89 アイテムボックスが欲しい
「今度は何を作ろうとしているのかな~?」
小夜さんが後ろから覗き込んで来る。
最近、小夜さんと行動する事が多いのに、我が家に帰っても小夜さんったら当たり前の顔をしてうちの居間に居ます。
我が家の広い食堂にはいつの間にか椅子の数が増えて、ご飯はお隣の小夜さん家の3人がこちらに来て食べるようにいつの間にかなっちゃってました。
実は昨日からまた『一つ屋根の下』に住んで居るんですよ~。
由紀ちゃんがお料理上手な上にお料理が大好きで沢山の人に振る舞う事も苦にならないと言う人だから総勢7人の食事の用意も軽々熟しています。
家事魔法があるので時間もさほどかかりません。
食後の皿洗いもあっという間に使った食器も調理器具も磨き上げられて片づけられます。
最初は恐縮していたフラウさんも最近は由紀ちゃんに日本料理を習ったりしています。
こうなっちゃったのは、日本育ちの小夜さんの舌が、フラウさん任せのお料理が外国風や前世風ばかりだった事に馴染めなかったせいでもあります。
だったら、また一緒に住めば良いのにと私が言うと小夜さんはさっさと我が家と小夜さんの家をくっ付けてしまいましたよ!
魔法って凄いです。
何でも有りなんですね。
まるで、パズルのピースを取り換えるみたいに間取りを変え、家同士を寄せてちょっと増築して繋いじゃいました。
元2軒の家だったなんて信じられない程違和感無く最初からそうだったみたいに一軒になってます。
だから、同じ屋根の下と言う訳です。
私の部屋は小夜さんの家から反対側の端にあったので変わりませんでしたが、小夜さんの家に有った元の私の部屋は家がくっ付いたせいで窓の位置が変わった上に今まで窓の外だった位置に別の部屋が出来た事になります。
段差も何も無しにきちんと出来あがっています。
私の住んでいる家と小夜さんの家は大工さんも違うはずなんですが~?
「収納バッグが使い辛くって」
私は書き散らした魔法陣や術式を小夜さんに見せました。
「だから、アイテムボックスみたいなのを作りたいの」
「ゲームのアイテムボックス?」
なんと、小夜さんはアイテムボックスの意味をすぐに判ってくれました。
ゲーム、やった事があるのかな~?
「キッチリ管理して、色々入れちゃった物が迷子にならなくしたいんだけど、空間に枠を作って入れるとか、色々考えているんだけど、無駄が多いし、出すためのタッチパネルみたいな物は考え付いたんだけど・・・」
「亜空間収納自体が新しい魔法だから、他の魔法使いは当てにならないわよね~」
「そもそも、亜空間と言う物はどういう定義なのだろう?」
突然会話に参加して来たのはトミー君。
いえ、夕飯の後でオネムになって、コクリコクリしていたトミー君と代わったタークさんでした。
「マヨの作った箪笥を入れる大きな袋は箪笥二つを入れても中でぶつかり合う事が無かったのでしょう?」
「あ・・・・」
そうなんです。
拡張バッグの中身はどんなに乱暴に扱っても中身がぶつかり合って壊れちゃう事はありません。
保存魔法のせいかとも思っていましたが、保存の術式を取り除いた式でも同じでした。
ただ、中身の保存状態が時間経過を受けるだけです。
「入れる物毎の別の亜空間?
じゃあ、大きさの制限を受けちゃうのは何故かしら?」
「式で制限をかけているのではないでしょうか?」
「・・・・」
ガンっと頭を殴られた気がしましたよ。
「いえいえ、これは私の勝手な想像ですから、そんなに真剣に受け取られても」タークさんが慌てます。
「そうかも知れない。
式が無ければ拡張陣が有り得なかったと言う事実もあるんだけど、タークさんの意見が核心をついている気がするわ」
まるで、神様がこれ以上はいけませんよって制限を設けているみたい。
私は口に出さずにそう思った。




