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68 外伝10 麻代の母

 ガランと空っぽな家。

実際空っぽな訳じゃ無い。

家具だってちゃんとある今までと同じ家。

だけど、酷く空虚で寂しい家だ。

娘の麻代が居なくなった時もそうだった。

夫とビラ配りなどをして探し回った一年間。

似た娘が居ると聞けば会いに行った。

けれど、どれも違う娘だった。


 時折夫は私を詰る。

お前が麻代をほったらかしにするから。

小さな頃から祖母にまかせっきりで、あんな娘になったのはお前の愛情が足らなかったからだ。

なぜ、部屋から居なくなった事に気付かなかったんだ。

クドクド、クドクド。

そして私は病んだ。

さすがの夫も反省したのかその後は何も言わなくなったけれど、そうなると余計に責められている気がして・・・・。


 夫と寝室を別にした。

私は麻代の部屋を自分の寝室にして閉じこもりがちになった。

夫と話もあまりしない。


 そうしている内に魔法と言う物の存在が話題にのぼるようになった。

もしかしたら、麻代は魔法の力でどこかに行ってしまったのかもしれない。

お隣の奥さんが突然綺麗になった。

私より年上の50歳代だったのに、30歳くらいに見える。

同じ町内の一人暮らしをしている80歳のお婆ちゃんもある日突然40歳代の外見になって物凄く元気になった。


 だから、判っていた筈なのに・・・・。

朝、目が覚めて居間に若かった頃の夫が座っているのを見て悲鳴を上げてしまった。

夫は全く気付いてい無かった様だったけれど、私は夫を追い出してしまった。


 そして、夫は帰って来ない。

あれから、私は泣き続けている。

娘が消え、夫に去られて、もう生きて行く気力も無かった。

もしやと期待して鏡を何度も見たけれど、そこに映るのは泣き腫らしたむくんだ顔の醜い中年女の顔。

私が年寄りで醜いから皆に捨てられたんだ。

テーブルの上の洗濯用ロープを見る。

これを梁に掛けて階段の上から飛び降りたら楽になれるかしら?


 「ママ、パパを追い出しちゃったんだ」

突然声を掛けられて私はハッと顔を上げた。

目の前に麻代が居た。

あの時から幾つか歳を取って娘らしくなった麻代が。

「ママはパパを信じられなかったの?

パパ、ママに追い出されて行くところが無くて小銭入れのお金も使い果たしてあちこち彷徨っている所を保護したわ。

パパが要らないのなら私達の所で保護するけど?」

すっかり大人の顔で麻代は宣言するように言った。


 何言ってるの麻代?

あれから何年も経っているけど、麻代ってこんな事言う子だった?

そんな筈無いわ、麻代は、私の可愛い娘はそんな事言う子じゃ無かった・・・・。

きっと麻代の振りをした偽物よ!

あれ、そうだったかしら?

麻代は酷く冷めた目をした子で、・・・・そう、お祖母ちゃんが悪いのよ。

麻代を甘やかして、私から麻代を取り上げて。

そうよ、お祖母ちゃんが悪いんだわ!

あの頃は私も忙しくて、ついお祖母ちゃんに麻代を任せてしまって・・・。


 「はい、そこまで」

いきなり麻代の顔をした女の子が私の頭を掴んだ。

上げようとした悲鳴が止まってしまった。

「重症ね。まあ私のせいでもあるんだけど。

それでも、ママの自業自得でもあるのよ。

パパはどうしたいの?

このままママを見捨てて私達の所で暮らす手もあるけど」


 居間の入り口から若返った夫が現れました。

酷く疲れている様子です。

着ている散歩用の服もヨレヨレで汚れて幾つものシミが出来ています。

「由梨絵が許してくれるなら今まで通りここで暮らしたいと思うよ」

夫は言います。

「こんなお婆ちゃんなのに!いつか、私を捨てるんだわ!」

私は悲鳴のような叫び声を上げてしまいました。

「ママ、はいこれ」

麻代が、私に手鏡を渡して来ます。

何故かもう麻代に似た娘と言う考えは無くなっていました。

鏡に目をやった私は息を飲みました。

そこには夫と恋愛結婚したばかりの頃の若々しい自分の顔が映っていました。

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