97 パートナー
「使い魔ねえ。
よもや麻代ちゃんに先を越されるとは思わなかったわ」と、小夜さん。
「聖獣がこれほど早く生まれるなんて誰も思っていなかったのよ。
普通の獣を使い魔にしたってあっという間に死んでしまってろくに教育も出来ないもの。
ルオルの場合は転生だから早かったのかもしれないけど、この子は普通の猫だったんでしょ?
ただ、まあ普通の動物の中にも変異種っているからね。
魔素のせいかしらね。
これから次々と聖獣が生まれて来るのかしら」
小夜さんは大魔女様に抱きしめられて嬉しさに蕩けそうなルオルを見やった。
ルオルを連れ帰ると大魔女様はとても喜んでくれた。
触れる事で一瞬にして再契約を果たしてしまう。
死によって分かたれても絆は繋がっていたのね。
「スノーを見た時、とても懐かしくて嬉しかったの。
この子だって思ったわ」
「とても相性が良かったのね。
本来、聖獣と使い魔契約をする時は、こんなに簡単じゃないのよ。
何度も何度もアプローチして、中には戦って勝利する事を求められる事さえあるの。
でも、麻代ちゃんは目を合わせただけでお互いをパートナーだって確信したんでしょ?
それって、とても稀な事よ」
人を怖れ嫌っていた事など嘘のようにスノーは我が家の居間のソファーの上で寛いでいる。
真っ白の毛並みはとても綺麗でフサフサスベスベ。
野良暮らしをしていたなんて嘘のように蚤もダニも飼っていなかったし、肉球も硬くなる事も無くプニプニだ。
まだ、誰も魔法を教えて無いのに自分を綺麗に保つ魔法は自然に使っているし、身体強化の魔法は始めたばかりの私より多分上手いと思う。
まだ尾が3本の聖獣としては上出来らしい。
使い魔はペットでは無い。
マスターと呼びかけられていても召使や、ましてや奴隷のような物でも無い。
使い魔は生涯唯一無二のパートナーだ。
一生の内にたった一匹だけ持てる使い魔をその寿命の差から失ってしまった大魔女様の喪失感は如何だったろう。
普通の魔法使いなら寿命は3千年位なもの。
聖獣である使い魔とそれほど寿命は変わらないのだが。
ただ、魔女になればさらに寿命は延びる。
主の命数に連動するとは言うものの大魔女様のような寿命だと使い魔の方が先に命数を使い果たしてしまう事になる。
だから、本来なら私のような若さで使い魔を決めてしまうのは早すぎるのだそうだ。
でも、出会ってしまったのだもの。
生涯の運命の相手に。
魔法使いが使い魔を持つ事はけして良くある事では無いのだそうだ。
それは、聖獣の使い魔が見つけられないのではなく、それを失う事を怖れるからなのだとか。
けれども、運命と言う物がある。
この街の魔法使いさんの中にも数人は使い魔を持っていたと言う。
それらは魔素が少なくなった時代では聖獣では無かったのだそうだが、それでも魔法使いさんの命数を受け、普通の動物としては考えられない程の長寿であったのだそうだ。
その子達は魔法使いさんより先に寿命で死んだのではなく、彼等が殺された時に残して来てしまったのだとか。
家族よりも近しいパートナーを残して来た事が心残りだけれど、主を無くした使い魔が普通の動物だったから、すぐに死んでしまっただろうという事だった。
「普通の動物と言っても、長年魔法使いと共に生きて来た使い魔が普通である訳がないのだけれどね。
主を失った使い魔が都市災害級魔獣並みの大被害をもたらして自爆したなんて事を何度か聞いたわ。
まあ、私は全然同情なんてしなかったけどね」と、小夜さんは言いました。




