44 妖精の誕生
スイッと何かが視界の端を掠めた気がした。
「また?」
数日前から何か蛍のような物が見える事がある。
蛍はもちろん、自然豊かなこの辺りにはワンサカ居ますよ。
下の沢なんて時期が来たら木々はクリスマスツリーの様になっています。
だけど、もう冬に突入している今、蛍なんて居るはずがありません。
まだ、町の中は暖かいです。
12月の半ばにならなければ殆ど寒さを感じない程に町の結界内は魔法のエアコンディションが効いています。
以前は植物の為に気候は少し和らげる程度で寒い時は寒かったのですが、植物の方を調整して人に優しい気候になっています。
もちろん、結界の外は豪雪地帯のそのままの気候で、時には結界の向こうには数メートルの雪が積もる事もあります。
偽装の為の集落である村は雪に閉ざされていますが重い雪に潰される事が無いように家々は魔法で補強済み。
村人風のゴーレムが雪かき、雪下ろしもしてます。
村の近くの山は小夜ちゃんの魔法でマツタケ山になっているので今年は山ほどマツタケが食べられました。
宗市さんや家族との交流のある人たちは実家にマツタケをどっさり送って喜ばれたそうです。
でも、外国生まれの人達はニオイが嫌なんだって。
美味しいのにね~。
スイ~~~、また何かの光が!
LEDライトのような光じゃありません。
何か、ホヤホヤと暖かそうな・・・。
「どわっ!!」
オッサンみたいな叫び声を上げたのは仕方が無いと思う。
光を追って振り向いたらそこは光の海でした。
何故か、私のお散歩コースに沿う様に光の粒粒がユラユラと穏やかな波の様に揺蕩うています。
「どうしました、マヨさん!」
側の家の魔法使いさんが私の大声で飛びだして来ました。
「オウッ、これは何?マヨさんの新魔法?」
彼にも見えるようです。
「何これ、魔獣?ではないみたいですが、マヨさんの魔力の残滓を食べてますよ!」
彼が念話で連絡したのか、次々と家々の扉が開いて魔法使いさん達が飛びだして来ました。
小夜さんと由紀ちゃんも転移で駆けつけて来ました。
フワフワーと光の粒は風に煽られた桜の花びらの様に舞い上がり空中を乱舞します。
小夜さんが空中の光の粒をサッと手を振る様にして捕え指先で摘みました。
フルフルと震えていた粒は突然プクーっと膨らみ、ポンッと弾けて消えました。
「魔獣の様で魔獣じゃ無いモノね。
人の害にはならないようよ。
空中の魔素を食べてるけど人の魔力にも惹かれるみたい。
麻代ちゃんの魔力が凄く美味しかったのね。
魔素や魔力を食べても一気に食べ過ぎれば今の様に弾けて消える。
今の所、これがどんな物か判らないけど、魔素溜まりで発生するのだと思うわ。
魔獣ほどの魔素は必要無いから魔獣が発生できない濃度を保っているここの魔素溜まりでも発生できたんでしょうね。
人から直接魔力を吸えば弾けて消える。
魔獣がこんな害の無いモノだったら良かったのに」
魔素だけで存在できるけど、人が普段呼吸するように魔素を取り入れ、魔法を使わなくとも魔力として排出するそれが彼等にはとても美味しい物の様です。
ただ、濃すぎれば破裂してしまうので魔法を使っている人には近づかないようです。
人の呼気に惹かれる蚊?
うええーーー、変な物に例えちゃった。
人を刺さないだけ無害なモノのようです。
そう、モノです。どうやら、彼等は魔獣と同じく生き物では無いようなので。
『妖精』と言う呼び名が即座に決まりました。
その名がとても相応しいと私も思います。
「ここは、やはり前世の世界とは違うわね~、こんな綺麗なモノは居なかったもの」
小夜さんが言います。
「もしかしたら、魔獣が全て妖精に置き換わる未来があるかもしれない。
そうだったら、どんなに良いかしらね~」
破裂した妖精は魔核を残しませんでした。
ゆえに、将来的にも狩られる事は無さそうです。




