83 外伝13 説明会
私は小さな家電の会社を経営している。
60のジジイだがまだまだ現役だ。
親の代からの会社だが、二代目社長にしては上手くやっていると思う。
ただ、妻との間に子は出来なかったので三代目は養子を迎えねばならんのだろうが、なかなか踏ん切りがつかない。
血筋にはこだわっていないので、我が社のような小さな会社でも良いと言ってくれるそこそこ能力の有る者を選ぼうと思っている。
会社を潰して今の社員たちを路頭に迷わす訳にはゆかんからな。
大手さんにはガチで競争したって到底敵わないので大手さんが目を付けて無い隙間的な製品を主に作っている。
たまにそれがヒットして大手さんが追随して来る事もあるが、私としてはうちのような小さな会社からアイデアを奪わなくてもと思うんだが。
魔法世界とやらになってから、世間は何やら祭りの日の様に浮ついている。
我が社でも若手の社員の何人かが魔法に目覚めたのだそうだ。
そんなある日、我が社に政府からの招待状が届いた。
これからの家電業界の行く末を決める大切な説明会だそうだ。
たちの悪い冗談かと思ったんだが、若手の社員が先日オープン魔法教室とやらに行ってとんでもない製品を見たそうだ。
水も電気も要らない洗濯機だの、棚ごとに温度設定を変えられる冷蔵庫だのだとか。
普通の戸棚のようなのに、中には湯気を立てている料理とソフトクリームが冷めもせず溶けもせず並べて入れてあったんだそうだ。
そんな製品が出て来たら家電業界は全滅だ。
それを防ぐために政府がこの説明会を開催したんだそうだが。
そして、参加してみて驚いた。
雲の上の存在の大手メーカーの社長がズラリと顔を揃えている。
世界的な大手でも、うちのような小さな会社でも等しくチケットは5枚。
うちは社員も少なくて、私と工場長と製品開発部の二人の四人しか参加しなかったんだが、はてもう一枚のチケットは何処へ行ったのかな?
そうしていたら、妙な侵入者がつまみ出された。
隣に居た開発部の若手が妙にソワソワしている。
おまえ、まさか・・・。
「空間系の魔法陣で内側を10倍に広げてあります。
広さでの10倍では無く、縦横幅をそれぞれ10倍にしてあるので、見かけは縦10センチ横15センチ厚みが2センチの小さなウエストポーチが実際は縦1メートル、横1.5メートル、幅20センチの空間が此処にある訳です。
ちょっとした旅行鞄より大きいかもしれませんね。
ウエストポーチ一つで海外旅行位行けちゃいますね」
現れた時にはあまりに若くて皆をビックリさせた製作者の女性がテーブルの上に大量に乗せられたこの説明会用に用意されていた製本された資料を次々とウエストポーチの中に入れて見せた。
「今の所、口より大きな物は入らないんですけど、この位なら余裕ですね」
資料を全てウエストポーチに入れ終わると彼女は参加者の間を歩きながらグルーブの人数分ずつを渡して歩いた。
次から次へと小さくて薄いウエストポーチから出て来る資料の束に口も利けない程私を含めた皆は驚いていた。
「この、空間拡張陣は『魔法特許庁』に登録済みですので興味がある方はご覧ください。
これは家電メーカーさんより、鞄屋さんが興味をお持ちになるのではないかと思ったのですが、箪笥などに利用も出来ますね。
此処に有る魔道具の中でも保存庫等は家具屋さん向けかな~?と思っていたんですが。
ただ、空間拡張陣はちょっと高いです。
特許使用料が一つに付き1万円くらいしますよ?」
や、安いじゃないか!
有名なブランドバッグの中には何十万なんて当たり前で、何百万、一千万を超える物さえあるそうだ。
それが、小さなウエストポーチを海外旅行に持って行くスーツケースよりも大きく使える魔法が1万円?
買わない奴なんて居ないと思うぞ。
バッグだけじゃ無くて他の物にも利用できそうだ。
特許という事は特許料さえ払えば誰でも利用できるって事だな。
まだ本題に至って無い説明会の内容が物凄く楽しみになって来た。
創意工夫で頑張って生き残って来た我が社の独壇場になるんじゃないかな?




