより、まるで「忘れていたものを思い出した」ような……)

 奇しくも、実際に体験したカークも桜散と同じ考えに至る。

(そんな感覚だよな……)

 今回のデジャヴュで得られた知見について、カークがぼんやり考えていると――。

「……ていっ!」

 突如、桜散はぼーっと立っているカークの頬に、軽くビンタを当ててきた。


 彼女としては、考えが行き詰ったときにやる、ほんの気晴らしのつもりだったのかもしれない。

 あるいは、さっき(自分からやるよう言ったとはいえ)カークからやられたことの、お返しか。

 だが桜散の身体には、赤いオーラが纏われていて……。

「Woa!?」

 桜散としてはほんの軽い気持ちで打ったであろう、本当に軽いビンタの一撃によってカークの身体は大きく倒され、そのままベッドに勢いよく倒れ込む!

「なっ!? だ、大丈夫か!? カーク!!!」

 突如、自身の想定外の力でカークをベッドに倒してしまった桜散は、己の力に気が動転し、カークに心配そうに声をかける。

「U、Ugh……」

 先程桜散が掛けた補助魔術がまだ有効だったためか怪我は無いようだが、不意に食らった衝撃と痛みで、カークはベッドに顔を伏せながら呻いたのだった……。

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