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The Memoirs 9th(回顧録 第9部)「これが、世界の選択か」  作者: 語り人@Teller@++
第六章「魔術師達の閑話」
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第35話④『そして、役者は揃った……かに見えたが④』

第35話④『そして、役者は揃った……かに見えたが④』

「ムォォォォォ!」

 怪物は総一郎に狙いを変え、舌による攻撃を繰り出した!

「危ない! 総一郎!」

「テアアァァ――――――――ッ!」

 カークが叫ぶも、総一郎は椅子を怪物に投げつけ、そのまま右腕を怪物に向けシャウト!

 投擲された椅子は怪物の舌に命中し、攻撃の軌道が総一郎から僅かに逸れる。 

 直後、彼の右手から機関銃のごとく乱射された何発もの石片が、怪物の舌ではなくその上……巨大な目玉に多段命中する!

「ムァァァァァァ!」

 怪物の目から、黒い液体が勢いよく噴出! 

 怪物は悲鳴を上げて両手で目を抑え込み、動きを止めた! 

 そしてその隙を見逃さない総一郎! 

「てあっ!」

 まず右手で桜散を捕える眷属目がけ、石片を発射! その目玉に命中させる! 

 直後、眷属は爆発四散し、桜散は落下。

「うわーっ!」

 落下する桜散を横目に総一郎は走り、彼女を見事にキャッチした。

「た、助かった……総一郎、感謝する」

 彼の腕の中で、お礼を言う桜散。

「桜散さん、奴の足止めお願いします!」

 桜散を下ろすなり、総一郎は一言告げ、そのまま倒れている譲葉の元へと一目散に走っていく。

「えっ!? あ、ああ! はあーっ!」

 いきなり言われて困惑した桜散であったが、即座に状況判断。

「――ムォォォォ!?」

 再び譲葉の方へと向かう怪物にジェット水流を浴びせ、注意を逸らした。

「譲葉さん!」

 そうこうしている内に総一郎は譲葉の元へとたどり着く。

「っ、これはひどい、だが! てぁーっ!」

 総一郎はすぐに彼女の身体に両手を当て、力を目いっぱい込める。

 すると譲葉の倒れている場所を中心に、半径5m程の巨大な白い魔術陣、サークルが床に現れる。

「ムォァァァァァァ!!」

 白いそれは眩い限りの光を放っている。

 その光を目に受けた怪物は舌を顔に覆うような仕草をし、苦しむように動きを止める。

「なっ!」

「これは……」

 カークと桜散は驚き、思わず手を目に当てる。

「これは一体……はぁーっ」

 そして、驚いていたのは当の総一郎本人もそうであった。

 だが彼は、力を込めることを止めることはしない。

 総一郎の手から白い光が放たれ、それは譲葉の身体に入り込んでいった。

「総一郎……ちぃっ!」

 その様子を横目に、桜散は総一郎の方に怪物が行かないよう、ジェット水流を怪物に浴びせ続ける。

「総一郎、さっちゃ……」

 そしてその様子を空中で見つめていたカークであったが、突如強い風が吹いたかと思うと、彼を捕まえていた怪物が、突如爆発四散した。

「A?」

 身体を支えていたものが、突如無くなり思わず声を漏らすカーク。

 直後、彼の身体は引力に従い自由落下を始める。

「Whoaaaaaa!!!」

 しかし床に落ち行くカークの落下速度は、突如床から吹き出した非常に強い風によって下がっていく。

「Eh?」

 そしてそのまま、風に支えられるようにゆっくりと降りていき……。

 やがてカークは無傷のまま地面に着地を果たす。

 カークは周囲を見回すと、後方にアレクシアの姿があった。

 彼女は辛うじて立っているように見え、そしてカークの方に右手を向けているようだった。

「アレクシア! Thanks!」

「……」

 カークはアレクシアに駆け寄ろうとするも、彼女は無言でそれを制止する仕草をした。

「私は、大丈夫。……あっちを、援護、して」

「R、Roger……」

 カークは、水の魔術で怪物を押し留めている桜散の反対側に立つ。

 そして怪物の背後を目掛け、複数発の炎弾を両手から放った。

「AHHHHHHH!」 

「ムゥゥゥゥゥゥ!」

 後ろからカチカチ山の狸の如く焼かれた仮面の怪物はすかさず身体を反転させ、背中に付いていた炎を、桜散の水流を利用して消し去る。

 辺りにジュゥゥゥゥという音と共に白い蒸気が立ち昇り、石油のような不快な臭いが漂う。

 そして怪物はそのまま、カークの元へと向かい始めた。

「カーク!」

「Woa!?」

 慌てて逃げるカーク! 

 しかし、怪物の動きが速い! 

 どんどん距離が縮まっていく!

「Whhhhhh!」

 怪物が舌を振り回す度に、カークのすぐ後ろを薙ぎ払う!

「Darn!」

 カークは叫びながら走るも――。

「ぐわっ!」

 突如足をひねり、転倒してしまう。

「ムゥゥゥゥゥゥ!」

 倒れるカークに、怪物が迫ろうとする!

「てーい!」

 カークに危機が迫る最中、総一郎は咄嗟に床に両手を置き、力を込める!

 すると刹那、怪物直下の床が突如陥没! 怪物は崩れた床にはまって動けなくなる! 

 舌のリーチは、あと一歩のところでカークに届かない!

「Oh、動きが止まった……Nice! 総一郎!」

 カークは立ち上がり、捻挫した足を引きずりながら総一郎達の元へ向かった。

「無事だったんだな、総一郎」

 カークは総一郎に声を掛けた。

 近くには桜散もおり、彼女は怪物の方を見つめている。

「ええ、何とか。……この力のおかげですよ」

 総一郎は両手を見つめる。

 右腕に嵌められた腕輪が、きらりと光る。

「あれ、は……」

 いつの間にか譲葉の近くまで移動していたアレクシアは、総一郎の右腕を見て、何かに気付いたようだった。

「とにかく、詳しい事情は後にしよう」

 桜散は、床に嵌って動けない怪物を注意深く見ながら呟く。

 怪物は抜け出そうと両手を床についているが、床の何かに引っ掛かっているのか一向に抜ける気配がない。

「さっちゃ! ゆーずぅは!?」

 カークが倒れている譲葉の方を見ると、アレクシアが彼女の傍に駆け寄り、介抱しているのが見えた。

 アレクシアとカークの目が合う。すると……。

「カーク! 桜散! 彼女は、大丈夫! こっちは、任せて!」

 突如彼女らしからぬ大きな声で、譲葉の無事が伝えられた。

「OK!」

 それを聞いたカークは、大声で返事を返す。

「一応だが、さっきお前の方に怪物が行ったときすぐに確認した。見た感じ怪我は治ってたが……私の見立ては間違って無かったみたいだな」

「そうか。よかった……」

 2人からの報告を受け、カークは胸を撫で下ろす。

「なあ総一郎、譲葉ちゃんのことだが……君が、やったんだな?」

「……はい」

 背中を見せている桜散に問いかけられた総一郎は、ぽつりと頷いた。

「そうか」

「それより、一刻も早くあいつをやっつけましょう!」

 総一郎も怪物の方を見る。怪物はいつ抜け出してもおかしくはないだろう。

「OK!さっさと終わらせよう!」

 カーク、桜散、総一郎の3人は怪物に近づく。

「はぁーっ!!!」

 渾身の力を込めた桜散の両手から巨大な水弾が生成され、それは勢いよく怪物にぶつかり、そのまま爆ぜる。

「ハァーッ!」

 総一郎は怪物の目玉に石片を乱射! 銃の発射音のような軽快な音が断続的に響き、怪物の目玉から黒い何かが噴き出す。

「ムゥゥゥゥゥゥ!!!」

 水弾の爆発と石片の直撃を受けた怪物から、悲鳴のような、あるいは金切り声のような高音が鳴る。

「Ahhhhhhh!」

 そしてカークは両手から巨大な赤いサークルを出現させ、そこからすさまじい勢いで噴き出した爆炎を怪物にぶち当てる。

「MUhhhh――――――――!」

 直後、怪物の頭が黒い液体のようなものを吹き出しながら爆散したと同時に、その身体は遅れて届いた爆炎に包まれる。

 そして、怪物がいたところを中心に、爆発音が響いた。

「Whoa?!」

「っ!!」

「ぐっ!!」

「……」

 爆発音と同時に強烈な閃光が放たれ、周囲の視界は真っ白に染まった――。



――――――――――――夕方。

 太陽が地平線の下に完全に沈んでおり、されど空はまだ赤く染まっている黄昏時。

 カーク達は異空間から元の世界に帰還していた。

「譲葉ちゃん!」

「ゆーずぅ!」

「う、うーん……」

 カークと桜散が呼びかけると、譲葉はゆっくり目を開け、カークの方を見た。 

「大丈夫か? ゆーずぅ」

 カークが声を掛けると、譲葉はゆっくりと体を起こした。

「あ、カーク、君? 私は……っ!」

 譲葉は両手で体のあちこちを探る。服はボロボロだったが、血や傷らしきものは何処にも見当たらない。

「……多分、大丈夫、かな? はぁ……」

 譲葉は眠そうな声を発しながらゆっくり息を吐くと、そのまま身体をだらりと地面に垂らし、目を閉じた。

「Eh!? ゆーずぅ! しっかりしろ! ゆーずぅ……」

 カークは彼女の身体を揺さぶろうとするも、即座に安静にしないといけないと思い直す。

「い、一応、見た目の傷は治ったと思いますが……」

 総一郎はふらふらになりながら、桜散とカークに近づく。

「何!? 本当に大丈夫なんだろうな……?」

「そうです、ね……。……」

 総一郎は桜散の問いかけに応えたところで、そのままばたりと倒れてしまった。

「A!? おい! 総一郎!」

「しっかりしろ!」

 譲葉に続いて総一郎まで倒れてしまったもんだから、カークはもちろんのこと、桜散も気が動転してしまう。

「……救急車、呼ぶ」

 慌てる2人をよそ眼に、アレクシアは119番通報を始めた。

「――あ、もしもし、私、アレクシア、といいます。救急車を、お願いします。意識不明の男性と女性が、1名ずつ。場所は、井尾釜市中央図書館前……」


――――――――――――。

 譲葉と総一郎は、救急車で近くの病院へと搬送された。

 総一郎の方は疲労が原因ということもあり、栄養剤の点滴であっさり回復した。

 一方譲葉は、搬送直後の精密検査で体のどこにも損傷が無いことが判明。

 結局気絶の原因は総一郎同様、疲労によるものとされた。

 総一郎同様点滴を受けるとすぐに意識は回復したものの、大事を取って一晩入院することになった。


――――――――――――夜。

 夜の病室にて、譲葉はすやすやと眠っている。

 疲れもあって、彼女は再び深い眠りについていた。

「譲葉ちゃんが倒れたって聞いたときは驚いたけど……一体、何があったの?」

 譲葉の眠るベッドのそばで、李緒はカークに尋ねた。

「Ah、いや、その……俺の方が逆に聞きたいというか……」

「はぁ!?」

 要領を得ないカークの説明に、李緒は訝しんだ。

「友達……総一郎が居なくなったって聞いてみんなで街中探してたら、総一郎が倒れてるのを見つけて、んでゆーずぅもそんとき疲れたのか倒れちゃって……」

 彼は異空間と魔術のことを必死で李緒に隠した。

「……まあ、いいわ。桜散ちゃんも譲葉ちゃんも無事だったわけだし」

 李緒は彼の様子を見て何かを察したのか、追求を止めた。

「……」

 カークは黙る。

「でも、譲葉ちゃんに何かあったら、ご両親に何て言うつもりだったの?」

 李緒はカークを責める。

「それは……」

 カークは彼女の追及に、答えられず言い淀む。

 実際、先程譲葉の両親がすっ飛んできていたのである。

 ただの疲労であることを医師から聞かされたことで安心して帰っていったが……これでもし何かあったら、カークも弁明しきれなかっただろう。

「それに桜散ちゃんだって……」

「まあまあ、李緒さん。このくらいにしておきませんか? ここは病室、それにもう夜ですよ? 譲葉さん起きちゃいますし、他の患者さんの、迷惑にもなります」

「総一郎の言う通りです。病室では、静かにしましょう」

 説教を始めようとした李緒を、総一郎と桜散が宥めた。

「そ、そうね……。ごめんなさいね、総一郎君、桜散ちゃん」

「いえいえ」

「大丈夫ですよ、李緒さん」

「……」

 これにて一件落着ではあるが、李緒の懸念は正論であり、もっともなことだと思う。

 それゆえに、カークの心にはもやもやが残った。


「それじゃあ私は先に帰ってるから、カークと桜散ちゃんも、早く帰ってらっしゃい」

 李緒は一足先に家へと帰った。

「そういや、さっちゃは大丈夫だったのか?」

 カークは桜散に尋ねた。彼女の2人ほどではないものの、消耗はしただろう。

「私は問題ないぞ。それより……」

 桜散はここで、部屋の片隅にぽつんと立っていた総一郎の方に身体を向けた。

「総一郎。君も大変だっただろうに……その、ありがとう、ございます」

 桜散は拙い様子ながら、総一郎にお礼の言葉を伝える。

「本当にすまねぇな。……それにさっき、ゆーずぅの家族の方にも説明してくれて、助かった」

 総一郎は目を覚ましてすぐ、慌てた様子でやってきた譲葉の両親達を見てすぐさま事情を説明していたのである。無論、魔術や異空間のことは伏せて。

 彼の咄嗟の状況判断が無ければ、きっと今頃カークと桜散は譲葉の両親に詰められ大変なことになっていたに違いない。

「いえいえ、当然のことをしただけですよ」 

「それに、改めてゆーずぅを助けてくれて、本当にありがとう」

 カークは背筋をピンと伸ばすと、総一郎にピシっと最敬礼をした。

「どういたしまして。……」

「……総一郎?」

 一礼から顔を上げたカークは、総一郎が浮かない表情をしているのに気付いた。

「正直、カーク君達に会うまではの自分は、碌な奴じゃないと思っていました。家に籠ってゲームばかりで……」

 総一郎はここで、ベッドで眠る譲葉の方を向く。

 彼女は相変わらずすやすやと気持ちよさそうに寝ている。

「それに小学校の頃は、お金持ちの子供というだけで周囲から変な目で見られたこともあった。自分の立場を、憎らしいと思ったことさえありました」

 総一郎は話を続ける。

「でも、カーク君達と出会って、こんな自分でも、誰かの役に立てる。誰かを助けることが出来るんだって思って……」

「総一郎……」

「……」

 彼の話を、2人は黙って聞いていた。

「本当に、君達に出会えてよかった。……ありがとう。本当に、ありがとう」

 総一郎はカークと桜散に頭を下げた。

 顔を上げた彼の目からは、一筋の光がこぼれていた……。


――――――――――――深夜。

 その後カークは総一郎と別れ、桜散と共に家路についた。

「こんばんは、カーク、桜散」

 その道中で、彼はアレクシアと出会った。

「総一郎と譲葉は?」

 アレクシアは、譲葉達の容態を尋ねる。

 彼女は救急車を呼び、彼女達が運ばれていくのを見送った後、一度家に帰っていたのだ。

「2人共大丈夫だ。譲葉ちゃんは念のため一晩入院になったがな」

「……そう」

 アレクシアはそう呟くと、星空を見つめた。

「その、Thanks。救急車呼んでくれて」

「私からもお礼を、言う。ありがとうございます」

 カーク達は彼女に、動転した自分達に代わって119番通報してくれたことについてのお礼を伝えた。

「どういたしまして。……譲葉は、私の友達、だから」

 アレクシアはぽつりとつぶやく。その顔は、どこか晴れ晴れとしていた。

「そうか」

 彼女の良い顔を見て、カークの顔にも笑みがこぼれた。


「それじゃ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ。アレクシア」

「See you next time!」

 カーク達はアレクシアと別れ、家へと戻った。


 その後家に帰ったカークは、ちょっとした夜食を取った後、1人自室のベッドに転がった。

(ゆーずぅ……)

 譲葉のことを案じる。

(母さんの言う通りだ。今回は総一郎が居たから何とかなったけど……。Uhm……)

 守れなかったことを、悔やむ。

(そういや、総一郎も、魔術を使えるようになったんだよな。石の欠片を飛ばす魔術、地面を陥没させる魔術、そして治癒魔術)

 治癒魔術については譲葉が使っているのを見たため知っている。

 だがそれ以外の魔術は始めて見るものだ。

(俺が火、さっちゃとゆーずぅが水、アレクシアが風……あいつのはさしずめ、地属性か? 火、水、土、風……四大元素だな)

 カークが思い出したのは、古代ギリシャの4元素説だ。全ての万物が「火・水・土・風」の4つで構成されているとされるあれだ。

 本当はこれに第5の元素「空」(エーテル)を加えて5元素とするとか何とか。

(これから、どう、なる、か……)

 そのようにぼんやりと頭に浮かべている内に、彼の意識は薄らいでいった。


『火、水、土、そして風。4つの属性が揃ったとき、彼は仲間が揃ったように感じたと言っていたのを覚えている。

 実際私も薄っすらではあるがそんな気がしていたし、このメンバーでこれから仲良くやっていければいいなと感じていた。

 だが、これで終わりでは無かった。

 役者はまだ、揃ってなどいなかった。

 当時の私は……自分がヒーロー気取りだったと言う彼同様に、現実から目を背けていた。

    『回顧録』 序章より引用』

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