38 外伝5 少年Aは逃走する
俺は逃げた。
あの日、姉貴に魔法がばれて、自分にもやれと言われて顔のニキビ跡を綺麗に直してやったのがそもそもの間違いだったのかな~。
姉貴はすぐに魔法を覚えた。
ラノベ大好き少女だったから魔法を受け入れやすかっのかも。
でも姉貴、ラノベでは異端者は潰されるか利用されるか、どうせ碌な結果になって無いだろう?
なのに、姉貴は自信満々学校で魔法を自慢して、皆に施術までしてやって、それを金持ちの女に目を付けられた。
その女は顔半分にデコボコとした黒痣があった。
何度か整形手術したけど暫くすると元に戻るのだそうだ。
姉貴はそれを治した。
さすがに疲れたみたいでその日は友達の家に停まると言って帰って来なかった。
それが、高級ホテルのスイートルームに泊めて貰ったのだと後から知った。
姉貴には俺の事は秘密にさせていた。
人から注目されチヤホヤされるのは自分一人の方が良いと思ったのか姉貴は俺の事は人には言わなかったようだけど、派手に動き過ぎた。
週刊誌の記事になり、金持ちの女に高級エステを用意して貰い、あれよあれよと言う間に有名人。
芸能人までやって来る盛況で、姉貴はだんだん疲れて行った。
そして、弟子だと言う名目で俺を駆り出したんだ。
その頃、ネットであの魔法少女たちが大々的に魔法教室を始め、俺にはやっと姉貴の疲れが体内の魔素が回復しきれず枯渇しかけているんだと判ったよ。
だから、断れなかった。
姉貴が死んじまう前に少しでも休ませたかったから。
だけど、あの女は姉貴を煽りやがった。
「あらあら、弟君の方が優秀みたいね。
弟君とも契約しようかな。あんまり休んでると追い抜かれちゃうよね」
それで、姉貴は無理をした。
殆ど枯渇している魔力を無理矢理絞り出そうとして、倒れた。
それなのにあの女は平然としていた。
代わりの俺が居ると思っていたのかも知れない。
命は助かったものの姉貴は錯乱した。
魔力が感じられなくなったと泣いた。
そして、自分の地位を奪う者として俺を罵った。
短い間だったけど、女から浴びせられるように受けた贅沢と言う名の甘い毒が身に沁みついて、それを失う事が耐えられなかったのだろう。
そして、俺は逃げたんだ。
家を、両親を、姉貴を、そして平凡だった普通の生活って言う幸せを捨てた。
着の身着のままで、ポケットの小銭入れはあても無く乗った電車賃とコンビニのパン一つで底をついた。
もう冬が近い風の冷たい街の路地裏で俺は震えていた。
ジーンズと厚手とはいってもTシャツの上に着たフランネルのシャツ一枚。
そう言えば携帯がポケットに入れてあるジャケットは姉貴の病室に残して来たんだっけ。
姉貴に罵られて病室を飛びだして、そのまま病院の裏口から出て・・・・。
ああそうだ、いつもはうっとおしいほどあった監視の目が消えている?
フワリと急に暖かくなった。
肌に刺さるような風が無い。
でも・・・・、路地の奥のどこかの店の物だろう空き瓶や箱を積み重ねている場所に有った何かのセールを宣伝するための幟がバタバタとはためいている。
それを一瞬で見てとった俺がギョッとなって振り向いた時、そこには魔法少女が居た。
ほんの1メートル位の間近に。
「私と行く?」魔法少女は訊ねる。
「何もかも知っているのか?」
監視されていたのだろうかと思った。
「知らないわよ?でも、魔法使いが一人で迷走しているから見に来たの。
魔法使いになったから、家に居られなくなったの?」
「ま、魔法使い?俺が?」
「そうよ、あなたは魔法使い。私と同じ魔法使いよ。
ずっと違和感を感じていたでしょ?
魔素を感じる事が魔法の発現前からあったのだから魔法使いなのよ。
前に会ったでしょ?
あの時はまだ半分しか魔法使いになって無かったから接触はしなかったけど、今は立派な一人前の魔法使いよ。
だから、魔法使いの町に行く?
魔法学校もあるのよ」
差し出された彼女のその手を取れば、もう二度と引き替えせない気がした。
だけど、もう今までの生活にも戻れない。
何よりもあの監視の目に曝されるのはまっぴらだった。
俺は彼女の手を取った。