第32話『風の魔女の忠告』
新たな『仮面の怪物』が出現した。カーク達はアレクシアと共に異空間の攻略に乗り出すが、肝心の怪物本体は中々見つからない。
そしてある日、アレクシアはカークに対し、あることを忠告する。
第32話『風の魔女の忠告』
19日目
――――――――――――昼。
昼休み、カークが大学構内を歩いていると……。
「5月16日に行われる反政権デモの参加にご協力お願いしまーす!」
「反原発デモへの参加にご協力ください~!」
男子学生と女子学生の2人組が、マイクを片手に反政権・反原発デモへの参加を呼び掛けていた。どうやら来月、全国の学生自治会が国会議事堂前で開催するもののようだ。
よく見るとメインストリートの各所に、学生自治会が用意したと思われる、ヒノモトの現政権や国防軍、昨年の震災における原発事故を批判する立て看板が随所に設置されていた。
(……本当に変わらねぇな)
演説の様子を見たカークは、思わずその光景から目を背け、見なかった振り、聞かなかった振りをして通り過ぎようとした。
すると、演説をしていた一人の男子学生に肩を触られた。
「すみません! 大学自治会に所属する……」
それを聞いたカークは、思わず不快感を露わにし、学生の手を撥ね退けた。
「Darn! うっせえなぁ! 俺に関わるなっ!」
そう怒鳴ると、男子学生は驚き、思わず後ずさる。
その隙に、カークはメインストリートを駆け足で通り抜けた。
(最悪だぜ。あんなのに関わるのはゴメンなんだよ……)
今度昼に食堂へ行くときは、メインストリートを避けようかなと、カークは思ったのだった。
――――――――――――放課後。
「はぁ。やっと今日の講義終わった」
放課後。カークは1人、大学の中央にある広場でくつろいでいた。
「よっ! カーク君!」
そんな彼の目の前に譲葉が現れ、声を掛けてきた。
「おっ、ゆーずぅ。お前も講義、終わったん?」
「うん! あと、昨日はありがとう。李緒さんによろしく言っといて」
「分かった」
カークがそう言うと、譲葉は彼のそばへと歩いてきた。
「そう言えばカーク君って、留年? してるんだっけ?」
「ああ、そうだが?」
「何で留年したの? 勉強さぼったの?」
譲葉は、カークが留年した理由を知りたいようだった。
「いや。講義はちゃんと出てたし、講義についていけてもいた」
「じゃあ何で?」
譲葉は更に尋ねる。
「謹慎食らったんだよ。暴力沙汰起こして。半年停学で単位取れなくなって……んで留年だよ」
カークはさらっと、彼女の問いに答える。
「えっ? 暴力沙汰? いったい何で?」
「……それは言えねぇ。今となっては終わったことだし、思い出したくもない」
しつこく聞こうとする譲葉に対し、カークは面倒臭そうに言った。
「ふーん……そっかぁ。教えてくれないんだぁ。せっかく助けてもらったんだから、私も何か、カーク君の手助けをしたいと思ったんだけどな~」
譲葉はジト目でカークを見つめた。まるで憐れむような眼だ。
「……悪かったな」
譲葉の不満そうな様子を見て、カークはため息をつく。
すると、彼と目が合っている少女の顔は、たちまち元に戻った。
「……まあ、いいよ。カーク君が嫌だって言うなら、しつこく聞いたりはしないから」
「そうか。ありがとう」
カークは譲葉に気の毒なことをしたなと思った。
「そろそろ、帰る時間だよね。途中まで一緒に帰らない?」
「そうだな……OK。帰ろう」
カークは譲葉と共に、正門へと歩き出した。
――――――――――――夕方。
夕方。カークと譲葉は大学から出て、地下鉄の駅へと歩いていた。
(ん!? あれは……)
駅への途中にある交差点に差し掛かったところで、彼は思わぬものを発見した。
……歩道橋の柱。その影。人目に付かないところに、黒い穴が開いていた。
「あれって、異空間だよね?」
譲葉も目の前の異変に気付く。
異空間の入口は、その場から動くことなく静止している。二人が目の前に立つと、柱に開いた穴は少しだけ大きくなった。
「入れってことなのかな」
「だとは思うが……どう考えても罠だろ、っていうか入る奴がいるかよ」
「でもこのまま放っておくわけにもいかないじゃん? どうする? 行く?」
「うーん……」
カークが迷っていると……。
「あら? カーク、譲葉?」
カークの背後から、アレクシアが声を掛けてきた。
「む、アレクシアか。見ての通り、ここに異空間の入口がある。それを見ていたんだけど」
カークはアレクシアに、目の前にある異空間について説明した。
「ふーん、そう」
彼女は一言そう言うと、何の迷いもなく黒い穴に入ろうとする。
「あ、アレクシアちゃん?」
しかし、彼女は譲葉の声に耳を貸すことなく、そのまま異空間へと入って行ってしまった。
「入って行っちゃった。どうする? 追いかけようよ!」
「……こうなっちまったらそうだな。行こう」
カークと譲葉は後を追うように柱の穴へと飛び込む。
その直後、穴は急速に縮んで、消えた。
――――――――――――異空間(悪魔の屋敷)。
「2人共。……どうして、ついて、きたの?」
カーク達が異空間に入って最初に見た姿は、アレクシアの後ろ姿であった。
「いや放っておけねぇだろ。なぁ?」
「まぁ、そうだよね。……放っておけないでしょ。危ないじゃん」
互いに顔を見合わせ、示し合わせるかのようにアレクシアの問いに答えるカークと譲葉。
「……まぁ、そうね。貴方達、なら、そうする、わね」
アレクシアはカーク達の方を向いた。
「んで? どうすんだ? っても、やることは一つか」
「そうだね。奥に行って、怪物を倒そう!」
「ええ」
3人は奥へ進み始めた。
今回の異空間は、何らかの建物の中であった。といっても、前に入った書庫のような場所とは違い、西洋風の屋敷……その廊下のようであった。廊下は白い壁紙が張られ、床は赤いカーペットらしきものが敷かれている。壁には一定間隔で蝋燭のような灯りが灯っており、壁に窓は一切ない。
カークが後ろを振り返ると、そこには真っ暗闇が続いていて先が見えない。
一方で前方は灯りが続いており、先の方があるようだ。
「後ろは真っ暗闇で、前は明るい。……前に進むか?」
カークは2人に問いかける。すると。
「……前で、いい。……前の方に、気配を、感じる」
アレクシアは即答した。
「気配? 怪物の気配のこと?」
「……」
譲葉の問いに、アレクシアは難しそうな顔をして沈黙している。
「まぁ、とりあえず、前に進むか。真っ暗な方に進むのは危なそうだしな」
「そうだね。進もっか」
アレクシアの意見を信じ、3人は明るい方へと進んでいった。
――――――――――――。
そのまま奥へと進むと、やがて廊下の幅が広くなり、開けた場所に出る。広くなった廊下の突き当たりには、両開きの大扉があった。
「……」
その扉を見て、アレクシアは考え込むような仕草をした。
「どうしたの? この奥に、怪物居るとか?」
「……ハズレ、ね。怪物本体は、おそらく、居ない」
「本体は居ないってどういうこと?」
「この奥……いるのは、おそらく、眷属。怪物本体、は、この空間には、居ない」
アレクシアは扉を見つめた。
「怪物自体がいねぇって、それじゃあどうやって出るんだ?」
今まで異空間から外に出たときは、決まって怪物がいて、それを倒すと空間から脱出できていた。カークはアレクシアに問いかける。
「眷属が、独自に、空間を、持っている。そんな、感じ? かしら。だから、多分、奥にいる眷属? を倒せば、出られる」
「成程……。それで、怪物がいねぇってことは、ここをこれ以上探索しても」
「意味、無いわね。……本体がいる、空間を、探す必要が、ある」
彼らの今回の探索は、無駄足に終わりそうだ。
「まじかよ……。まぁ、しゃあねぇ。とりあえず、奥の倒して、ここ出るか!」
「ええ」
「そだね。おっけー」
3人は扉を開いた。
――――――――――――異空間 最深部(悪魔の屋敷)。
扉を開けてカーク達が辿り着いた場所は、八角形型のダンスホールであった。白・黒・灰色の四角い模様の石のブロックが配置されているが、それらの表面はよく見ると歪で、どことなく安っぽい造りだった。
また、部屋の壁面にはレンガのような模様をした壁紙が張り付けられており、それらは所々傷が付きめくれている。天井は二等辺三角形型の塗装されていない薄っぺらな合板が頂点で繋がり、中央部が高くなっている。天井まではおよそ7~8mといったところか。
そしてそんな部屋の中央には、コウモリのような翼が生えた、青紫色の球体が浮かんでいた。球体の中央には、一つの目。球体の下からは尻尾のようなものが生えている。
特筆すべきはその大きさ。球体の大きさは直径2mほどで。翼は幅4mほど。それほど巨大な何かが、カーク達の目の前で羽ばたきしていた。
「あれが怪物の……眷属か?」
カークはアレクシアに問いかけると、彼女はこくんと首を縦に振った。
「なるほどね。んじゃ、こいつ倒せばいいってことね! ムムムーっ!」
譲葉は右手から氷弾を生成し、それを羽ばたきしている存在目がけて発射する。
すると氷弾は怪物にクリーンヒット!
眷属はそのまま床に落下すると、黒いもやのようなものを出しながら消滅していった。
「やった……のか? っ、Whoa!」
「っ!」
「っ……」
眷属が消滅すると同時に、カーク達の視界が歪んでいき……そして真っ白に染まった。
――――――――――――夕方。
その後現実世界に戻ったカーク達は、一旦別れて家に帰ることにした。
いずれ怪物の本体にも遭遇するだろう。だがそれは、今では無い。
「また、ね」
「またねー!」
「またな!」
3人は各々帰路に着くのだった。
――――――――――――夜。
「なるほど。怪物の眷属が……」
「そうなんだよさっちゃ」
夜。カークは居間で桜散と会話しながら夕食を取っていた。居間のテレビでは行方不明事件についてのニュースが報道されている。
「早速、調査対象が現れたな」
「だな」
カチャカチャと食器を動かしながら、時折やり取りをしながら料理を食べる2人。今日は家に2人きりだ。
「……今度は私も呼べよ?」
「Ah……分かってる」
桜散の声色は、心なしか穏やかだった。
カーク達は食事を終えると、各々の部屋に戻ったのだった。
その後数日が経過したが、これといって何かが起きるということは無かった。
カークから話を聞いた桜散も、時折カークや譲葉、また運よく見かけたときはアレクシアや総一郎も交えつつ異空間探しを試みたものの、カーク達が最初に異空間を見かけた場所には既に何もなく、何の手掛かりが得られぬまま平穏な日常が過ぎていった。
24日目
――――――――――――朝。
そして迎えた休みの日の朝。カークは自力で起床すると、そのまま桜散の部屋の扉の前に向かった。
「おーい……さっちゃー……」
「う、うぅ……」
扉を叩くと、桜散の気だるげな声がする。
「大丈夫か?」
「あー……ちょっと気分が優れん。そっとしておいてくれないか……」
「OK、分かった」
カークは階段を下りて1階に向かう。
居間に入ると、李緒が何やら料理を作っているようだった。
「あら? 桜散ちゃんは?」
李緒は桜散の不在を訝しむ。
「気分が悪いんでそっとしてくれって」
「そう。……多分あれね」
「あれって?」
「……女の子の」
「あぁ……」
そこでカークも察する。
いわゆる、月一の『あれ』だろうと。
「ほらっ! 先に食べなさい」
「Ah……分かった」
カークは李緒に促され、自分の朝食の取り分を取りに行くのだった。
朝食を食べたカークは家を飛び出し、近場のいつもの公園へと足を運ぶ。
「あっ、ゆーずぅ!」
すると、ベンチに譲葉が1人腰掛け寛いでいた。
「あっ、おはよ! カーク君!」
カークに気付いた譲葉は挨拶を返した。
「今日は何の用で?」
譲葉の家から見ると、随分遠い場所にある公園。カークは理由を問う。
「うーん……前にも言ったけど、ほんとに気に入っちゃって」
「本当に気に入ったんだな……」
「うん! 特に、これ! この遊具! これが気に入ったんだよね~!」
譲葉はそう言いながら公園の一角にある遊具に取りつき、登り始める。
彼女が登っているそれを一言で説明すると、ロープで出来たジャングルジムだ。臙脂色の太いロープが網目状に結ばれ、全体のシルエットは三角錐型だ。
およそ5~6mはあろうかという頂点付近に、譲葉はあっという間に登って見せる。
「こういうの、家の近くには無くて、始めて見てさ!」
「なるほどな……」
カークは井尾釜の他の地域には詳しくないが、譲葉にとっては余程目を引いたのだろう。……わざわざ地下鉄を長く乗り継いで遊びに行く程度には。
「どう? カーク君も登らない?」
「Eh……俺は遠慮しとくよ」
「えーどうして? 風が気持ちいいよ? だめ?」
「……Ah、分かった! 登る!」
カークは高くて不安定な場所が怖いのと、周りの目が気になったため登ることを躊躇していたが、譲葉に煽られ渋々ロープに手をかける。
そして、譲葉ほど高い所ではないものの、ある程度の高さまで登り、ロープに腰掛けるように座った。
「確かに気持ちがいいな」
「でしょ~?」
2人はそうしてジャングルジム遊びに興じた。
「そういえばカーク君に聞きたいんだけど」
「あん?」
「桜散ちゃん、初めて会ったときってどんな感じだった?」
ジャングルジムを降りた2人は、ベンチに腰掛けて会話を始める。
「Uhm、初めて会ったとき。そうだなぁ……」
カークは桜散と初めて会ったときの様子を回想する。
――――――――――――。
『ねえ、母さん。その子が、母さんの言ってた子?』
カークは李緒に連れられて家にやってきた少女を見る。
『そうそう。桜散ちゃんっていうの。家の隣に住んでた』
『……』
少女は李緒の後ろに隠れるようにし、下の方を向いている。
『ほら、桜散ちゃん。この子は、私の息子、カークよ』
李緒に促された少女は、カークの方を恐る恐る見ながら、ブツブツと言葉を紡いだ。
『カーク、君? 私は、住吉、桜散って言います。よろしく、お願いします……』
『あ、ああ。俺は、カーク。よろしくな、桜散ちゃん……』
それが、カークと桜散の出会いであった。
――――――――――――。
「なんつーか、思えば最初に会った頃はもっと女々しい感じだったな」
「女々しい?」
「うん。弱々しくて、今にも消えてしまいそうな儚さがあった」
当初の2人はやり取りすらおぼつかない状態だった。
それが高校を卒業した頃には、互いにずけずけと物を言い合う気の置けない関係になっていた。
「そうなんだ。私の印象としては桜散ちゃん、結構繊細な子なんじゃないかなって思うよ?」
「それは俺も思う」
彼女が見慣れた家族の一員となったのがいつだったか、カークも思い出せない。
特に明確な切っ掛けもなく本当に少しずつ……3年かけて変わっていったのである。
「……気をつけなよ?」
「……分かってる」
旧友の忠告に、カークは自分に言い聞かせるように頷くのであった。
「それじゃ、またね!」
「ああ、また!」
しばらくして、カークは家への帰路に就いた。
――――――――――――午前。
カークが公園から家に向かって歩いていると……。
「Whoa!? 何だ!?」
突如、目の前から突風が吹きつけてくる。
思わず両手で顔を覆うカーク。
そして風がやみ、両手を顔から話すと、そこには。
「こんにちは、カーク」
「アレ……クシア……」
カークの目の前にはアレクシアが立っていた。
「貴方に、警告、ある、の」
「Hh? 警告……?」
物々しい言い方で語り掛けてきたアレクシアに、カークは困惑する。
「そ」
アレクシアは首を傾け、カークを目線の下から覗き込むような姿勢のまま、カークの周りを歩き始める。
「貴方を、狙っている。……あるいは、見ている、者が、いる」
「俺を……狙っている……?」
自分の周りをグルグルと歩くアレクシアの言葉を聞いたカークの脳裏には。
(っ……)
突如、思い出したくない記憶がよぎる。
――カークを尾行する、白衣の連中。
――自治会の裏側に居た……彼の停学のきっかけになった忌まわしき者達。
――そして変な男達に絡まれ、彼女らしからぬ怯えた声色を発する桜散の姿。
(Darn it!)
カークは下を向くと、そのまま歯を噛みしめた。
「だから、気をつけて、カーク。……カーク?」
顔を下に向けたまま固まったカークを心配するように、アレクシアはカークの顔を覗き込んだ。
「A……Ah……わ、分かった。分かったよ。……気をつける」
カークはそっと自分の顔を覗き込んできたアレクシアから離れた。
その後、カークは家への帰路に就くが……。
「……」
カークの後ろを、無言で付いてくるアレクシア。
(っ……)
付いてくるな、もしくは何故付いてくるんだ。
その一言をカークは言い出せず、アレクシアの尾行をなすが儘にしていた。
そうこうしているうちに家に着く。当然、アレクシアはカークの後ろに付いたままだ。
「Ah、Ehっと、だな。アレクシア、なぜ、俺に付いてきたんだ?」
流石に無言のままでいられなくなったカークが問う。
「……お邪魔したい、のだけど、いい?」
「わ、悪くはない……」
そうならそうと、言って欲しかったとカークは感じた。
カークとアレクシアは家の中に入ると、そのまま居間へと向かう。
「ただいま~……」
「お、帰ってきたかカーク……ん?」
すると、上の階から降りてきた桜散と出会う。
当然、カークに付いてきたアレクシアの姿を見て訝しむ桜散。
「あ、さっちゃ」
「こんにちは。……桜散、お邪魔、してるわ」
カークの言葉に割り込むように挨拶をするアレクシア。
「「……」」
しばらくの間、互いに無言で向き合う2人。
(……気まずいなぁ)
凄まじい緊張感と居心地の悪さがカークを襲った。
「「……」」
(い、生きた心地がしねぇ~!)
そうして沈黙が数十秒ほど続いた後だろうか。
先に桜散が、口を開いた。
「……その……よろしく」
「……よろしく、桜散」
沈黙から垣間見えた緊張感に反し、穏やかな声色で挨拶を交わす2人。
(ほっ……。よ、良かった。何とか、なったみたいだ。)
そしてそれを見て、カークの緊張はようやく解れたのだった。
「また、ね。カーク、桜散」
その後しばらくカーク宅に滞在した後、アレクシアは家へと帰っていった。
「なぁさっちゃ。アレクシアとは、どんな話をしたんだ?」
自分が少し席を外していた後戻ってみると、2人が何やら話をしているようだったため、カークは気になって桜散に尋ねる。
「そうだな……秘密、とだけ言っておこう」
「秘密? てっきり魔術に関することとか、聞き出そうとしてたのかと」
アレクシアについては不明点も多い。敵なのか味方なのかも、現状。
だが桜散の口から出てきたことは、以前の彼女からは全く考えられないような落ち着いた、冷静な言葉だった。
「いや? 特にそういう話はしてないな。魔術についてもこちらから話題に出すことは無かったし、向こうからも特に、何も」
「What!? いや、でも……怪しく感じたりはしなかったのか?」
桜散は見知らぬ人間に対し猜疑心を抱く性分である。
そのことを知っているカークにとって、桜散があまり面識のないアレクシアととりとめのない会話をしたらしいという事実は、信じがたい物であった。
「確かにカークの懸念も一理あるし、彼女が完全に白だとは思っていないぞ? ただ現状彼女は私達に何もしていないし、それに譲葉ちゃんとは仲良くやっているそうじゃないか。何もしてこなくて、かつ譲葉ちゃんの友人となれば、邪険にするわけにもいかないだろう?」
「……そうだな。分かったよ。確かにさっちゃの言う通り、偏見をもって扱っちゃ、失礼だよな。……気を付けるよ」
「だな。……私も、偏見の目で見ないよう、気を付けていかないとな」
「……」
父とのやり取りが頭によぎっているのだろうか。
自分に言い聞かせるかのような桜散の言葉を前に、カークは沈黙した。
「……で、どんな話を? 魔術の話とかはしてないなら、何の話? 日常会話?」
沈黙、したのであるが。
「だから! それが秘密、ということだ。乙女の会話は秘密……特に女の子特有のはな」
「そ、そうか……」
女の子特有の、と言われると、流石にカークも無理して聞こうという気にはなれなかった。
その後しばらくして、家に帰ったアレクシアと入れ替わるように李緒が帰ってくる。
そして何事もなく、ゴールデンウィーク最初の1日が終わった。
25日目
――――――――――――午前。
日曜日の朝。カークはいつものように桜散に起こされたのち、自室で一人、ネットサーフィンをしながら過ごしていた。
(ゴールデンウィークだけど、やること変わんねぇな……)
今日は4月29日。……本来は祝日だ。なので明日も振替休日で休み。
そして火水を挟んで、木金土日の4連休がある。
したがって、今年のゴールデンウィークは7日間だ。
だが、カークは特に何かすることもなく、いつも通りの休日を過ごしていた。
(これで、いいんかな……?)
カークは迷うも――。
(いや、なるようになるだけだ! さて、次は……)
そのままあてもなくインターネットの海を彷徨い続ける。
(行方不明事件……は、特に目立った新情報はないか……)
ネットの波に乗って進む中でカークは、行方不明事件や魔術についても調べる。
(魔術もネットで調べても、俺達と関係ありそうな情報、なさそうだな……)
だが、ワードを入力して得られた情報は、彼の既知の範囲を超えるものではなかった。
(腹減ったな……)
そして空腹感を覚えたカークはPCをスリープ状態にし、部屋を出て1階へと降りた。
――――――――――――午後。
(さて、何か面白い情報無いかな……)
居間で昼食を食べたカークは、引き続きPCに向き合おうとする。
すると突如、机に無造作に置かれた携帯端末が振動する。
「ん? メールか?」
着信音からメールと判断したカークは差出人を見る。
「ゆーずぅ? 珍しいな」
メールを送って来たのは譲葉であった。
早速、内容を確認する。
『題:GWの予定について 本文:カーク君、こんばんは。今ゴールデンウィークだけど……暇? 暇なら何処か、遊びに行かない?』
彼女からのメールは、ゴールデンウィークの誘いであった。
(どうすっかなぁ……)
カークは悩む。
(面倒だよなぁ)
正直なところ、面倒臭いという感情が先行する……。
だが一方で、こうも思っていた。
(でも、このまま惰性でネット見ながら過ごすってもなぁ。ゆーずぅの誘いに乗るのも、悪くはねぇか……)
そして迷った末に、彼が下した結論は。
『題:Re:GWの予定について 本文:ゆーずぅ、こんばんは。連絡ありがとう! いいね! どこか、一緒に遊びに行こう!』




