91 聖獣
「人間以外はね~、魔法を使うには条件が厳しいかな。
ドラゴンなんて居ないわよ。
麻代ちゃんの心配は、トカゲや蛇なんかが魔素で進化してドラゴンみたいな神話的な生き物にならないか、でしょ?
由紀ちゃんの書いた童話に出て来るドラゴンは全部魔獣よ」と、小夜さん。
最近、私は本を読んでいます。
以前は本を読むとすぐに眠くなったんですが、最近は楽しんで読むようになりました。
少しは知性が上がったのかしら?
図書館に行くまでも無く、我が家には由紀ちゃんの本は沢山あるのでまずは童話から攻めています。
童話と言っても大人が呼んでも楽しめるファンタジーですが、実は由紀ちゃん達の前世のノンフィクションなんですよね~。
そこで、沸き起こったのが動物は魔素の影響を受けないのか、と言う疑問です。
由紀ちゃんの本にも動物が魔法を使うシーンなんて出て来ないんですよ。
動物も同じ魔法世界の住人なんだから魔素の影響を受けないなんて思えないんですが。
「魔法を使うには一定以上の知性と想像力が必要なの。
だから、生まれたての赤ちゃんは魔法を使わないわ。
考えても見なさい。
お腹の中に居る赤ちゃんが勝手に魔法なんて使ったらお母さんは危ないどころじゃ済まないわ。
魔法を使うようになるにはある程度知性が育って、想像力を持つようになってからね。
でもね、あちらの世界には聖獣と呼ばれた生き物が居たのよ。
その形は様々。
動物が濃い魔素の影響で変異したものと言われていたわ。
一定以上の知性を持つにいたった動物が魔法の力を持って長生きして、体も同種の動物より大きくなって、その内喋ったりするらしいわ。
私が生きていた時代にはすでに魔素が減り始めていたせいか自然には居なかったんだけどね。
多分、その聖獣達が使うのは内循環系魔法。
聖獣が外放出タイプの魔法を使ったなんて聞いた事無いもの」
「妾のルオルは火魔法を使ったぞ」
話に割り込んで来たのは大人しくソファーでジュースを飲んでいた大魔女様。
「ああっ、大魔女様の使い魔でございますね、あの有名な。
転移魔法と影魔法を使って大魔女様の御使いをしていたと言う」
「うむ、可愛い黒猫じゃった。
猫と言うてもこちらの猫と違って体つきは胴を引き延ばして足を短くしたような姿でな、鼬とか貂に似た姿じゃったな。
そうそう、聖獣はの、扱う魔力量が増えると尾が一本ずつ増えるのじゃ。
妾のルオルは長生きしておったので、寿命で死ぬ頃には尾が7本にも増えておった。
寿命だと思っておったが、もしかすると魔素量の低下が原因だったのかも知れぬな。
内循環系の魔法だけならもう少し長生きしたやも知れぬのに」と大魔女様はしんみり。
「いえいえ、大魔女様。
聖獣が7本以上の尾を持っていたなどと言う記録はありませんもの。
きっと寿命でしたのでしょう。
たしか、5千年生きたのでしょう?
人の魔法使いでさえ、5千年生きる者は多くは有りませんわ」
「そうですわよ、お母様」
お茶を持って来た由紀ちゃんが皆に新しい紅茶を淹れながら言った。
「私がルオルと暮らしたのは500年ほどにすぎませんでしたけど、相当なお爺ちゃんでしたわね。
でも、私の事を孫みたいに可愛がってくれました。
ルオルにとってお母様は母親、でも、お母様の子供である私は孫なんですよ。
つまり、それだけ歳を取っていたという事ですわ」
また、魔女様達の昔話が始まりそうです。
冬は夜が長いですからね~。
う~ん、使い魔か~、魔女には使い魔ですよね。
この魔法使いの街には妖精は居ますが、ペット的な動物はいないんですよ。
まあそうですよね。
魔法使いの寿命から考えたら、あっという間に逝ってしまう儚い生き物に愛情を注げば悲しみも大きくなりますもの。
地球にも聖獣が発生するでしょうかね~。




