75 パパの訪問
日曜日にパパがやってきた。
ママが日曜日にはテニス教室なのでゆっくりできるのだそうだ。
ママはお仕事をしている訳じゃ無いので態々日曜日じゃ無くても良いと思うんだけど、一緒に教室に通っている人の殆どが仕事を持っているので日曜日にしたらしい。
土日が休みのパパだから土曜日には一緒に過ごすのだそうだ。
ママも、以前の様にちゃんと家事をするようになったし、平日は忙しいのかな。
パパは最近、政府が作った魔法学校で臨時講師もしているんだって。
最近のパパは外見の若さもあって凄く生き生きとしている。
ここは家から遠いのにママがテニス教室に行っている数時間のうちに行き帰りが出来るのは、もちろんパパが転移魔法を覚えたから。
飛行魔法も未だなのに、たった一度私が転移魔法で家に連れて帰った経験だけで覚えちゃいました。
まあ、パパも魔法使いだものね。
「パパ、それって錬金術。
私より由紀ちゃんに聞いた方が確かだよ。
由紀ちゃんは世界で一番凄い錬金術師だから」
パパは、魔法が使えるようになった研究員が作る新製品の品質が安定せず、魔力を帯びている事に気付いて相談に来たんだ。
「錬金術?特別な事は何もしてないと思うぞ?」
「だから、調合の時の魔力の注ぎ方や、属性魔法を使ったりするから品質が変わっちゃうのよ。
錬金をやるつもりが無かったら魔力を遮断しなくちゃ。
その人、魔力制御がまだ出来てないんだね」
「魔力制御なんて、一般人の殆ど誰も出来て無いと思うぞ?」
「まあ、ともかく私はまだ錬金術はやってないから。あと100年くらい経って今の術式作成に飽きたらやってみる心算」
「100っ・・・ああ、そう言えば魔法使いは1000年でも生きるんだそうだったな」
パパは驚いたが溜息を吐いて言った。
パパはまだ由紀ちゃん達の前世の世界について詳しい事は知らない。
1000年どころか大魔女様が1万年も生きた事なんて知らないのだから。
「うーん、魔法が使える人が増えて来たから『魔法少女の魔法教室』も魔法制御の回を前倒しして挟んだ方が良いかな~」
効率的に魔法を使うためだけじゃ無く事故を防ぐためにも魔法制御は必要です。
ただ、もっと前にやっても魔法が実際に使える人が少なければ意味がありません。
直接教えるのではない通信教育の弊害ですね。
パパは由紀ちゃんに対する苦手意識は相変わらずですが、ちゃんと頭を下げて教えを乞うていました。
そして、帰る間際に思い出したように綺麗な千代紙で包まれた物を差し出して来ました。
「今、教えている生徒さんから娘さんにと貰ったんだ」
中身は綺麗な小鳥の刺繍のされた白いハンカチだった。
「86歳だけど30前に見える人でね、魔力もかなり高いと思う。
手元が暗いからって光の玉を出すんだよ。
来た時は全然魔法が使えなかったんだけど、魔力を動かして簡単な説明だけで魔法を使い始めたよ」
パパの話より、私はハンカチを見て固まってしまった。
「うーん、パパ。
これって魔道具だよ。刺繍に魔力が宿ってる。
多分、その人ってこのハンカチの在り処を何処に行っても知る事が出来るはず。
ここは小夜さんの結界で今の所、どんな魔法使いでも探知できなくなっていると思うけど。
魔法を習い始めたばかりの人が意図してそんな魔道具を作ったとは思わないけど、もしもこのハンカチを見張っていたら突然存在が消えちゃったと感じると思うよ。
パパ、此処へは転移で来たし」
私の説明にパパは真っ青になっていた。
ここが秘密の街だと判っているのだ。




