63 パパの事情
パパを連れて家に帰り居間に落ち着いてから事情聴取です。
早朝に家を出で、軽い朝食以外は飲まず食わずでここまでやって来たのでお腹が空いているだろうと由紀ちゃんがサンドイッチを作ってくれたけど、あまり食欲は無いようでした。
パパはいきなり若返ったのでママに追い出されたそうです。
朝目が覚めて、御寝坊のママより先に起きて自分でトーストを作ってコーヒーも淹れて、朝食を済ませてから洗面所で顔を洗ったところまではいつものパパだったらしい。
ただ、朝から気分が落ち着かなかったそうだ。
だから、休日だと言うのに早朝から目が覚めてしまったのだと言ってました。
私が居なくなって1年位は休日毎にあちこちでビラ配りなどしていたのだそうですが、やがて諦めていつもの日常になっていたそうですが、ママは鬱になり医者通いをしていて夫婦の間もギクシャクしていたとか。
私が居なくなった事の責任の押し付け合いの夫婦げんかもしょっちゅうだったらしい。
そして、ママが起きて来て、居間に居たパパを見て悲鳴を上げて、不法侵入者扱い。
パパは何が何だかわからずママを落ち着かせようとしたけれど無駄。
そして、警察に電話しようとするママを見て慌てて家を飛び出したらしい。
幸い、散歩に出ようと着替えていたし、いつも散歩の途中で喫茶店に寄って美味しいコーヒーを呑むのが日課なので財布も持っていたから、ママが落ち着くまで外出しようと思ったそうだ。
ママがヒステリックに騒ぐのは日常化していたから落ち着けば大丈夫と思っていたのだそうだけど、近所の散髪屋さんのディスプレイの鏡に映り込んだ自分の姿を見てママが何故騒いだのか判ったらしい。
そのまま、駅に行き、何故か全く知らない駅までの切符を買い、乗り換えも自然と出来て、一度も来た事の無い田舎の無人駅に降りて、バスに乗り、昔と比べてずっと手前になってしまった終点で降りて延々何時間も歩いて辿り着いたとか。
「魔法使いになっちゃった人を招くシステムに上手く乗っちゃったのね。
居場所がある人には判らない魔法のシステムなんだけど。
昌造君は行き場が無くなったと感じた訳だ」小夜さんが言った。
パパはビックリしたように小夜さんを見た。
見知らぬ美人に名前を呼ばれて凄く驚いているみたい。
「おや、私が判らない?嘉門小夜。
昌造君のお祖母ちゃんの友達なんだけどね」
「嘉門って!
嘉門さん、あなたの息子さんが探してらっしゃいましたよ!」
「私から残った財産をむしり取るためにね。
私が死ぬのを楽しみに待っていた奴など息子とは思っていないよ。
私の命を救ってくれた由紀ちゃんに酷い迷惑まで掛けて。
昌造君、あんたのお祖母ちゃんの由紀ちゃんはね、魔法がやって来る前から本物の錬金術師でしたよ。
由紀ちゃんの作る薬は末期ガンさえ治す事が出来たんだから。
あんたは信じていなかったようだけどね。
酷い息子を持っていた私が人の事は言えないけれど、身内を信じる事が出来なかったのかねえ」
「だから私もパパやママに黙ってここに来る事に躊躇なんてしなかったわ。
私を幼い頃から愛情いっぱいに育ててくれた曾祖母ちゃんに酷い事を言うパパやママなんて大嫌いだったから」
私がはっきり、キッパリと言うとパパは酷くへこんだ。
反対にかみつかれると思っていた私はちょっとビックリ。
パパ、凄く気が弱くなって無い?
『ヴィオルとマヨの身内としては平凡じゃの』
大魔女様に言われて驚いた様に見るパパ。
でも銀髪の絶世の美少女だからビックリしているだけです。
パパには魔法語は判らないので今の所何を言われているのか判りません。
ここに住むのなら言葉を覚えて貰いますが今は判らない方が良いかも~。
なにげに酷い事を言われているのでもっとへこむかも。




